乙女ゲーム
「おそらく聖女様が言っているのは乙女ゲームのことだと思います」
「「おとめゲーム?」」
あの後お茶を飲み終わり解散して、業務が終わった後
セリーニさんの部屋にアステリと共にお邪魔した
私の言葉に対面で座る二人は首を傾げる
聖女様が言っていた単語を聞くに十中八九、乙女ゲームをプレイしていたんだろうと思う
「えっと……主人公が女性で、恋愛中心で物語が進んでいく娯楽の一種です
選択次第で相手も物語も変わるので疑似恋愛できると私が居た世界で人気がありました
彼女が言ってる単語はそこに出てくるものばかりですし何よりアステリに会いたかった、と言っていたことを踏まえると…」
聖女召喚の儀式でこの世界に呼ばれたっていう設定だと思う
アステリとセリーニさんが攻略対象と考えれば彼女の言葉の意味が分かる
たぶんアステリ推しの子なんだろう
単語の説明をしながら話すとセリーニさんはなるほど、と納得した
アステリは理解が追いついてないのか固まっている
「つまり彼女がこの国に来た目的はアステリだということか
この世界が作られたものというのが理解し難いが…ゲームの内容をミヤは知ってるのかい?」
「いえ、私は何も…
知っていたら良かったんですけど乙女ゲームってとても多いんですよ
自分の好みじゃなければ遊ばないですから把握していないもののほうが多いと思います」
そう言うとセリーニさんはなるほど、と頷いた
この世界がゲームの世界ってことと二人が攻略対象であることしか分からない
他に攻略対象が居るとしたら二人の義弟であるディアス殿下やフィトーさんもあり得そう
「フィトーにもディアスにもすでに婚約者が居る
近づこうとすれば周りの人間が止めるだろう
俺たちも注意しておくから、そこは心配しなくて大丈夫だ」
そう言ってもらえて安心できた
そして未だに頭を抱えていたアステリに声をかけると顔を上げて私を見る
「……彼女がミヤを知ってる可能性は?」
「え、と…どうだろう
ゲームの内容を知らないから分からない
私という存在は居ないとは思うから…気づいてもモブ扱いするかもしれない」
モブというのはゲームに出てくるキャラクターとして認識されていない、ただの通行人みたいなものだと説明する
たぶん彼女はメインキャラクター、攻略対象のことを主に覚えていると思う
「でも……この世界がゲームの中だと疑ってないなら彼女が知っている展開になっていなければ違和感を覚えると思う
瘴気について言っていたんですよね?」
セリーニさんは頷いた
「そこから私のこととか気づく可能性はあると思います
自分以外に聖属性を使える人間が居るんだって
私が現れたことで展開が変わった部分があってもおかしくありません」
二人が顔を見合わせる
迷い込んだのは偶然だとしても微量の瘴気が見えなければラハニス達の不調にも気づけなかったし、アシーミ様に会うことも暗がりの森の浄化も始めなかった
私が瘴気の浄化をしていっているからこそ彼女が召喚されてしまったというのもある
どこがどう変わったのか分からないけど聖女として召喚されるのが設定なら、この世界はもっと酷い状態だったと思うから
「気づいた場合…ミヤに何か…危害を加えると?」
「その可能性はあると思う
アステリに近づこうとしている子なら尚更、聖属性が使える人間だと分かれば私も二人を攻略しようと動いているんだって思うだろうから」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
淡々とミヤから話される内容に頭がついていかない
この世界がゲームだというのも疑問だが、聖女が自分が主人公だと疑ってないようなのが意味が分からない
しかもミヤを邪魔者扱いするかもしれないなんて
まずは聖女がどの程度この世界を理解しているかを調べなければならない
そして彼女をどう扱うか
ミヤの存在をどう隠していくか
考えなければならないことが多すぎる
「とりあえずお祖母様とディアスにも報告しておくべきだな」
情報が多すぎるのと疑問点がありすぎるということで一旦話し合いは解散した
ミヤが出ていった後、ディアスの名前を出すとセリーニは苦笑いした
最近は打ち解けてきて良好な関係を築けているからこそ負担をかけたくない
そう思いながらお祖母様の執務室の扉をノックした
ディアスも居て俺たちを見ると苦笑いする
「お二人とも、お疲れ様です
聖女様の対応が大変だと聞きました」
「あぁ……疲れたよ本当に」
「真っ青な顔で帰ってきたと聞いた時は驚きましたが…元気になって良かったわ」
そんな会話をした後、先ほどのミヤから得た情報を話した
二人は真剣な表情で聞いている
すべてを聞き終わると、お祖母様が深くため息を吐いた
「本当に厄介な問題が持ち込まれましたね」
「えぇ……でもその前に確認しておきたいことがあります
彼女が本当に聖女として召喚されたのかどうか」
ディアスの言葉に首を傾げると彼は少し険しい顔をする
「召喚魔法は魂を呼び込む魔法です
召喚される側の意思は関係ありません
そのため稀に失敗して全く関係のない魂が呼び出されることもあります」
その言葉に息を呑んだ
つまり彼女が本当に聖女として召喚された保証はない
「調べる方法はあるのか?」
「簡単です、彼女に聖属性魔法を使用してもらえば良いだけです
ただ…私たちが直接確認することができれば良いのですが…」
ディアスの言葉にセリーニと共に首を傾げる
再びため息をついたお祖母様が続けた
「すでに教会の者たちが聖女召喚を成功させたと触れ回ってるそうなの
彼女の存在を証明するために躍起になっているわ
どんな理由にしろ聖女が現れれば民が期待するでしょう
私たちが改めて調べるとなれば黙っていないでしょうね」
教会の人間の暴走は過去に何度かある
暴走した人間たちによって反感を買い教会は民からの信用を失いつつあるらしい
だからこそ躍起になっているんだろう
スコティノース王国側でも教会は大きく動いているようだ
「まずは聖女かどうかを確かめるしかないんだろうけど…お祖母様、よく彼女を迎え入れようと思いましたね?」
「スコティノースから言われたからですよ…
争いの種はなるべく潰しておかないと」
「スコティノース側が圧力をかけてきたんですか?」
「正確には聖女様に会わせたいという名目での訪問要請ね
断る理由もないし、彼女が本当に聖女なら協力してもらえるかもしれない
瘴気の問題は解決していませんから
…そう考えていたのだけど」
俺を見ると、お祖母様は疲れたように首を振った
「では、もし彼女が聖女じゃなかったら?」
「その場合は教会とスコティノース両方に責任を取ってもらうわ」
皇后陛下の冷たい言葉に背筋が凍る
相当怒っているようだ
「アステリ、セリーニ
あなた達には彼女が聖女かどうか、もっと詳しく調べてきてほしいの
特に聖属性魔法を使えるかどうか
それから彼女がミヤさんに接触しないよう十分注意してください」
「分かりました」




