騒動
「……ちょっと待ってください、魅了?」
私たちは信じられないといった顔でグリーゾさんを見る
ディアス殿下だけは表情を変えなかった
だけど聖女様はアステリを攻略しようと奮闘している
だから、あり得ない話ではない
「どこで覚えたのか疑問ですがミヤさんに話したらしいですね
ここがゲームの世界だと
そのゲームの内容とこの世界が酷似しているのであればゲームでの経験が彼女を後押ししたとも考えられます
ゲームで知っていれば、ある程度の推測も立てやすいですから
どこかで覚えられる場面があるのかもしれません」
「靡かないのに焦って使い始めたか、無自覚に使っているかのどちらかだろう」
「どちらにせよ、あの女は聖と闇を使える…ということか」
ティルクアーズさんとグリーゾさんの言葉にディアス殿下は頷いた
ラハニス経由で二人も聖女様の顔を知っているらしい
観察していたけど一分もしないうちに見るのをやめてしまったんだとか
あれは無理だ、と言ったティルクアーズさんにグリーゾさんも同意していた
「とりあえず問題はあの聖女に魅了された者たちが居るということだな
話を聞く限り第三軍とやらは虜になっていると考えて良いのか?」
「そう考えて良いかと思います
元々第三の皆さんは奔放でしたが最近さらに悪化し始めていますから
聖女様の言うこと全て肯定しているようですし
ひとまず術にかかっている者たちを浄化したいです
第三軍はもちろんですが、おそらく民たちも少なからず被害が出ているのではないかと」
そこでセリーニさんが静止をかけた
「民たちを浄化させたいということは事情を伏せた上でポーションか薬草茶を配るということだろう?」
「えぇ、怪しまれないように薬草茶にしてもらおうかと思っていますが」
「それはもうポーションと同等の力があるよな…」
私をちらっと見るセリーニさんに首を傾げたが気づいた
そういえば契約書みたいなものを交わしていたんだった
ディアス殿下は当てはまらないとは思うけど言っておいたほうが良いだろう
「…なるほど、でしたら対価は私が払いましょう
ミヤさん、それで良いですか?」
「私は構いませんが…」
「では後で対価は請求してください
私のほうから民たちには流行している病の予防と言って薬草茶を飲んでもらおうかと思います」
ディアス殿下からの依頼の後、すぐに薬草を取りに三人で神の庭に行った
グリーゾさんが乗せてやる、と言ってくれたので甘えることにした
大量に薬草を持って帰ってきて三日後、食堂の鍋を借りて大量に作る
手伝ってもらったりしたから出来上がった薬草茶を食堂の人たちに一番に飲んでもらった
彼らも聖女様と第三軍に迷惑していて頭痛が絶えなくなっていたんだとか
「持っていけば良いのか?」
「あ、ありがとうございます」
あれから様子を見るためにラハニスに変身魔法を再びかけてもらって医務室に寝泊まりしていたグリーゾさんが大鍋を魔法で浮かせて運んでくれる
私もおたまなどの調理器具を持って後ろをついていった
「ひと通り見て回ったが、やはりこの城が一番濃いな
ここで暮らしているからだろうが、それでもこれほどまでに充満しているとはな
今娘が通っている場所は消え始めているが、それでも染み付いている場所が多すぎる」
「たぶん周りの止める声を無視して好きに行動しているからでしょうね
皆さんの様子はどうでした?」
「ほとんどの者が顔色を悪くしていたな
だが、そんなことに気づけないほど魅了されている者も居るようだ
第三とやらの者がその代表だな」
そんな話をしながら広場に着いた
すでに殿下からの知らせを聞いていた人たちが集まっている
テーブルなどの設置をしてくれていたフィトーさんとルルーディ、集まっている人たちの整列をしてくれている第二軍の皆さんのところにグリーゾさんと向かった
ディアス殿下の言う通り、流行り病の予防の為だと聞いているみたいで素直に受け取ってくれる
聖女様が配っているのではないということに困惑している人も周りに促されて飲んでいた
足りなくなりそうだったら作って、を繰り返して半日かかってようやく平民の方たち半分くらいに配ることができた
「お三方、我々が代わりますので休憩してください」
第二軍の方たちが追加で応援に来て声をかけてくれた
お礼を言ったものの私が配ることで浄化の力が付与されるのではないかと思う
順番に休憩しようという話になりフィトーさんに先に休憩してもらった
その後も順調に配っていると騒がしくなってきた
「ちょっと! 何勝手なことしてんの!」
それは聖女様と第三軍の人たちだった
薬草茶を配るのを止めるように周りに言いながら私たちに向かってくる
第二軍の方たちがルルーディと私を守るように前に立ってくれた
「ちょっとオバサン! 何してんのよ!」
「何って、ディアス殿下からの依頼で流行り病の予防に薬草茶を配ってるだけだけど」
「なんでアンタに依頼がいくのかって訊いてんのよ!
