第5章 聞けなかったこと3
イアンは確かにニールが言った場所に隠れていた。周囲を警戒しながら僕が声をかけると、「さすが頼れるカミーだね」といつも通り笑ってくれた。筋肉痛がひどいとベリトルに文句を言いながらイアンが根と土の間から這い出してくるのを、僕はぼんやりと見ていた。今までその言葉に何の疑いも持たなかった。持ったことなんてなかった。でも、その言葉は本当なの? その言葉は本心なの? 本当は、飛べないくせにって思ってるの? そう思うとひどく胸が痛んだ。
「ねぇ、イアン」
「何?」
話しかければイアンはいつだってそう言って笑顔で僕を見る。
「ううん、何でもないよ」
本人に訊けばはっきりするのに、どうして僕は勇気が出ないんだろう。訊けばいいのに。イアンはバカだなぁって笑ってくれるはずなのに、どうしてこんなに自信が無くて、不安で、怖いんだろう。イアンは僕の事をどう思ってるの? 僕が飛べない事をどう思ってるの? 訊きたい。訊けない。僕には、訊けない。
僕はイアンと並んで歩きながら空を見上げた。もしイアンに見捨てられたら、僕はどうやって生きていけばいいんだろう。独りぼっちに耐えられるだろうか。
「カミー? ねぇったら!」
イアンが僕の足を叩きながら呼んでいたらしかったが、全然気がつかなかった。
「何ぼーっとしてるのさ」
「そうだぞカミー。もしかして恋煩いでもしたのか?」
「違うよ」
何事もなく明るく返事をしようとしたけれど、口から出てきたのは力ない声だった。
「そりゃそうだ。で、そんなことよりも、この先に魔石があるの知ってる?」
イアンが肩を回しながら嬉しそうに僕に言ってくる。
「魔石?」
「本に書いてあったんだけど、その石はとっても綺麗で、願い事が何でも叶うって伝説があるんだよ。地図を見てたらこの先にあるみたいなんだ。行ってみようよ」
「それは二人に丁度いいじゃないか」
ベリトルの反応に、イアンはそうでしょ、と笑顔になる。
「私の願い事も叶えてもらえるかな?」
と、ベリトルが問うと、イアンは笑顔のまま声だけ低くする。
「お願いする前にこのひどい筋肉痛を何とかしてよ」
「だんだん私の扱い、雑になってないか?」
楽しそうな二人から目線を逸らした。もしイアンが人間界で楽しく生きていけるようにと魔石に祈ったら僕は用済みなの? そんなはずない。そんなはずないけど、もし祈ってしまったら?
「カミーはなんてお願いするの?」
「もちろん、僕は――」
もし、一緒にいたいと思うのが僕だけだったら? そんなことが頭をよぎって言葉が詰まり、それ以上何も言えなくなった。
「ねぇ、カミーったら! さっきから何なんだよ。僕が話しかけてもぼーっとしちゃってさ! 親しき仲にも礼儀あり、だよ」
イアンがムッとする。僕だって明るく言いたい。いつも通り楽しく話したい。でも疑い出すと止まらなかった。本当は僕の事を飛べない可哀そうなペガサスだって思ってるんじゃないの? ニールの言葉ではない。今まで目を逸らし続けてきた、僕自身の心の声だった。
「本当は、僕の事足手まといだって思ってるくせに」




