第8回 「人、人ならざるもの、人」
監視カメラのアーカイブには、事件発生時から謎の機械マスクを被った男が暴れ狂う一部始終が映っていた。
それらをパソコンの画面で確認する三島と松隈。2人は血塗られた職員室の中にいる。
「この高校にも訪れてたのか…。あの時一緒に映っていた女子高生が、近くにいるこの子でしょうか」
「と見て間違いないでしょうね。室内にあるデータ類からこの人物と思しき生徒を洗って」
「わっかりました」
室内の書類を漁る松隈の傍で、三島はアーカイブを再生し続ける。
カッパ・イート・マンが九条ジュウイチモンと思われる男に向かってカッパを投げつけ、間接的に殺害しているシーンが、流れては巻き戻しを繰り返している。
「一緒に現れたこの2人は仲間ではなかったのか?女子生徒には危害を加えていない…。仲間割れか何かか」
映像は進み、今度はカッパ・イート・マンがカッパの死骸を捕食する様子が流れている。
映像に集中していた三島は少し遅れて机の振動に気づく。手元に置かれたスマホが小刻みに震えていた。三島はスマホを手に取る。知らない番号からの着信だ。
「はい。三島アツコ」
{ああ、三島さん。九条です。班の方から番号をいただきました。}
「九条教授か。ちょうどよかった。聞きたいことが何点か…」
{ええ。そのことでお電話させていただきました。私が考えるにそろそろ現場の栄高校で事件の全貌を把握しているところでしょう}
「話が早い。もしかすると、あなたもこちらに到着しているのかしら」
{ええ。あなた方のちょうど真上に。せっかくですから会ってお話ししましょう。待っていますよ}
———屋上へとあがる三島と松隈を九条ハジメが迎え入れる。
「…お父上のこと、残念だった」
「ああ。最初に何が来るかと思っていたら、そのことでしたか。それは今はまだ特に気にすることはありません」
実父の死をまるで他人事のように話す九条に、松隈が口を挟む。
「とは言っても九条さん、ジュウイチモン教授はあなたの肉親なわけですし」
「ああ、いえ、気にしなくていいというのはそういうことではなく。まあ実際に死んでいても特に気にはしないのですが」
「なに?」
「私が思うに…あれはまだ死んでいない。そう簡単に犬死にするような人間ではありません。何より、彼の拠点がこの辺鄙な田舎町に建てられた研究施設1ヶ所のみとは考えにくい」
非現実的な状況の連続に松隈は動揺を隠せなかったが、三島は依然として受け入れている様子だった。
「なるほど。確かに、あの人間離れした身体能力を有する機械頭の男。あなたの予測通り、あれがお父上の発明品だとするならば合点がいく」
「物分かりの良い方で感服いたします。三島アツコ警部、あなたとは良いビジネスパートナーになれそうだ」
「…この町の住民は?」
「私と一緒に到着した捜索隊が随時保護しています。避難用の仮設シェルターを急ぎ設置中とのこと」
「わかった。私たちはこれから例の機械頭の捜索に向かうわ。何か進展があったら私からも連絡を入れる」
「ああ、それでしたら…」
九条は懐から小型の機械を取り出し三島に手渡した。
「こちらを持って行ってください」
「これは?」
「詳しい使い方はマニュアルを参照くださいあとでメールにお送りします。道中お役に立てるはずですよ」
「これがあなたの、近代技術の研究かしら。それとも考古学?」
「どちらとも言えますね」
三島が振り返り歩き始め、松隈はその後を追う。数歩進んだ先で立ち止まったかと思うと、九条に背を向けたまま口を開いた。
「それから一つ。これはビジネスじゃない。命を軽視することなど、いつ何時でも許されないこと。これは今現状我々と協力下にある九条教授、あなたにも肝に銘じておいていただきたい」
「っふふ」
九条は不敵に笑い、三島たちの背が遠のいていくのをただじっと見つめていた。
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あれからどれくらい時間が経っただろうか。村上ハナは殺風景な工場跡地で未だ縛り付けられていた。静寂の中、ただ一点を見つめる彼女の側で不気味な機械音だけが時折耳をつんざく。たまに吐き気を催しても、出てくるのは胃液だけだ。
「あなた、思ったよりしぶといのね❤︎他の人間たちよりよっぽど…」
ハナの目の前に立つ赤髪のカッパが呟いた。
「他の…?他の人にもこんなこと…」
「あら?まだ自我を保ててるのね。若いからと思ってちょっと薄くしすぎたかしら」
赤髪は機械の前へ移動し少し操作した後、振り返りハナの頭を撫でた。
「ちょっとだけ、レベルを上げるわね❤︎」
ハナは絶望した。この世に存在するものとは思えない狂気。逃れられない恐怖。悍ましい怪物の掌中へと彼女はすでに呑まれていた。
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「全然動かねえな、死んでんのか?」
「そもそも人なんでしょうか」
カッパ・イート・マンを取り囲み、男と少年が言葉を交わしている。
「バケモンたちの仲間かもしれねえな」
「でも、奴らと違って血が赤色ですよ」
「何が言いてえんだよ、どっちなんだよテメェの意見は」
「あ、すいません…ただ僕は、正体不明のものに安易に近づきすぎるとよくないんじゃないかなー、と」
〈〈〈カッパ・イート・マン、カッパの血肉を絶ってから12時間経過〉〉〉
Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
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Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
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Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
Eat the KAPPA Eat the KAPPA Eat the KAPPA
[protocol: OVER DEVOUR]
カッパ・イート・マンの切断された四肢の断面から無数の触手が這い出てくる。欠損した部位の機能を補っているようだ。
筋肉は膨張し、彼に残っていた人の部分すら変わり果てていた。
——“人ではない”。
その場に居合わせた2人はそう直感した。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
マスクの開口部から獣のような咆哮が放たれる。
獣と化したカッパ・イート・マンが2人の前に立ちはだかった。
「こ、れは…僕たち敵対されてるっぽいすね」
「ああ、明からさまにな」




