第14章 ニールの願い
湖を抜けると、ウンディーネはやはり追ってこなくなった。麒法を違反したウンディーネは湖から出られないと定められたのだ。怒りは収まっていなかったが、とにかくイアンの状態が気になって足を止めると、イアンは僕の背中から力なく下りた。なんて声をかけたらいいのだろう。せっかく会えたと思った母親に、あんな冷たい言葉をかけられたのだ。
「イアン、あのさ」
と、僕が声をかけようとしたその時、どこからか手を叩く音が聞こえた。拍手は少しずつ僕らに近づき、陰から顔を出したのは2度と顔も見たくないあの男だった。
「湖からの脱出おめでとー。ナイスランだったねペガサス君」
腰に挿した2本の剣。人を小馬鹿にするような口調。僕はイアンの前に出ると、ニールを睨みつけた。僕らを脅して羅剛神を復活させ、世界を破壊しようとしているこいつに、もう好き勝手させるか、と目で訴える。
ニールはそんな僕など目に入っていないかのように体を傾け、後ろにいるイアンを楽しげに見る。
「あっららー。ショックで物も言えないって感じだね」
分かりやすく困ったような顔をするニールに唸って前足で地面を蹴った。
「で、ペガサス君はお怒りというわけね。ま、君が怒ろうが関係ないよ。どうせ君は走るしか能の無いただの馬なんだし。邪魔邪魔」
ニールは軽く手を払うようにして言ってくる。確かに僕は走ることしかできないけれど、こんなやつに言われたくない! 腸が煮えくりかえるようだった。いちいち神経を逆なでしてくるが、ここで突っかかってはニールの思うつぼだと、怒りを押し殺す。
ニールはそんな僕の様子を楽しそうに見てからまたイアンに笑顔を向けた。
「ねぇ、イアン。僕さ、すごい情報を手に入れたんだ! きっとイアンも喜ぶよ!」
ショックでぼんやりとしているイアンは力なくニールに顔を向けた。
「イアン、こんなやつのこと聞いちゃだめだよ。どうせろくなこと言わないんだから」
ニールは僕のことを無視してイアンに語りかける。
「さっきレインとクランの話を盗み聞きしちゃったんだけどさ、知ってた? レインって、イアンのお姉ちゃんなんだって!」




