第6章 魔石の力6
予想通り、ギアは僕が背後に回ったことで翼を広げ、足もまた無意識に前へ突っ張るように出ている。通過しきる前に僕は一気に地面を蹴った。
「今だ!」
イアンと同時に声を上げた。一気に加速して体全体でギアに向かって突進する。この渾身の一撃はギアの後肢を直撃し、ギアの腹が空を向いたのを捉えながら駆け抜けた。他のペガサスよりも重く大きいため、バランスが崩されれば体勢を立て直すのにも時間と力が必要になる。ギアの体が小さければこの作戦は失敗していただろう。両翼をばたつかせ、ギアは地面に落ちることなく体勢を立て直したが、その間に全力で森へ向かって駆け抜けた。森はもう目の前だ。
「この身の程知らずが!」
「どっちが! 僕はもう戻らない! 僕らは未来を変えるんだ!」
ギアがまた猛スピードで飛んでくるが、追いつかれる心配など要らないくらい余裕で森の中へと駆けこんだ。
僕が森の中に駆け込むと、ペガサス達はやむを得ず地に降り立ち、翼を畳んで両前肢を持ち上げ、口々に悔しそうな声を上げた。空にばかり気をとられていたから基本である走ると言うことが疎かになるのだ。
「すごいよカミー!」
「全く、あっぱれだ!」
イアンとベリトルに誉められて、誇らしい気持ちで森の中を駆け抜けた。
しばらく走って後方から追ってくる気配がないのを確認してからイアンに話しかける。
「逃げ切ったみたいだね」
「うん。もう追ってこないみたい」
確認しきってからイアンが背中から降りると、ベリトルが声を上げた。
「本当にかっこよかったぞ。見直した、カミー!」
ベリトルが絶賛しているのを聞いて、イアンが自分の事のように嬉しそうに笑う。
「カミーがすごいのはペガサスの行動を先読みして、それを作戦に取り入れてる事だよ」
「どう言う事だ?」
「ペガサスの視界は普通の馬に比べて狭いんだよ。僕もそうだけど、後ろはあんまり見えないんだ」
「まぁ、見えないって言っても、ペガサスの視界は大体310度もあるけどね。普通の馬は大体350度みたいだから、40度も違うんだ。これは飛ぶ事を覚えたペガサスが天敵から逃れる為に空に逃げ、前を見る事により神経を注いだから。それによって後ろを見ることに対して退化が始まったって言われてるんだ」
イアンが補足説明を入れてくれた。頷きながら、僕は続ける。
「その分後ろに回られると視界から敵が消えてしまうから本能的に焦って一瞬隙ができる。ギアも後ろをとられて止まる事を選んだ。もしあの時止まることなく一度旋回して追ってきていたら追いつかれてたと思う。止まろうとした瞬間、ギアは自分自身で重心を後ろに移動させる。あの大きな体を自分から後ろに動かしてくれたんだから、僕はその流れの後押しをしてやるだけで、いとも簡単にバランスを崩すんだよ」
「素晴らしい! やつも驚いただろうな!」
「本当に、さすがカミーだよ! すごいよ!」
誉めてもらうのは嬉しかったが、こみ上げてきたのは罪悪感だった。
「でもごめん。僕がもう少し早く魔石に願っていたら今頃……」
イアンが魔石に頼んだ時、願いは叶えられたのだから僕がすぐに唱えていれば逃亡生活は終わっていたかもしれないのに。
「仕方ないよカミー。でも、あの魔石が本物だったんなら万が一麒麟にダメとか言われても僕らの未来は安泰だよ」
イアンが笑顔で励ましてくれた。
「それに、急に旅が終わっちゃったらそれはそれで寂しいしさ」
「ありがとう、イアン」
イアンの優しさに触れる度に、必ずこの旅を成功させて一緒に生きていこうと思うんだ。




