第6章 魔石の力5
後方へと迫ってくるギア。追いつかれる事は必至。
「カミー、ギアのバランスを崩せないかな。空を飛んでるわけだから、姿勢が崩れればスピードも落ちると思う」
「それなら重心移動だ。姿勢を崩そうと思えば、最低でも支持基底面から重心を出すことを考えなければならん」
「でも、どうやって?」
「支持基底面?」
何の話をしているのか分からず、訊いてみると、イアンは周囲の状況を見つつ冷静に教えてくれた。
「カミーの四本足で囲まれた内側の部分のことだよ。こけるとか、バランスを崩すっていうのは、この内側の部分から重心が出てしまった時に起こるんだ。要は、重心を上手くこの範囲の外に出す事ができれば、どんな力自慢でも必ずバランスを崩してこける」
イアンが言ったことに、すかさずベリトルが意見を述べる。
「飛んでいる以上、考えるなら重心を後ろに傾けることだな。一度後ろにバランスを崩したらスピードが保てないだけでなく、体勢を立て直すのにも時間がかかる。うまくいけばかなりの時間を稼ぐ事ができるだろう」
「後ろは難しいよ。前とか横じゃダメかな?」
「他の三方向はどれも速度を維持しながら体勢を立て直す事が可能だ。しかし、問題はどうするかだな」
重心が後ろに傾く、つまり姿勢が前肢を持ち上げるような状況を想像すればいいんだ。飛んでいる時に前肢を上げることなんてあるだろうか。頭の中でペガサスが飛ぶ様子を思い浮かべてみる。飛び立つ時、降り立つ時、方向転換する時。次々に思い浮かべていくうち、1つの光景が思い浮かんだ。何度も見てきた屈辱の光景が、急に希望の光のように思える。
「そうだ! 僕に作戦がある。落ちないように気をつけて!」
イアンは頷いて姿勢を低くし、安定させる。
「いつでもいいよ!」
ここからは僕の腕の見せ所だ。僕は1度大きく唸って気合いを入れ直し、さらに加速した。
「この私にスピード勝負とはいい度胸だな!」
挑発されても構わない。ただ猛然と走るのみ。ギアはすぐ後ろに迫り、イアンを蹴り落とそうとしてくるが、僕は真っ直ぐ走った。イアンはギアの足を冷静に避けては姿勢を戻し、集中している。加速しきった瞬間、僕はギアに聞こえないように言った。
「イアン、しっかり掴まって!」
ギアが真後ろから襲いかかって接近してきたその瞬間、僕は四肢のタイミングを合わせ、全力で足を突っ張るようにして急停止する。足を少し曲げて姿勢を低くした状態のまま草の上を滑ると、頭のすぐ上をギアの蹄がかすめながら通過しかかる。
僕の作戦は、僕が加速しきるその瞬間までギアを引きつけて速度を無理矢理あげさせ、一気に速度を落とすことでギアの後ろをとり、ギアが上を通り過ぎる前にもう一度走って体当たりする。そうすればギアはバランスを崩すのではないかと言う事だった。




