第12回 「断島計画」
工場跡地、奥の部屋。赤髪のカッパは、椅子に座り特殊な通信装置に向かっている。
「…Complete。以上で、定例会議を終了とします」
「ああ。互いに補強し、互いに譲歩し、各々が受け入れ得る着地点を見出す。それが、この同盟の意義だ。我々の未来のために」
「我々の未来のために」
通信装置からは、女の声に似た機械音声と威厳のある男の声が聞こえてくる。
「時にルーシー、そちらの計画は順調か?実力を疑うわけではないが、貴殿は我々と少し違う。いわば突然変異体だ。配下どもの指揮系統に問題はないか、どうも気がかりでね」
男の声で“ルーシー”と呼ばれた赤髪は、その声に応える。
「…余計なお世話よ。最初は言うことを聞かない子たちもいたけどね。今は、ワタシの手足のような存在だわ❤︎そっちに向かうのも、ちょっと早められそう」
「本当か?」
「ええ、人間の邪魔が入って、もうあんまり長くこっちには留まれそうにないのよね」
「Question。具体的にお聞かせ願えますか。我々も脅威となる可能性については把握しておきたいのです」
「仲間が少し実験に使われてるみたい…厄介なのが1人いるみたいね。何か計画を企てるんだとか。ま、大した問題じゃないわ」
「すでに滅びゆく運命にある種が、我々に対抗しようと?その、計画というのは?」
「ええ、確か…断島計画、と言っていたかしら」
同時刻、三島は九条と通話を繋いでいた。
「断島計画…?」
「ええ、先ほど送った映像資料はご覧にいただけましたか?研究で、カッパは海水が肌に一定量触れると致命傷を負うことが確認できました。つまり、奴らは海を渡れない」
「だから、この町を日本から切り離し、孤島にして隔離する、と?」
「ええ、そうすれば奴らをこの地に封じられます。元々、ほぼ海に囲まれた半島のような構造ですし、そこまでコストもかかりません」
「民間人はどうする?あの怪物たちと共に国の管理下から追いやると?」
「必要な犠牲です。反対しても無駄ですよ、もう決まったことだ」
九条は捨て台詞のようにそう言い残し、勢いよく通信を切った。
「くそッ…」
「そ、そんな…」
近くにいた松隈が落胆し肩を落とす。
「松隈、急ぎ船を手配。それから各避難シェルターに連絡を」
「はい!」
「くれぐれも事の全容は伏せるようにね。これ以上、混乱を招くわけにいかないわ」
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それから数日。
ハナがここに連れ去られてきてからは、どれほど経っただろうか。
ハナの意識は常に朦朧としていた。
もう生きているのか死んでいるのかさえ、感覚がない。
「おまたせ❤︎準備は整った…ここを発つわよ。アナタを運ぶのはすこ〜しだけお荷物だけど、それよりもここに残す方が損失は大きいものね。感謝して❤︎…って、もう聞いてないかしら?」
また、奴が来た。奴が口から出した言葉は、もうハナの耳には情報として入ってこない。
目の前の景色がぼやける。視界に白いモヤが入るような感覚。何も視えない。
ただ、そこに1人だけある人物の姿が浮かぶ。
どれほど苦痛を受けようとも、彼はハナの頭のどこかに必ずいた。
私を、こんな世の中から救ってくれる唯一無二の存在。
「上の空ね…この期に及んでまだアイツのこと考えてるの?無駄よ、ワタシが殺したから❤︎」
そう。彼はもうこの世にいない。
心臓を貫かれ、大量の血を噴き出しその場に倒れる光景をこの目で確かに見た。
まただ。
また、誰も手を差し伸べてくれない。
結局、私は——。
ガーーーーーーーーッダァン!!!
工場の扉が勢いよく開いた。
日光を背に、3人の勇姿がシルエットとして浮かび上がる。
彼らが一歩踏み出すたび、その輪郭ははっきりと視認できるようになる。
「あら?ふふっ…あらあらあら❤︎」
「カッピー…」
ハナの世界に差し込む一筋の光。
「あいつか。んだよ、体格とか普通の奴らとたいして変わんねえじゃねえか」
「ええ。ですが奴は知能を持ち、他の個体に対する指揮権を持っています。くれぐれも慎重に」
「ぶ っ 殺 す」




