第15章 ごめんなさい5
ただこの男を殺すことに集中する。無駄なことは考えない。頭痛も、過去の記憶も、何もかも忘れて夢中になればいい。
刃を交える度に伝わってくる衝撃。ぶつかり合うたび散る火花。それがあれば安心できる。この感覚なのだ。僕が信じてきたもの。安心できる時間。護ってくれる人間なんていない。いつだって独りだ。だから僕が頼れるのは僕だけなんだ。
少しずつ感覚が戻ってくると、次第に僕の剣がマキノの刀に強くぶつかるようになる。マキノを殺せば僕は戻れる。大丈夫。僕の二刀流は絶対に負けない。マキノの刃はぶつかる度重いがそういう力で押しきるタイプの刃は触れずに避ければいい。力で押すのは初心者だ。問題は大きな力をどう誘導して自分を有利に持っていくか。
「ニール、今からでも間に合う! あいつらはああ見えて本当は優しくて仲間想いのやつなんだよ。一緒に引き返してやり直そう! 人生は、何度だってやり直せるんだ」
「うるさい!」
「やり直したい時は、素直な気持ちで言うんだよ。ごめんなさいって」
雨の音にかき消されないように声を張ってくるマキノを追い払うように僕もまた声を張り上げた。足場がぬかるんで、滑らないように意識しながら次々剣を振るった。マキノの刀は僕を狙ってくるがかすかに軌道がズレている。マキノはバカだが刀の腕は確かなものがある。つまり、マキノの狙いは僕の剣を弾いて無力化し、降伏させることだ。最初から殺す気のない刀が僕の剣に勝るはずがない!
「その言葉に意味なんかない。ごめんなさいなんて言ってどうなる? 失った時間を戻してくれるっていうのか?」
できないだろう? そんな言葉ぐらいじゃ何にもならない。どうせ無力なただの言葉。
「違う。言葉だけじゃない。大切なのは自分自身の気持ちだ。謝った後、それに見合う行動をするんだよ。罪を償うんだ! そうしてやり直すんだ。人生をやり直せ、ニール!」
罪? 違う。僕は当然の事をしたんだ。やり直す? 出来るはずがない。こんな世界があったから僕は苦しんだ。この世界のせいなんだ。僕のせいじゃない。僕は悪くない!
「俺はお前の敵じゃない! 俺はいつだって、お前の仲間だ――」
「黙れこの偽善者が!」
いつだって仲間なんていなかった。いつも僕は独りだった。
殺し合いの日々に怯えていた頃、毎晩月にお願いしていた。もしかしたら明日、心変わりしたお母さんが迎えに来てくれるんじゃないかって。助けて、お母さんって。結局誰も助けになんて来てくれなかった。助けてと何度頼もうが、叫ぼうが、手を差し伸べてくれる人間なんていなかった。僕は独りだ。今も、これからも、僕は独りで生きていく!
僕が力の限り振るった剣はマキノの刀を弾き、体が考えるより先に動いていた。剣から伝わるこの感触は僕が慣れていたはずのもの。僕が、慣れていたはずの――。
驚きのあまり声が出なかった。僕の剣は二本ともマキノの体を貫通し、目の前には刀を失った丸腰のマキノが立っていた。




