第26章 踏み出す一歩2
僕はベリトルの墓に向けて歩き出す前にイアンに言った。
「そうそう。レインさんとクランさん、一緒に学校の先生始めたらしいよ。イアンが水飲みに行ってた時に麒麟が教えてくれたんだ」
「そうなんだ。あの2人ならいい先生になれそうだね」
イアンを守り続けた優しいレインと、傍で支えてきたクラン。これから出会う子供達にも分け隔てなく接し、愛していくことだろう。
「授業が軍隊式にならないか心配だけどね」
突然学校が軍人育成校にでもなったらそれはちょっと道を踏み外した感じがする。
「それは大丈夫だよ。姉さん教える時は優しいし」
実際レインから文字を教わったイアンが言うなら確かだろう。そう思いながら続ける。
「ニールは軍を辞めて森を行き来する貿易商の護衛の任に就いたみたい。知ってる? 行った先の村にいる貧しい子供達の相談相手になったり、ご飯振る舞ったりして一部では優しいお兄さんって呼ばれ始めてるらしいよ」
「あのニールが? それはすごいね。あの剣術があれば貿易商も道中安心だよ」
罪の償い方をニールなりに考えて、辛い日々を送る子供達に手を差し伸べて心の傷を癒すことにしたようだ。もう二度と自分のように道を踏み外さないように。きっと、どんどん子供達から必要とされて、子供達の心の拠り所になっていくんだろうな。
「あと、イアンのお母さん、麒麟から許しが出て湖を出られるようになったんだって。それぐらい麒麟が自分で言えばいいのに。案外照れ屋なのかな」
「本当? 仲良くなれるかなぁ」
「なれるよ! 絶対なれる!」
イアンがくすぐったそうに笑った。湖から出られないと嘆いていたウンディーネ。いきなりは無理でも少しずつなら関係を修復できるかもしれない。いつかイアンを生んで良かったと、優しく抱きしめてくれるようになるのかな。そうなったらいいな。
皆それぞれの人生を歩み始めている。僕らもそろそろ出発しなくちゃ。
「じゃあ行く所いっぱいだね。ベリトルもそうだし、母さんも、レイン姉さんも、クランさんも、ニールも、それからファンダラの遺跡も」
イアンが挙げていくのを聞きながら僕も悩ましげに頷いた。
「ほんとだね。でも僕らにはたっぷり時間があるんだから、ゆっくり回ろうよ」
「それもそうだね。でもレインさんには早めに会ってあげようよ。ベリトルはちょっとぐらい放っておいた方がいいと思うんだ。調子乗りだから」
僕目を細めて言うと、イアンが笑った。
「そうだね。姉さんは僕が死んでると思ってるんだし、この際びっくりさせちゃおう!」
悪巧みをするようににやにやと提案するイアンに僕も笑った。
一緒に歩いて行こう。長い時間を、焦ることなくゆっくりと。
そうして、僕らは同時に一歩を踏み出した。
了




