レム
「アンタね! アタシのヒロインの座、奪ったの!」
医務室の扉が壊れそうなくらい勢いよく開くと、目を丸くする私たちを一瞥した聖女様が私を指差してそう叫んだ
彼女はズカズカと私の前に歩いてくる
フィトーさんが私を庇うように前に立つも彼女は意にも介さない
「どいてよ! 邪魔!
アンタ! もうアステリ様に近づかないで!」
「…どうして?」
「そのままの意味よ!
アンタみたいな地味な女、アステリ様には合わないんだから!
本当だったらアタシがアンタの立場でアステリ様を攻略するの!
なのに! なのに! なんでアンタみたいな地味で冴えない女が居るのよ!
意味不明! もっとストーリーを大切にしなさいよ!」
フィトーさんの腕に阻まれているものの聖女様の手が私に向かっているのが分かる
「とりあえず、この世界はアタシを中心に回ってるんだから邪魔者は退場してよ!
ストーリーをねじ曲げる存在は悪役に決まってるの!
アンタが居るからアタシのストーリーが進まないの!」
すみれが驚きと怒りで身体の毛を逆立てていた
激昂する彼女の言葉を冷静に考える
「…あなたが私の立場で本来ここに居るって、どういうこと?」
「……は? 何アンタ、このゲーム知らないの?」
彼女の問いに頷くと途端に静かになった
そして、にやりと笑うと勝ち誇ったような顔になる
「なぁんだ、アンタ知らないんだ♪
よく見ればアタシよりオバサンっぽいし、アステリ様がアンタを相手するわけないか♪
焦る必要なかったじゃん♪」
そっかそっか、と笑う彼女に再び訊く
「いーよ、教えてあげる♪
聖女召喚でこの世界に来て聖女になるんだけど教会に行くか、医務室で働くか選択できるの
医務室はアステリ様だったりカフェティ達だったりフィトーだったり、あとディアスも居たかな?
いろんな人と会うから攻略範囲が広がるの
だからココに来ればストーリー壊してる元凶に会えると思ってたの
少しずつ違ってるんだもん
まさかオバサンだとは思わなかったけど♪」
ふふ、と笑うと彼女は私を指差して
「余計なことしないで、そこで大人しくしててよ」
そう言って医務室から出ていった
嵐が去った後のように静まり返る室内
全員でため息を吐いた
「ミヤ、怪我は?」
「大丈夫です……フィトーさんも怪我はありませんか?」
「俺は大丈夫
彼女、暴れるけど力はそんなになかったから」
それを聞いた後、ルルーディを見ると彼女も大丈夫と言った
安心して息を吐き先程の彼女の話を考える
彼女が話したのはゲームの内容だというのに、あまりにも私が体験したことに似ていた
偶然なのか、そうじゃないのか
ゲームの補正力というものなのか
「…ミヤ、大丈夫?」
【大丈夫ですか?】
ルルーディとフィトーさん、そしてすみれが心配そうに私を見つめる
私は力強く頷いた
どっちであっても関係ない
私にとって、ここは現実なんだ
だったらすべきことは変わらない
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昼過ぎ
書類仕事を片付けていると誰かが走ってくる音が聞こえる
と思えば勢いよく扉が開かれ、聖女が現れた
「アステリ様ぁ♡」
視認した瞬間、眉間に皺を寄せた
驚いてカスタノ達が持っていた物を落としそうになったりしていた
アステリ様ぁ、と甘えた声を出しながら俺に近づいてくる聖女
なるべく彼女を見ないようにしながら
「聖女様、急に来られると困ります
事前に訪問日を伝えてもらえないでしょうか?」
「え〜、アステリ様に会いたいから仕方ないじゃないですかぁ〜」
「それでも突然は困ります
公務もありますので予定をお伝えします
その中で聖女様の訪問日を決めていただければ」
「そんなの面倒なんだけど……あ、じゃあ毎日アステリ様の家に居ても良いですか?」
「あぁ?」
あまりにも予想外の言葉に低い声が出た
それも聞き取れなかったのか聖女は笑ったままだった
「軍隊長…」
カフェティが聖女の後ろで頭を振る
重く長いため息を吐き気持ちをなんとか落ち着かせた後、もう一度同じことを伝える
「俺は民の生活を守るため働いています
そのため、そんなに時間はありません
公務で忙しいので事前に訪問日を伝えていただけると有り難いです」
「だから毎日でも良いですかって訊いたのにぃ……アステリ様が居ればアタシはなんでも良いもん♪」
そう言われた途端、頭が沸騰しそうだった
この女は俺以外をまるで居ない者としている
俺の部下であるカフェティやカスタノ、隊員たちも自分の世話をしてくれている侍女や執事たちも、みんなを蔑ろにしている
それに気づいているのかいないのか分からないが、そんな無礼な態度を取られる謂れはない
みんな己の生活のため、そして国のために働いてくれている大事な人間だというのに
「では、今後も俺が決めた日に来てください」
「えー⁉︎ 仕方ないなぁ…」
聖女は、まるで自分が譲ってやったと言わんばかりに頬を膨らませながら部屋を出ていった
完全に廊下の向こうまで行ったのを確認するとカスタノ達が頭を抑えていた
俺も同じ気持ちだと思いながら
「あの女、何…? 怖いんだけど」
「色々教え込まれてきましたが、こんな恐ろしい思いは初めてです…」
「俺もだ…魔物より怖い」
全員が疲れた顔で口々に言う
俺は椅子にもたれて天井を見上げた
さっきまで、いつも通り書類仕事をしていただけなのに最後にこんな疲れるとは思わなかった
カフェティが哀れむように俺を見ていた
「軍隊長でないにしろ、いつか誰かに刺されそうですね」
「……かもしれないな」
ぼそりと呟くと全員が苦笑しつつ頷いた
それだけじゃ済まないかもしれませんよ、とカフェティが続ける
「軍隊長のことしか見てませんからね
もし聖女として功績をあげたら婚約とか求婚とか言い出しそうです」
「…勘弁してくれ、冗談でも笑えない」
「冗談でも笑えませんが真面目に考えておかないと面倒なことになりますよ
皇后陛下は拒否してくださるでしょうが国王陛下だと…」
カフェティの言葉に、その場に居た全員が真顔になった
確かに国王だと了承しかねない
国というよりも個人の利益優先で動く男だ
「…報告も兼ねてセリーニ達と話し合ってみるか」




