第19章 死闘3
愛の羅剛神はレインの刀を片腕で軽々と払い、もう片方でレインに向けて剣を振り下ろした。レインは素早く刀で防ぐが、刀を伝ってきた力は悲の羅剛神とは比にならないほどの衝撃で思わず顔をしかめる。咄嗟に軌道をそらしてなんとか体勢を立て直すが、疲労がレインの戦いの邪魔をした。愛の羅剛神と距離をとり、横目でクランと敵の位置を把握してから、再び部下の前に立った。
「状況は?」
「重傷者が4人、救護に向かったものが1人です。今戦えるのは私を含め2人です」
レインがチラリと目をやると、壁の側で血を流す部下がいた。なんとか生かそうとしてはいるが、出血は止まらず力尽きるのは時間の問題だ。
「わかった」
レインは視界に入る2体の羅剛神の様子を窺いながら、小声でクランに尋ねた。
「クラン、体力はどうだ? 残り1体倒す余力はあるか?」
クランも無傷ではない。ところどころ創傷と痣がみられ、息も上がっていた。
「正直、あと1体はかなりキツイ。腕が痺れてる」
「奇遇だな、私もだ。勝てる見込みはかなり低い。……だからもし逃げるなら今しか――」
「レイン」
責任を感じたレインをクランは遮るように言った。
「これは皆がレインのために勝手にやってることなんだ。俺もそうだ。俺は最後までレインと一緒にいる。絶対にお前を置いて逃げたりしない。それは俺が逃げたくないからだ」
レインはクランを見た。羅剛神が威圧感を与えながら歩いて2人に近づく。家族のように想う仲間を死地に送ることに等しい状況だからこそ迷ってしまうレインに対し、言葉に優しさを込めた。
「レインはもう俺達に逃げろっていう選択肢を与えただろ? それでも俺達は自分の意思で逃げなかった。頼りないかもしれないけど、そんな部下を信じてやってくれ。ここで自分だけが生き残る方がきっと後悔する。レインにとって大事な仲間なんだからこそ、後悔させてやらないでくれ。俺達は他の誰でもない、レインについていくって決めたんだ」
そうして、クランは数秒たっぷりと間を空けてから言った。
「なぁ、レイン」
レインが驚いたのは、その声がいつもと違って妙な真剣さを帯びていたからだろう。
「なんだ?」
それに気づかないフリをして毅然とした態度で尋ねるレインにクランは笑顔で言った。
「この戦いが終わったら聞いてほしい話があるんだ。最後までちゃんと聞いてくれるか?」
レインが今まで感じた事が無いような雰囲気を漂わせながら真剣に言うクランに、レインは一瞬戸惑いつつも頷いた。
「分かった。なら、この戦いでますます死ぬわけにはいかないな」
「あぁ。そうだ」
クランが言い終わるのとほぼ同時に、二人の雰囲気は一変した。




