第7章 帰る場所
ペガサスにとって森の中は飛べないため苦手な場所だ。隠れるには適しているが飛ぶ事ができないため無理矢理追うようなことはしない。しつこく追いかけて自分達に有利な地形に入った瞬間また襲う気でいるのだ。森の中は危険が多いけど、それ以上に食べ物も、隠れる場所もたくさんあるため、平地の何倍も安全だった。足場の悪い森の中を話しながら歩いていた僕らは、
「今日はここで休もうか」
というイアンの言葉で足を止めた。気がつくと辺りはすっかり暗くなっており、見通しも悪くなっていた。いつもならもう少し明るい段階から木の実を探すのだけど、今日は話が弾んでついつい遅くなってしまっていた。イアンは手近に倒木を見つけて腰掛けた。
「もう、全身が筋肉痛でひどいよ。痛くて痛くて……」
「おばあちゃんみたいだな」
ベリトルが笑いながら言うと、イアンが目を細めてベリトルを小突いた。
「あのさ、せめておじいちゃんにしてくれる?」
「すいませんでした」
またベリトルが調子に乗っている。全く、バカなやつだなぁ。でも分かってるんだ。ベリトルはバカなだけではない。確固たる意思を持っていて、いざという時は頼りになる奴なんだって。そんなこと調子に乗るから言わないけど。
僕らが笑っていると、たまたまベリトルに触れていたイアンの体が本人の意思に反して何かに反応した。突然鼓膜を貫くような金属音が響き、僕は驚いて肩を震わせた。辺りを見回すと、樹の陰に隠れていたらしい軍人達が次々現れ、周囲を包囲し始めている。完全に囲まれては逃げられなくなる。僕が動きだすより前にベリトルを握るイアンに突進していったのはやはりレインだ。イアンとベリトルがレインの刀を何とか防いでいるが、恐らくこれは――。
「時間稼ぎだ!」
イアンが声を上げた。
「このままじゃ包囲されて確実に捕まる!」
ベリトルの速さにイアンも何とかついて行くが、全身の痛みに何度も顔を歪めていた。今までになかった動きをしているから、体が悲鳴を上げているのだ。長期戦はイアンに不利。戦況を変えられるのは僕しかいない。
「ベリトル、守りが手薄な所を強行突破しよう! この人間達は麒法に縛られてるから僕に触れようとはしないはず。3秒後一気に抜けよう」
視界に入る軍人達の包囲が完了するまでもう時間が無い。
「3、2」
イアンがレインの攻撃を何とか防ぎ、僕は声を上げた。
「1」
僕の方へと向かおうとイアンがレインに背を向けたのと同時にレインが叫んだ。
「今だクラン!」
樹の陰に隠れて傍まで来ていたクランが突如飛びだし、イアンに向けて何かを投げた。ベリトルが反応してすかさず投げつけられたものを切ろうとし、刃が当たった瞬間、それは小規模の爆発を起こした。なんでもない目くらまし程度の小さな爆発。
「大丈夫! こんなの何でもないよ! カミー今から――」
「イアン! 後ろ!」
イアンの目の前にできた煙の中から、その瞬間を逃すまいと突進してきたレインは、大きく真横に刀を振った。咄嗟にイアンは下がるが、切っ先はイアンに届く事はなく、ベリトルに強くぶつけられた。直後、つんざくような金属音と共に一本の刃が宙を舞った。レインの手から伸びる刀を見ると、切っ先がついたままだった。驚きのあまりベリトルを見ると、真っ二つに折れていた。
「ベリト――」
イアン声を上げる前にベリトルが叫ぶ。
「逃げろ!」
その声は聞いたことがないほど切羽詰まっており、その言葉に突き動かされるように僕はレインとイアンの間に割って入ると、イアンが飛び乗るのを確認して一気に駆けだした。軍人達が刀を抜いている。もしかしたら斬られるかもしれない。でも、それ以上にここを突破しなければならない。突破して見せる!
僕はできる限り唸り、軍人達に体当たりする勢いで必死に駆ける。
「そのペガサスに手を出すな!」
レインが叫ぶと軍人達は動きを止めてレインの方を見ている。その間に何とか僕らは脱出することができたのだった。




