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終電で知らない駅に降りた。ホームにいた全員が「明日死ぬ人」だった。  作者: 不可思議ラボ


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5/7

第5話 僕は、この少年を一度死なせていた

「この駅が

死ぬ時刻です」

駅員の言葉を

すぐには理解できなかった。

「駅が死ぬ?」

「どういう意味ですか」

駅員は

僕の手にある入場券を見ている。

「その切符を

捨ててください」

「先に答えてください」

「22時09分に

何が起きるんですか」

駅員は黙った。

代わりに

少年が口を開いた。

「僕

その時刻を知ってます」

全員が

少年を見る。

「どこで?」

「夢の中です」

「夢?」

少年は

首を横に振った。

「たぶん

夢じゃない」

「思い出してるんだと思います」

少年が

僕の入場券に触れた。

その瞬間

頭の奥に

激しい痛みが走った。

景色が変わる。

昼間。

人であふれた駅。

僕は

改札の前に立っている。

目の前には

制服姿の少年。

今ここにいる

少年だった。

だが

少し幼い。

「これを持ってて」

過去の僕が

少年に切符を渡す。

入場券。

今

僕が持っているものと

同じだった。

少年が聞く。

「これで

助かるの?」

過去の僕は

答えなかった。

映像が途切れる。

僕は

ホームへ戻った。

「今の……」

少年も

青ざめている。

「僕も見えました」

「いつの記憶だ」

少年は

しばらく考えた。

「一年前」

一年前。

その言葉を聞いた瞬間

また記憶が流れ込んできた。

雨の日。

救急車。

駅前に集まる人。

線路のそばに

落ちた学生鞄。

そして

泣いている女性。

「返して!」

女性が

僕に叫んでいる。

「息子を返してよ!」

僕は

何も言えない。

足元には

少年のスマホ。

画面には

ニュース速報。

「駅構内で

男子中学生が死亡」

息が止まった。

僕は

目の前の少年を見る。

「君は……」

少年は

静かに頷いた。

「僕

一年前に死んでます」

老人が

後ずさった。

女性が

口を押さえる。

スーツ姿の男は

言葉を失っていた。

「じゃあ

お前は……」

「幽霊なのか?」

少年は答えない。

僕の頭には

さらに記憶が戻ってくる。

一年前。

僕は

この少年を知っていた。

駅員だった。

今いる

この終着駅ではない。

普通の駅。

僕はそこで

働いていた。

あの日。

ホームに

少年がいた。

イヤホンをして

スマホを見ながら

歩いていた。

その先。

黄色い線。

僕は気づいた。

「危ない!」

走った。

だが

間に合わなかった。

少年の体が

ホームから消えた。

警笛。

悲鳴。

そして――

僕は目を閉じた。

「僕のせいだ」

少年が

首を振る。

「違います」

「違わない」

「僕は駅員だった」

言葉にすると

記憶がさらに戻った。

事故のあと

僕は仕事を辞めた。

毎晩

同じ夢を見た。

少年が落ちる瞬間。

あと一秒早ければ。

あと一歩近ければ。

もし

時間を戻せたなら。

もし

死亡予定を

取り消せる駅があったなら。

僕は

そんなことばかり

考えていた。

ある夜

知らない封筒が届いた。

中には

一枚の切符。

「終着駅」

裏には

こう書かれていた。

「一人だけ

死亡予定を

取り消すことができます」

僕は

その切符を握りしめた。

そして願った。

「あの子を

助けてくれ」

次の記憶。

僕は

夜の駅にいる。

誰もいないホーム。

目の前に

あの少年が立っていた。

死んだはずの少年。

僕は泣きながら

少年に入場券を渡した。

「今度こそ

助けるから」

記憶が途切れた。

僕は

その場に座り込んだ。

「僕が……

君をここへ連れてきた」

少年は

何も言わなかった。

「だから

君は侵入者だった」

本来

死亡予定者ではない。

すでに一年前に

死んでいるから。

僕が

この駅の仕組みを使って

死者を連れ戻そうとした。

だから

人数が狂った。

だから

駅は再試行を繰り返した。

僕は

駅員を見る。

「そうなんですね」

駅員は

ゆっくり頷いた。

「この駅は

これから死ぬ人間の

死亡予定を扱う場所です」

「すでに死亡した人間を

戻す場所ではありません」

少年を見る。

「じゃあ

この子はどうなる」

駅員は答えない。

「22時09分に

駅が死ぬことと

関係あるんですか」

長い沈黙。

やがて

駅員が言った。

「この駅は

矛盾を修正しようとしています」

「死んだ人間が

生きているという矛盾を」

「修正できなければ?」

「駅そのものを

消去します」

ホームに

冷たい風が吹いた。

「駅が消えたら

僕たちは?」

老人が聞く。

駅員は

淡々と答えた。

「ここに存在する

すべての人間が消えます」

誰も動かなかった。

つまり

22時09分までに

この矛盾を直さなければ

全員消える。

僕は

少年を見る。

答えは

分かってしまった。

少年を

元の死へ戻せばいい。

僕が一年前に

救えなかった瞬間へ。

少年も

同じことに気づいたらしい。

「僕が消えれば

みんな助かる?」

「そんなことさせない」

反射的に答えた。

少年は

少し笑った。

「一年前も

そう言ったんですか?」

胸が痛んだ。

そのとき

電光掲示板が切り替わった。

「修正方法を

選択してください」

二つの選択肢。

「侵入者を

本来の死亡時刻へ戻す」

そして

もう一つ。

僕は

その文章を読んで

息を止めた。

「駅を呼んだ者が

侵入者の死亡を引き受ける」

少年が

僕を見る。

僕は

ようやく理解した。

なぜ昨日の僕が

少年を殺そうとしたのか。

なぜ

五人全員を

見殺しにしてまで

時間を稼いだのか。

僕は少年を

殺そうとしていたんじゃない。

少年が

僕の代わりに

死のうとするのを

止めようとしていた。

そして

僕には最初から

死亡時刻がなかった。

当然だ。

まだ

選んでいなかったからだ。

電光掲示板が

激しく点滅した。

そして

僕の名前の横に

初めて時刻が表示された。

「22:09」

少年が

震える声で言った。

「駄目です」

「それを選んだら

あなたが死ぬ」

僕は

表示を見つめた。

その下に

新しい文字が現れた。

「最終選択まで

残り1回」

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