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第7章 帰る場所2

「カミー、できるだけここから離れて。安全な場所でベリトルの状態を見よう」


軍人達が決して追いつけない速さで、一心に森の中を飛ぶように走った。後方からは追ってくる気配が無いが、念のためより多く距離を稼いでから止まった。


 イアンが背から飛び降りて、半分に折れたベリトルをそっと地面に置いた。


「すまない。あれは、武器破壊のための道具だったのに」


イアンは頷いた。


「まず爆破時の特殊振動を武器に当てて武器自体の耐久力を削ぐ。そこですぐに強い衝撃を与えることで武器を破壊するものだね」


「そうだ。あれは大戦の時にエルフの武器を破壊する目的で作られたもの。大戦が終わったというのにまだ残っていたとは」


ベリトルは少し間を置いてイアンに言った。


「イアン、私が折れた瞬間何かを見なかったか?」


そう訊かれてイアンは頷いた。


「ベリトルが折れた瞬間、僕の頭の中に景色が流れ込んできたんだ。すごい速さで森の中を進んで、最後は洞窟に辿り着いたのが見えたけどそれがどうかしたの?」


「そうか……。やはり見てしまったか」


何の事だかわからず僕はイアンと顔を見合わせた。


「二人にまだ言っていないことがある。大戦が起こるきっかけになった、人間が作った生物兵器の話をしたな? あれはどうなったか知ってるか?」


「確か、麒麟の手で封印されたんだよね。ニールが言ってた」


その名を聞くのも嫌だったが、今はそんなこと言っていられない。


「そうだ。その生物は羅剛神と言って、大戦中に麒麟が無理矢理封じ込めたが、麒麟の力が強すぎて幻属に場所がばれ、一度封印は破られた。その為、麒麟は力を最小限に抑えて羅剛神をどこかに再封印したのだ。そして、羅剛神捜索と討伐を目的とした剣が作られた。その剣は自身が滅ぶことがあればあるだけの場所情報を持ち主に強制的に移すようプログラムされている。私があんな場所に落ちていたのは戦が激化した所は避けて羅剛神捜索をしていたからなのだ」


それを聞いてイアンは目を見開いた。


「じゃあ、ベリトルは……」


「そうだ。私が宝剣ベリトルと呼ばれるのは、羅剛神を探しだせる希望だったからなのだ。さっきイアンの頭に送り込まれてしまった光景は羅剛神の封印場所を示している。あれだけは二度と世に出してはいけない。問題なのはあのニールという男だ。ニールの腕にあった翡翠色の玉は恐らく幻属の居場所に反応する大戦前に作られた物。恐らく、ニールは私が宝剣ベリトルだと気づいている。イアンを操りやすくするためカミーにくだらん考えを吹き込み分裂させる気だったのかもしれない。そうなると非常にまずいことに――」


「待って、待ってよ。その情報を送ってしまうのは、ベリトルが死ぬ時ってことでしょ? ベリトルは大丈夫なのにどうして?」


焦って尋ねるイアンに、ベリトルは優しい声で言った。僕を慰めてくれた時みたいに。


「私は剣。折れると必要なプログラムが少しずつ機能しなくなる。今ではもうあのレインという軍人に瞬殺される事だろう。私は、もうすぐ機能を停止するのだ」


その言葉に時間が止まったように感じた。ベリトルが死ぬってこと? そんなはずがない。だって今こうして普通に話しているじゃないか。


「今はまだ話せているが、悪用を防ぐため、全てを消し去るプログラムが働き始めている。五分もしないうちに私は動かないただの剣になるだろう。その前に、2人に言っておかなければならないことがある。私が、私で無くなってしまう前に」


何も言えなかった。言葉が見つからなかった。現実を理解するのが嫌だった。ベリトルが死ぬ? 考えた事もなかった突然の別れに、僕はただ黙っている事しかできなかった。


「嘘、でしょ? はは、嘘に決まってるよ。何の冗談だよ。あはは、冗談キツイよ」


「冗談などではない。私はもうじきこうやって話す事ができなくなる」


「嘘だ。そんなの、嘘に決まってるよ。何か勘違いしてるんだ。だって、そんな、こんなことって……」


イアンが何度も首を振っている。


「そうだ。ベリトルの破片を繋いだら元に戻るんじゃ……」


その言葉に、はっと顔を上げたイアンだが、ベリトルは止めた。


「破片を持ってきても、繋いでも、元には戻れない」


「じゃあ、もう一度打ち直してもらえば」


「無理だ」


「何か、何か手があるはずだよ」


「無い。諦めておくれ」


「諦められないに決まってるじゃないか!」


そう叫んだのはイアンだった。


「そんなの、そんなの無理に決まってるじゃないか!」


「イアン、カミー、これが現実なのだ。私にはもう時間が無い。どうか話を聞いておくれ」


そこまで言われて、僕らは口を閉じた。


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