ゲーム?
雪が溶け、植物たちが芽吹き始めてきた
そんな今日この頃、朝から街が賑やかだった
何かあるのかなと疑問に思っていたけど仕事をしていると頭の隅に追いやられていく
次第に暖かくなってきたな、と呑気に考えるくらいに
それから第一軍への配達から戻り医務室の扉を開けると
「戻りまし、た」
そこにはベッドに突っ伏しているセリーニさんとアステリが居た
すみれ曰く私が戻る少し前に来たらしい
「ど、どうしたんですか、二人とも」
「…あ、ミヤ、良かった
フィトーもルルーディも居なかったからどうしようかと…
薬草茶お願いして良いかな、アステリの分も…」
頭を上げたセリーニさんは真っ青な顔をしている
分かりました、と言いつつアステリをちらっと見るも彼は微動だにしない
「…先に治癒かけましょうか? 真っ青ですよ」
「…治癒で治るものでもないかな
どちらかと言えば精神的なものだろうし…」
精神的なもの、と聞いて首を傾げつつセリーニさんに治癒魔法をかけた後アステリの隣に跪く
呼びかけると真っ青な顔を上げて私を見た
だいぶ辛そうだと治癒をかけて良いか訊こうとすると彼は手を伸ばして
私を抱き締めた
「…アステリ? どうしたの?」
目を丸くしつつ尋ねるも何も言わないまま放そうとしない彼
それを見てセリーニさんがなるほど、と呟いた
そしてアステリに抱き締められる私に寄りかかる
「ちょっと、このままで居させてくれ」
困惑しつつ了承すると静かな空間が流れる
彼らが言わなくてもいいと言うのなら訊くことはしないけど
それでも不思議に思ってしまう
しばらくそうしているとフィトーさんとルルーディが戻ってきた
「ただい、ま?」
「…え、どうしたの?」
フィトーさんとルルーディが呆気に取られた顔で立ち尽くす
おかえりなさい、と私が言うとセリーニさんがお邪魔してるよ、と言いながら起き上がった
その顔色は少し良くなっていたようで気休めでもかけたほうが良いのだと思い未だに私を抱き締めているアステリにも一言言って治癒魔法をかける
「断ってるならまだしも未婚の女性に抱きつくのはダメだろう」
「まぁ、そうだが…治療してもらってただけだから」
「その状態が?
アステリもいつまでくっ付いてるんだ、離れなさい」
そう言われてアステリはやっと私から離れた
顔色が良くなっていて少し安心した
「……悪い」
「ううん……大丈夫?」
「あぁ、だいぶ楽になった」
念のためとルルーディと薬草を煎じたお茶を作り二人に渡す
飲み始めたところでフィトーさんが先程のことを尋ねた
若干怒っているようにも見える
「一応、雇用している側だからね
ルルーディもミヤも守る義務が俺にはあるんだよ
王族だろうが軍隊長だろうが二人に害を及ぼす存在かもしれないなら俺は動くから」
「…別に害は与えようとしてない」
「それでも、だ」
珍しくフィトーさんに怒られる二人を眺めながらルルーディから渡されたお茶を飲んだ
ひと通り怒られた後、本題に入る
どうやらスコティノース王国から聖女様が来るらしい
朝から街が賑やかだったとそこで思い出し納得した
どうしてもフォティノース王国に行きたいと聖女様は言っていたそうで、その対応に二人が指名され昨日からセリーニさんと一緒に隣国に行っていたとのこと
その聖女様は召喚された異世界の女性らしい
「あれ…でも確か召喚魔法は禁術になってるんじゃ…」
「それはこの国だけで決めていることだ
まぁ他にも禁術にしている国はあるみたいだけど…隣国スコティノースは禁止していない
だから教会の人間たちが使用したらしい」
「この国に聖女が現れたって噂が出始めて焦ったんだろうな
聖女召喚に成功して、かなり踏ん反り返ってた
俺らもまさか成功するとは思ってなかったから油断してたよ
だけど、わざわざ呼び出した結果がアレじゃあ…」
そう言ってアステリは頬杖をつき頭を抑える
二人は隣国の動きを知っていたようで、だから指名されたんだと分かった
あれ、が分からなくて次の言葉を待っているとセリーニさんとアステリは同時に大きくため息を吐く
本当に聖女かと疑ってしまう女性だったらしい
茶髪で瞳は黒、確かに美しい容姿ではあったそうだ
だがセリーニさん達を視認した瞬間
『きゃあぁ♡ アステリ様ぁ♡
会いたかったぁ♡』
そう言って、いきなり抱きついてきたらしい
挨拶も無しにだ
アステリは言葉が出ないまま固まってしまったらしく代わりにセリーニさんが挨拶と自己紹介をすると
『きゃあ♡ セリーニもカッコいい♡
でもアタシの一番はアステリ様だからゴメンね〜』
「衝撃すぎて、その時から頭痛がしていた…」
部屋の中が静まり返る
平民であっても、なかなか居ないだろう
確かに本当に聖女なのか疑いたくなる
しかも、ずっとアステリに抱きついたままだったらしく離れてもらうのにも苦労したんだとか
なんとか説得して到着を明日にしてもらって二人は先に帰ってきたらしい
「アステリ、その聖女様と面識あるの?」
「一度も無い……むしろ何で俺の名前を知っているんだと思うんだが
……セリーニの名前も知ってたな?」
「俺も会ったことは無い
あったら絶対会いたくないって言うだろ…」
確かに、とアステリは納得する
元王族だから知っていた人が紹介したんじゃないかな、と思ったけど
「他に何か言ってました?」
ルルーディの質問にアステリは頭を抱える
衝撃すぎて聖女様が話す内容のほとんどが頭に入ってきていなかったらしい
「…そういえばゲーム? って言ってたな
設定とか世界観とかなんとか
瘴気がそんなに問題になってない、えーと…バグ?、とかも言ってた気がする」
まだ余力があったセリーニさんが思い出し、そう言った
そこまで聞いて私はその聖女様が言ってることが理解できた
ゲーム、設定、世界観、バグ
前の世界で流行っていた小説やマンガで読んでいた内容と似ている
たぶん聖女様は
乙女ゲームをプレイしていた人だ




