↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/104

第21章 言葉の真意3

「僕、幸せだったよ……だから、死ぬことなんて――」


「かっこつけないでよ!」


たまらなくなって僕はイアンに言った。目が熱くて、視界がぼやける。胸が痛くて苦しい。


「死ぬのが怖くないわけが、そんなわけがないじゃないか!」


そう言うと、イアンの顔が急に歪んだ。その瞳にじわじわと涙が溜まり、数秒間をあけて、ようやく言った。


「本当は、怖い。怖いよ……。死にたくない。死ぬのが怖いよ。死んだら、どうなっちゃうのかな。また、独りぼっちなの? 怖くて、たまらないんだ」


死をたった一人で背負い続け、弱音一つ吐かずに僕を支えてくれたイアンの本音だった。


「死にたく、ない。カミー、ずっと一緒に、いたい」


そしてまた、激しく咳き込んで血を吐き出した。


「イアン!」


イアンは口を動かすがもう声がほとんど出ていない。僕は麒麟をもう一度見た。何とかしてと訴えた。それでも麒麟は首を横に振り、そんな僕をイアンが呼ぶ。


「カ、ミー……」


僕は涙をこらえながら耳を澄ました。一言も聞き逃すことがないように。


「もし、生まれ変わることが、できたら……また、友達になってくれる……?」


その顔はとても不安げだった。瞼は半分まで閉じて、横目で僕を見るのだ。そんなイアンに僕がかけてあげられる言葉なんて、1つしかない。


「当たり前じゃないか……。だって、僕らは唯一無二の友達なんだから」


声が震えてる。それでも紡いだその言葉を、イアンは聞いて笑った。


「良かった……」


その笑顔は心からの安堵だった。何度も僕は気がつくチャンスはあったのに、どうして僕は気づいてあげられなかったんだ。やっと気がついたのに、イアンの瞼がゆっくりと閉じていく。そして、イアンの体から力が抜け、手が体の上から滑り落ちた。


「イ、イアン……?」


名前を呼んでも、イアンはもうピクリともしなかった。ただそこに横たわっているのだ。


「冗談でしょ? 冗談だよね? だって、僕達これから、世界を旅するって……」


イアンは眠ったように脱力して指一本動かさない。急に現実味がわいて怖くなった。血の気が引いて、足の感覚がなくなった。


「やだ……。やだ。やだよ! そんなのやだよ! 言ったじゃないか! 一緒に世界を見て回って、きれいなもの見て、美味しいものたべて、それから――」





「僕は、カミーと一緒にいられるならどこでもいいや」





ふいにその言葉が鮮明に甦ってきて、僕は言葉を詰まらせた。


「やだ。やだよ……や、だ……」


僕は鼻をぶつけた。何度も何度もイアンにぶつけた。今まで触れてきたよりもずっと重くて、ぶつける度にイアンの体は力なく揺れていた。本当にもう会えないのだと、そう思うと、ぶつけるのも苦しくて僕は歯を食い縛った。そうして、言葉を絞り出すように言った。


「こんなことなら、自由になんか、ならなければ良かったんだ……。どうせこんな風に別れることになるなら、出会わなければよかったんだ……」


イアンに初めて声をかけたのは僕だった。聞こえるはずがないと思って掛けた声。


「こんなことなら、いっそあの時、僕が話しかけなければ……」


そう言いかけて、僕は言葉を切った。


 そんなことはない。だって、一緒にいられた時間は僕にとって大切で、この世界の全てだったから。




初めて声をかけた。


初めて友達ができた。


初めて背中に誰かを乗せた。


初めて空が綺麗に見えた。


そして


生まれて初めて、飛べないペガサスで良かったと思えた。



「もう独りぼっちはやだよ……イアン、僕、どうしたらいいの?」


僕はその場に膝を折って、鼻でイアンを押すように擦りつけた。返事はない。体がただ揺れるだけ。それが辛くて、僕はもう鼻で押すのをやめた。


 大好きなんだ。一緒にいられればそれでいいんだ。だって僕らはお互いが唯一無二だから。この世界で互いがいればそれだけで僕らは十分だったんだ。イアンが笑って、僕が笑って、それだけで良かったのに。イアンがいない世界なんて何も価値がなかった。涙が止まらなかった。胸が痛くて、苦しくて、泣くことしかできなかった。


 レインは声を押し殺して涙を流しながら、そっとイアンの首筋に手をやる。数秒じっとして、そうしてゆっくりと手を離した。そして、首を横に振った。レインは無言でイアンの額に自分の額をつけてから、強く抱き締めた。静まり返る洞窟の中で、すすり泣く声だけがいつまでも聞こえていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。