第13回 「因縁」
「どうやってここに…なんて、もうそんなことはどうでもいいわ〜。元々隠れるつもりもなかったし」
赤髪…今や“ルーシー”と名を与えられた奇怪のカッパは、目の先に立つ兵器、かつて自身の手で心臓部を貫いたはずの男に視線を送る。
胴体の中心、パーカーに大きく開いた穴から見えるその肉体は修復されつつあるものの、貫かれたような後はくっきりと残っていた。
「それより気になるのは、アンタがなぜ生きてるかよ❤︎私は確かにアンタの心臓を抜き取った。持ち帰って解剖してみた結果、何か重要そうな物を見つけたわ❤︎…これがアンタの生命維持機能を担っているのかと思ったけど、それはまた別だったのね。まあいずれにせよ、アンタの心臓はもう元あった場所にない…何が言いたいかわかる?」
ルーシーはカッと口を開き歯を剥き出しにして高らかに笑う。
「アンタはもう、人間じゃあないってことよ!」
「違う!」
先ほどまで口を聞かなかったハナが、ルーシーを鋭く睨みつけた。
「カッピーは…人間」
「……………………あっそ」
ルーシーは後ろを振り向き奥に向かって歩き出す。
側近らしき2体のカッパがハナの体を抱え後に続いた。
「てめえ!待ちやがれ!」
萩原が遠のいていく赤髪に向かって叫ぶ。
「ばいば〜い❤︎ワタシたちはもう行くから。来るのが遅かったわね」
カッパ・イート・マンたちの向かい側、ルーシーの前にある大きな扉が開く。
「追いますか?」
マスミは萩原とカッパ・イート・マン両者に視線を送った。
「アンタたちの相手はこの子がするから」
ルーシーは両手を上げ、伸びをしながらその指を弾く。
「ブラッディ〜ご飯よ❤︎」
ドォオオンッッッ!!!!!
側面の壁を破壊し、隣の部屋から巨躯が飛び出してきた。
肥大化した筋肉、全身には太く腫れ上がった緑色の血管が脈を打ち、皮膚から各所、血液が少量吹き出ている。
手には自身の体長ほどの大きさがある斧が握られていた。
しかし、カッパとは見た目が少し違っていた。
「ありゃ、人間か…?」
「それは…いや、そんなはず…」
恐怖する2人を横目に、カッパ・イート・マンは武器を強く握り直す。
「待て。あんたはあの赤髪を追え。このデカブツは俺らが引きつける」
「アァ?てめえらじゃあ1秒も持たねえだろ」
「見くびらないでください。これでも僕たちは、暴走したあなたを一度、制圧してるんだ」
マスミは萩原が過去に放ったハッタリに乗っかってみる。
萩原は少し咳払いをし、
「あんた、付き合いは浅いが悪いヤツじゃねえってのはわかる。あの嬢ちゃんのあんたを見る目を見りゃな。行け、ハナはカッピーが命懸けで守りたいモン…そうだろ?」
ハナを連れ去る怪物たち。
突如飛んできたステンレス定規に2体の側近の首が両断され2つの頭部が宙を舞った。
「カッピー!!」
カッパ・イート・マンはカッパたちの首の切断面から血を吸い出し、そのまま内臓までも抜き取り貪る。
勢いに任せ飛躍し、ルーシーに狙いを定め武器を構える。
全身に走る電流。耳奥で響くシンセサイザー。握る刃により一層力を込める。
因縁の相手は、眼前。
ガキィィン!!
突如、カッパ・イート・マンを挟みルーシーの前に淡い紫色のバリアが現れた。
カッパ・イート・マンはハナのいる後方まで弾き飛ばされる。
「…チッッ」
「カッピー!」
「あら❤︎準備がよくて助かるわ……後で貸しとか言わないでよね」
工場跡地後方の扉から出てすぐ、ルーシーの立つ位置から数メートル先は断崖絶壁。その真下は海水が波打っている。
「はぁ…そんなに時間かけてらんないってのに…。もういいわ、その女は捨てる。別にアンタレベルの素材なんて、探せばどこにもいるでしょ」
ルーシーは振り返ると少し屈んで、膝をついている2人に目線を合わせた。
「さあここで問題❤︎ワタシはこの崖っぷちからどうやって次の目的地まで移動するでしょう〜。正解はね、“魔法”を使うのよ❤︎」
ルーシーがそう言うと、彼女の背後から先ほどのバリアと似た紫色のオーラが現れ、それは空間に穴を開けた。
奥は別の場所へと繋がっているように見える。
「じゃあね❤︎この地の終わりまで、2人で仲良くやってるといいわ」
ルーシーは別の空間へ続く扉をくぐり、2人に手を振った。
カッパ・イート・マンは追うように走り手を伸ばす。
ルーシーに手が届きそうになる寸前、その扉は閉ざされ紫色のオーラが消えた。
「…っくそが」
カッパ・イート・マンは先ほどまでルーシーの姿があった何もない空間を睨みつける。
「逃げちゃったね」
気がつくとハナが隣に立っていた。
「でもこれで私…」
「おおおおいいい!!助けたのか!?どうだ!?どうなった!?助けたんだったらこっち来て手伝いやがれえええ!!」
後方から萩原の叫び声が聞こえ2人は振り返る。
「……はっ」
「えっ、今笑った?」




