第9章 レインの真実4
「きっと父さんは死の間際心の中で、娘に殺されるんだって思ってた。優しかった父さんを殺したのは私。でも、父さんの方がきっとずっと辛かった。母さんが大好きだったの。母さんが死んじゃってただ辛くてたまらなかっただけなのに、実の娘に殺されるのよ? 父さんは大切にしていた家族に殺されたの」
レインはしゃくりあげながらクランの軍服を握りしめた。
「レインのせいじゃない。そのことはレインの父さんも分かってたはずだ。今でこんなに傷ついてるのに、イアンを殺すなんて、やっぱり無茶だ」
「私が助けたことで、イアンは辛い日々を生きることになった。父さんが死んで、村の人の家に世話をしてもらうことにしたけど、私が会いに行くたびイアンは独りぼっちだった。それに、体中に痣があったの。軍なんてすぐに辞めてやろうと思ったけど、あの男は軍を辞めるならイアンを黙認するのはやめるって言い出した。生活のためにも、イアンのためにも軍を辞めることができなかった。会いに行くことさえ少しずつ制限されて、そのせいであの子は毎日傷ついて寂しさのあまり麒法も破ってしまった。これから一生軍にも罪にも追われ続ける。そんな風にしたのは私。イアンを助けなければあの子はこんなに辛い日々を送ることなんてなかった。結局私の自己満足だったの。助けたいだけじゃ無責任なのよ。私はただ放っておけなかっただけで中途半端に助けて結果あの子を苦しめた。全部私が悪いのよ。だから私が殺さなくちゃいけないの」
クランはじっと聞いていた。数秒おいて、レインがクランの胸に額を押し付けた。
「でも……殺したくない」
それがレインの本音だった。
「姉だって言いたい。一緒にいたい。イアンは私の大切な最後の家族なのに、どうして私イアンを殺そうとしてるの?」
レインの心の中で引っ掛かっていたのは守りたい存在を殺すという矛盾だった。
「私、イアンと一緒にただ暮らしていたかった。イアンに笑っていて欲しかっただけなのにどうして私イアンを殺そうとしてるのか急に分からなくなる」
そういうレインの中には既に答えがあった。
「でも分かってる。あいつはイアンの事を知ってるの。イアンはウンディーネと人間のハーフだから、水の力を使えるかもしれない。もし国に連れていかれたら待っているのは新しい兵器の開発のための人体実験だわ。ラシャルブレイヴは国に連れて帰れと私に命令した。麒法違反者は見つけ次第処刑するのが当たり前なのにイアンだけは例外。あいつはイアンを処刑したりしない。ラシャルブレイヴの本当の目的はイアンの軍事利用。実験動物のように使うだけ使って、使えなくなったら捨てるつもりなのよ。死ぬことよりも辛い日々をこれ以上イアンに味わわせるなんて、そんなの嫌。絶対に嫌」
イアンに待っているのはどっちにしても苦しい道だった。生きていれば生涯軍に追われ、捕まった時点で苦痛の日々が待っている。
「そうさせないためには、私がイアンを殺さなくちゃ。イアンを助けてあげなくちゃ」
「イアンに今の話を説明すべきだ」
「嫌よ。私があの子に苦しい日々を強いたのだから、きっとあの子は私のことを憎んでるわ。それに、イアンまで家族に殺されるんだと思いながら死んでほしくない。だから――」
「本当はイアンを殺した後自分も死のうとしていたんじゃないか?」
クランはそっと身を離してからレインを見つめた。
「イアンに対して最初にぶつかっていたのはいつでもお前だった。下手をすればあのペガサスを傷つけて麒法を破ることになると分かっていながらだ。部下をできる限り下がらせて手出しはさせずにイアンに向かっていったのは、自分の手でイアンを殺すだけじゃなく麒法違反から守ろうとしたから。自分は麒法を破ろうが死ぬから関係ないと思ったんだろう。仲間想いのお前の事だから、この任務で仲間を罪人にしないように精一杯見栄を張って無理をしてたんだろう。辛くて今にも逃げ出したいのに必死で気丈に振舞って……」
レインは否定せず目を伏せていた。
「バカ。バカだよお前は」
クランは膝を曲げてレインに目線を合わせてからレインの頭に手を置いた。
「レインは一人じゃない。俺たちがいるだろう」
優しく微笑むクランに、レインは顔を上げた。
「俺とマキノとレインでずっと頑張ってきただろう。抱え込もうとしたら他の2人が支えて3人で前に進んできたんじゃないか。レイン、頼ればいいんだ。独りじゃないんだから」
そう言われて、数秒してからレインは腕で乱暴に目元をこすった。
「私はまだまだ未熟者だな。ありがとう。随分楽になった」
凛々しさを取り戻したレインは勢いよく立ち上がる。
「イアンは麒法を破ったのだから世界の秩序のためにも罪は償わなければならない。私もイアンを中途半端に助けこの状況を作ったけじめをつけなければならない。大戦をまた起こすわけにはいかないから」
レインは真っ直ぐにクランを見た。
「軍に捕まる前に私があの子を殺す。今度は大丈夫だ。私にはクランもマキノもいる」
クランが笑ったのと同時ぐらいにレインの目線の先から何かが応えた。
「俺がなんだって?」




