第8章 羅剛神の在処2
しばらく走って、ようやく足を止めた。ここまできたらもう追ってはこないだろう。慌てて東に随分走ってしまった。北に向けて走っていればよかったのだが、今更考えても仕方がない。イアンは背中から降りて周囲を警戒しながら地面に腰を下ろした。僕に乗り続けるのも相当体力を使うらしい。一緒に休憩をとっている間レインについて考えた。
レインが飛び出してきた所は元々僕の視界にも入っていたはずの場所。あれだけ大勢で動けば気づかないはずがないのに、また後手に回ってしまった。
「なんであんなに隠れるのが上手いんだ? 全然気がつかなかった」
何度も奇襲を許してしまっている。ベリトルがいない今、危険なことこの上ない。現にさっきニールが来ていなければイアンは殺されていたのだ。何もできない無力な自分に腹が立つ。そんないら立ちもイアンは感じとっているようだった。
「カミーでも、あれは気づけないよ。あの人達はきっとミケシを持ってるんだ」
「ミケシ?」
「大戦中に使われた防具の1つだよ。敵の視界から身を消す。だからミケシ。大戦中は常に敵に襲われる危険があったからミケシをよく使ってたんだ。対象に気づかれた時点で見えちゃうけど、目立たないよう行動すれば分からない。擬態するのに似てるかな。ミケシっていうのは動植物が持っていた特殊な樹皮のことで、ずっと人間には見つかっていなかったんだけど、大戦中に隠れている幻属を発見できる道具が開発されてからミケシの樹の存在が明らかになったんだ。樹皮を取って防具に編み込むことで効力を発揮したから、樹皮をとるため大量に伐採されてしまった。そのせいでもうほとんど残ってないよ」
隠れている幻属を発見するための道具。そこまでして殺し合わなければならなかったなんて。僕には想像できないほどの血が流れたに違いない。ベリトルはその中を生き抜いてきた。ずっとその世界を見ていたんだ。だからこそ僕達にまた平和な世界に戻る先駆けになって欲しいと言った。そう考えると、ますますここで捕まるわけにはいかなかった。
「大戦中に作ったものが僕らを追い詰めてるってことか」
「そういうことだよ。なんたって世界中を巻き込む大戦争の中で開発されたものだから、敵を探して殺すことに特化してる。多くがもう壊れているんだけどね。全員分のミケシは無いだろうから、あるのは先陣を切ってくる幹部だけだと思う」
いつもレインやクランが突っ込んでくるのは周囲に溶け込み奇襲し易いからなんだ。後方からの追手の気配はないが、ミケシの存在が明らかになった以上油断はできない。
「とにかく、この場所から離れた方がよさそうだね」
「あ! そこにいたの?」
遠くから声がして、僕らは声の方を向いた。信じられないことに、そこには笑顔で手を振るニールの姿があった。先ほどまでレイン達と戦っていたはずなのに、どうしてこんなに早く追いつけたのか、理解ができなかった。もしかしたら、ニールはこの辺りの地理に相当詳しいのかもしれない。でも、僕にはどうにも理解できなかった。
「あ、今僕に見つかったーって顔したね? ひどいなぁ。僕は君達の命の恩人なのに」




