第8章 羅剛神の在処4
笑顔でそう言われると恐怖で体が動かなくなった。ニールは笑顔のままだが、逆にその笑顔が怖い。何を考えているのか分からない。心臓の音が異様に大きく聞こえてくる。
「どんどん心拍数が上がってるよこのペガサス。ねぇ、イアン、君は僕と対等の立場じゃないことぐらいわかるよね? 僕はそんなに気が長くない。それにこんなペガサスの生死なんて僕には関係ない。早く言った方がいいと思うよ? 僕が殺しちゃう前に」
剣がゆっくりと皮膚を滑る。鋭い痛みと共に何かが首筋を垂れていくのがわかった。イアンが目を見開き、恐怖に歪むその表情から、今血を流しているのだと分かる。
イアンは完全に迷っていた。言えば羅剛神の封印が解かれてしまうかもしれないが言わなければ僕は殺されてしまう。ニールの事だから嘘の場所を言えばまた追ってきて確実に僕は殺されてしまうだろう。
「早く言いなようざいなぁ。殺すよ?」
突然ニールの声が低くなり、先ほどとは比べ物にならない程の殺気を帯びた。本能が逃げないと殺されると警告を発している。心臓が痛い。殺されたくない。切られたくない。早く逃げ出したい。祈るような気持ちでじっとしているしかできなかった。
その時、翼に鋭い痛みが走り、突然の痛みに思わず悲鳴を上げた。純白だった翼の一部が赤く染まり、右の翼が切られたのだと分かる。翼が落ちていないから切り落とされていないと分かると少しほっとした。一方で、今度はどこを切られるのかと思うと怖くなる。
「3秒待ってあげる。教えないとこのペガサスは残念だけどただの馬になってもらうことになるよ。あ、でも飛べないみたいだから邪魔な翼がとれたらすっきりするね」
ニールが傷口に柄を押し当ててきて、痛みに声をあげた。
「3、2」
ベリトルの遺志を尊重したい。僕を助けたい。イアンの目には苦悩が見えた。
「1」
ニールが剣を振り上げるとイアンの顔が恐怖に歪み、地面に慌てて文字を彫った。
「景色が見えただけ。特徴的な物も周囲になかった。だから教えたくても教えられない」
それを見ると、ニールはいつもの笑顔に戻った。
「そっかそっか。じゃあ案内して。今すぐ」
急に傷口が焼けるように痛んで声を上げると、ニールが笑顔で傷口に柄をねじ込んでいた。
「これ以上ペガサス君を苦しめたくなかったらね」




