第5章 聞けなかったこと4
大きくなりすぎた不安を抑えきれず、そんな心ない言葉が出た。
「カミー、何を言ってるの? そんなわけないじゃないか。一体どうしたんだよ」
イアンが心配そうに言うが、一度言い出したらもう止まらなくなっていた。今までずっと心の中にあったものが、まるでダムが決壊したように溢れだす。
「本当は僕が飛べれば良かったのにって思ってるんでしょ? 一緒にいればいるだけ足手まといだって、そう思ってるんでしょ? そう思ってるなら言えばいいじゃないか。いつまでもいい人ぶらないでよ!」
期待なんてさせないで欲しかった。僕は独りじゃないんだって思ってしまったら、捨てられたその時に耐えられない。
「いつか意思疎通ができる人間が現れたらイアンはその人の所へ行っちゃうんでしょ。そっちの方がいいよね。こんな飛べなくて、足を引っ張ってばかりのペガサスよりも何倍も楽しいだろうね!」
胸がひどく痛かった。目が熱かった。自分の言葉一つ一つが僕自身を傷つける。深く、深く。あぁ、どうして僕はこんな事を言ってるんだろう。欲しい言葉は全部真逆なのに。
「なんで? なんでそんなこと言うのさ!」
訊いているだけで苦しくなるほど悲痛に満ちた声で、イアンは声を張り上げた。
「カミーは今までずっと僕がそう思ってると思ってたの? 無理矢理笑って、一度も僕が本心で話してないと思ってたの? 僕はそんなに信用が無かったの?」
僕にそんな言葉をぶつけるイアンの目にはいつの間にか涙が溜まっていた。
「信じてたのは僕だけだったわけ? こんなの、こんなの僕がバカみたいじゃないか!」
イアンは声を震わせながらそう言うと、ベリトルを置いてその場から駆け出した。僕は追いかけることなく、イアンが見えなくなってからその場でため息をついた。
「カミー、なんだか変だぞ。どうしたんだ?」
僕は答えない。自分の気持ちがよくわからなかった。
「カミー」
「もう放っておいてよ!」
うるさくて、放っておいて欲しくて、1人にして欲しくて、怒鳴っていた。
「僕はどうせ足手まといなんだ。ペガサスなのに飛べないなんて、僕はただの馬と変わらない。こんな翼無ければ、僕はこんなに惨めじゃなかったのに! 笑いたいなら笑えばいいだろ! 飛べないペガサスなんて、ただの、ただの……」
出来損ないじゃないか……。
涙が止まらなかった。言葉にすることで改めて自分の無力さを思い知った。ペガサスは幻属の中でも飛ぶ事を主とした種族。空を自由に飛べる事がペガサスとただの馬との違いだったのに、誇りだったのに、僕は飛ぶ事ができない。背中から生えた両翼を見る度に現実が突きつけられる。お前は無能な出来損ないなのだと。
「カラミーユ」
ベリトルのいつもと違った声に、思わず黙った。その声は僕を慰めるような優しい声であり、また、全てを許し受け止めてくれるような愛に溢れた声でもあった。
「カミーはイアンの事が好きではなかったのか?」
目に涙を溜めながら首を横に振る。そんなわけがない。好きじゃなければ、きっとこんなに苦しくなかっただろう。好きじゃなかったら旅もしていない。
「好きだよ。僕はイアンが大好きさ。でも、いつか見捨てられると思ったら自分が情けなくて、腹が立って、もう何がしたいのかも分からない。イアンは飛べないことなんて気にならないって言ってたけど、それは本心じゃないよ。だって、僕のせいで何度もイアンは大変な目に遭ってるんだから」
吊り橋の時も、軍人達に襲われた時も、僕が飛べていればあんなに苦戦する事もなかった。飛ぶ事ができれば簡単に状況を打破することができていたはずだった。
「僕はイアンの足手まといなんだよ」




