第9章 レインの真実3
「あぁ。俺達たまたま隣にいたんだよな。で、俺が話しかけた」
「そうだ。急に自己紹介してきたんだったな。あれは正直びっくりしたよ」
「まぁ、自分から名乗るのが筋だからな」
レインはクランと少し笑ってから懐かしそうに言う。
「地獄のようだったな、あの訓練の日々は」
「ほんとにあれは俺も死ぬかと思ったよ。簡単に言えば平和ボケした体の改造だからな」
「訓練に明け暮れていたあの頃、大雨が降った事があっただろう。それも、各地で洪水が起こるほどのひどい雨。あの時私の家の傍まで氾濫し、ウンディーネが父さんを見つけてしまったんだ。ウンディーネはずっと父さんの事を恨んでて襲いかかってきた。そこにラシャルブレイヴがたまたま来ていて、父さんが麒法を破った事がばれてしまった。ウンディーネが父さんに襲いかかっていることはすぐ幻属にも知れ渡ってウンディーネは連れて行かれ、父さんは軍に捕まった。人間と幻属が交わったなど言語道断。イアンはその場で処刑されるはずだったが、私はラシャルブレイヴに頭を下げて頼みこんだんだ。そしたらあの男なんて言ったと思う? その子供に自分が姉だということは秘密にし続けること。お前の父親を処刑すること。この2つを守れたらその子供は助けてやる。そう言ったんだ」
自分の両手に目線を移し、遠い目をしながら続ける。
「父さんを殺さなくちゃイアンも死ぬ。父さんを殺せばイアンは助かる。そんなの、私にできるのは1つだろう。処刑場で私は上官に囲まれて父さんの首を落とした。呆気なかった。いつもと同じように刀を振り下ろしたら、もう頭は地面に転がってたから。父さんは処刑され、イアンは黙認。私は年齢にそぐわない地位を与えられた。私が鬼と呼ばれる所以だな。私は親殺しによって今の地位を手に入れたんだ。あの男は私が父さんを処刑する直前笑っていた。ラシャルブレイヴの残酷さは私が1番知っている。あの男はそうやって他の人間を苦しめることに喜びを感じている狂った男だ」
そう言って鼻で笑い、何とか涙をこらえるレインをクランは真剣なまなざしで見ていた。
「私が殺す間際、父さんは言ってくれた。お前が私の娘で良かったと。バカだ私は。実の娘に殺される父さんの気持ちも考えなかった。あの時刀を止めていればよかった。もっと力があればイアンと父さんと一緒に逃げたのに。私はラシャルブレイヴの言いなりになって父さんを殺した。命令されたとはいえ殺すことを選んだのは私自身なんだ。私の家族がだんだん減っていく。自分でまいた種なんだから自業自得だ。私は何でこんなにバカなんだろうな。いつまでたっても後悔してばかり。みっともないったらありゃしない。私は、なんてバカなんだろう……」
うつむいた拍子に垂れた髪がレインの顔を隠したが、自分の手を見る姿は悲しげで小さかった。気丈に部下を率いて任務を遂行し、刀を振るって敵を圧倒する鬼と呼ばれた軍人の姿はそこにはない。そこにいるのは今にも泣きそうなか弱い女性だった。
そんなレインを、クランは突然抱き寄せた。
「な、何を」
驚いてクランの胸を押して離れようとしたレインを、クランは強く抱き締めて離さない。レインの頭に手をやって自分の胸に押しつけ、腕の中にいるレインに優しく声をかけた。
「レイン、いいんだ。泣いたっていいんだ」
その言葉に、レインは唇を噛みしめる。クランがレインの頭に手を置いてそっとなでるのをきっかけに、こらえていた涙が溢れだした。




