第26章 踏み出す一歩
麒麟が完成させた土地は、とても広大で美しい自然に溢れていた。その中でも僕とイアンが気に入ったのは、遥か彼方まで広がる草原を見下ろすことができる丘だった。一面に生えた黄緑の草を爽やかな風が撫で、揺れている光景は穏やかで綺麗だった。眼下には緑。頭上には青が広がって、ところどころ綿のような雲が浮いている。こんな場所にイアンと一緒に立てていることが僕には幸せでならなかった。
「ここは私が作った場所。幻属と人間が共に生きることを許された土地だ。二人の事が世間に知れ渡れば、ここを求めてやってくる者達も増えると思う。私はそんな二人に是非ともこの場所の名前をつけて欲しい」
僕らの傍に降り立った麒麟は、僕らの目を交互に見ながら言った。
「え? そんな大切なこと、僕らがやってもいいのかな」
顔を見合わせる僕らの様子をみて麒麟はふふっと笑って言う。
「二人以上に任せられる者達などこの世界におらぬよ。是非とも決めておくれ」
そう言われて、僕らは頭を悩ませた。これからずっと使われる名前だから責任重大だ。変な名前をつけてしまったら、文字通り僕らの黒歴史になってしまう。
「どうしよう。人間と幻属だから関係したかっこよく深い意味を――」
「カミー」
不意にイアンが名前を呼んだ。
「僕らは完璧じゃなかったからこそ出会えたよね」
唐突なイアンの問いに僕が迷わず頷くと、イアンは人差し指を立てて言った。
「知ってる? ホールって、穴って意味の言葉だけど、欠点って意味もあるんだよ」
何が言いたいんだろうと思ったままイアンを見ていると、イアンが笑顔で提案した。
「だから、欠点がある僕らが辿り着いた新しい土地で、ホールランドっていうのはどう?」
周囲から見れば可哀そうな欠点。でも僕らにとって欠点とは僕らを引き寄せてくれた幸運の証。それは僕らが名づけるにはぴったりの名前だった。
「いいね! それがいいよ! そうしよう!」
そんな僕らの姿を麒麟は優しい目で見ていた。
「そなた達らしい素晴らしい名前だ。では、これからここは人間と幻属が共に暮らせる場所、ホールランドとしよう。それではこれからこの事を世界中に伝えに行ってくる。二人は好きに行き来するといい」
そう言うとすぐに、麒麟は突風と共に空へと駆け上がった。まるで空に透明な道でもあるように空を走っていったかと思うと、もう既に麒麟の姿は見えなくなっていた。
麒麟が走り去っていった空を見上げながらイアンが僕に言った。
「僕ら、これからずっと一緒だね」
そんなイアンに僕も笑顔を返す。もう僕らは追われることも仲を引き裂かれることもない。どこに行こうと堂々と並んで歩ける、自由で楽しい日々をずっと過ごしていけるんだ。
「そうだね。まずどこに行こうか。ファンダラの遺跡でも行く?」
「あ、でも先にベリトルに会いに行かないと怒られそうだね」
「また私を一人にするのかーって泣きそうな声でね」
空を眺めながらベリトルを思い出し、僕らは同時に笑った。
そうして僕は空に想いを馳せた。
自分は不幸だって、どうして僕だけがっていつも思ってた。でもどうしようもなく不完全で辛い日々を生きてきたからこそ、僕らは出会ってここまで来れたんだ。
時に悲しくて、どうしようもなくて全て投げ出したくなるときもあるだろう。でも、悲しいことも必ずどこかに繋がっている大切な悲しみなんだ。だからどんなに悲しくて辛くても信じて歩み続けよう。たまに立ち止まったっていい。目の前を歩く誰かが止まってくれるか、後ろを歩く誰かが追いついて、一緒に歩んで行けるようになるから。それもまた大切な出会いになるから。そう、全て未来に繋がっているから。




