第12章 避けられないもの
ふと目を覚ますと、目の前にはイアンが横たわっていた。いつの間にか寝ていたみたいだけど、僕は元々睡眠時間が短いからイアンの状態は特に変わっていなかった。それでも、毎晩そうするように、ただ傍に寄り添ってイアンと一緒にいられる時間を大切に過ごすのだ。今は状態が良くないけれど、きっと良くなるはずだと信じて。
老婆が言った通りイアンは徐々に状態が良くなり、五時間後にはすっかり体調が良くなっていた。普通に話せるし食欲もある。老婆はイアンが目を覚ますと食べ物を分けてくれた。僕らのために、とあらかじめ老婆が全て用意をしておいてくれたようだ。食事が済んでから僕はイアンと共に老婆に向き直った。
「じゃあ聞かせてよ。どうして僕らを助けたの? あなたは一体何者なの?」
老婆は僕らの方に顔を向けて話始めた。
「お前たち、アルフォードという冒険家のことは知っているかい?」
僕は聞いたことがあるくらいだったがイアンは前に乗り出すようにしてうなずいた。
「僕が大好きな本の著者だよ。カミーに会う前僕は本の虫だって言ったでしょ。僕が読んでいた本の大半はアルフォードさんの本なんだ」
そういわれて僕は思い出した。僕らが麒麟に会おうと言い出したのもイアンが読んだアルフォードの本の中に麒麟が北の果てにいると書かれていたからだった。つまり、アルフォードは僕らの旅の道しるべとなってくれた人でもあるのだ。
「私はね、アルフォードの末裔なんだよ。アルフォードは未来を見ることができる幻属と恋に落ちてね、こっそり結ばれていたんだ。その子供は幻属と人間のハーフ。今ではもうだいぶ幻属の血が薄くなって幻属の言葉を聞きとることはできなくなってしまったが、それでもまだ未来を見ることはできる。随分強い力で、その者がこれからどうなるのかが手に取るように分かる。お前達を助けようと思ったのも面白い2人がこの近くへやってくるし、放っておけば軍人に捕まってしまうと分かったから声をかけたんだよ。今お前達と会話ができているのも厳密に言えば聞こえているのではなく、私の言葉にどう答えるのかが見えているからなのさ。この力は便利なもので、未来を見る時は幻属の言葉も人間の言葉に翻訳されて見える。見えてしまって嫌な事もあるが、それはそれだ」
何気なく老婆の話を聞いていた僕はふと思った。
「もしかして、イアンも幻属とのハーフなのかな?」
「え? 僕が?」
僕は頷いた。イアンは普通の人間とは違う。それがハーフである影響なら合点がいく。
「だって、イアンは僕の声が聞こえるし、水を操ることもできるんだよ?」
「どうなんだろう。僕は自分の家族の事は何も知らないからね。可能性はなくもないか」
イアンが納得して頷いていると、老婆は微笑んだ。
「この先にウンディーネの湖がある。直接会ってくるといい」
ウンディーネ。水を操る事ができる幻属だ。
「もしかして、イアンの母親がウンディーネだったりして」
老婆はにこにこしているだけで、それ以上何も言おうとはしなかったが、ウンディーネがイアンの母親だという可能性は大きかった。もし母親でなかったとしても、イアンの秘密がそこにあるはず。
「行こう、イアン。ウンディーネの湖に行ってみよう!」