浄化って言ったら聖女であるアタシの仕事でしょ!」
「それは殿下に直接訊いてください」
聖女様は私の返答に苛立ちを募らせたようだった
それでも事実だから言わなきゃ分からないだろう
第三軍の人たちも私を睨み聖女様に譲れ、と怒鳴った
聖女様は顔を真っ赤にして私を指差す
「アンタなんかよりアタシのほうが役に立つに決まってるじゃない!
もういい! アタシが全部やるから!」
すると第三軍の一人が私の手から鍋を奪おうとした
咄嗟に避けると鍋が地面に転がり、私もバランスを崩して尻餅をつく
第二軍の人が抑えようとしたけど聖女様が私の上に馬乗りになった
「アンタなんか居なければ良かったのに! 全部アンタのせいよ!」
胸ぐらを掴んで手を振り上げて殴ろうとする彼女に私は目を閉じた
だけど予想していた衝撃は来ず、恐る恐る目を開けるとグリーゾさんが聖女様の手首を掴んでいた
「…放しなさいよ!」
「娘に危害を加える者を許すわけがないだろう」
そう静かに言うグリーゾさんの魔力が膨れ上がる
周囲の空気が凍りつくように冷たくなり、周りに居た人たちが震えあがった
「お前の魔力……気持ち悪いな」
そう言うとグリーゾさんは聖女様を私から引き剥がして地面に投げ飛ばした
第三軍が慌てて駆け寄るも彼らにも鋭い視線を送る
「お前たちも同罪だな」
闇属性の魔力を練りあげグリーゾさんはあっという間に彼らを捕縛していた
「放しなさいよ! はなし、んぐーっ!」
喚く聖女様の口も塞いで彼らを絞め殺そうとする
私は慌ててグリーゾさんの腕を掴み止めた
頭を振り大丈夫、と言う私を見ると舌打ちをして緩めてくれた
息を吐くと同時にフィトーさんとルルーディが心配してくれて騒ぎを聞きつけたアステリとメガロスさんが現れた
口を塞がれている聖女様、捕縛されている第三軍を見て
「…何があった?」
「俺は娘に害を与えようとしたこの女に罰を与えただけだ」
腕を組みながら言うグリーゾさんから未だに、もごもごと言い続けている聖女様を見るとアステリは分かった、と言った
メガロスさんも長いため息を吐くと第二軍に聖女様たちを連れていくように言った
「怪我は?」
「大丈夫、グリーゾさんが助けてくれたから
ありがとうございました」
お礼を言うと嬉しそうにしたグリーゾさん
すると、それを見ていた周囲の人たちが騒ぎ始めた
聖女様の奇行以上に私に視線が集まる
「あれって確かドラゴンのグリーゾ様が化けてるんだよな?」
「そのグリーゾ様と仲良く会話しているって…」
「誰? あの女性……」
「あれってミヤちゃんじゃないか?」
「…もしかして彼女こそ聖女なんじゃないか?」




