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ディアス

「あの、ソライさん……少し、昔話に付き合ってもらえますか?」


そう言われた後、温室の中を歩きながら殿下は話し始める

アステリの母親に起こったことを知っているか訊かれ無言で頷いた


「当時、僕は五歳になったばかりでした

父母が何をしたのか何も知らなかった

突然荒れ始めたアステリ義兄様(にいさま)に怯えて、よそよそしくなったセリーニ義兄様(にいさま)を心配しながら何もしなかった

そして……王室から義兄上(あにうえ)たちが居なくなった後は、それまで通りに戻ったような気になっていました」


空を見上げて殿下は続ける


「二年前にお祖母様から、あの時の詳細を聞きました

セリーニ義兄様(にいさま)に確認もとり事実だと知りました

それまで疑問に思っていたこと全ての辻褄が合って、呆然としたのを今でも覚えています

何も知らなかった……知ろうとしなかった……

お祖母様からは、ただ見守ってほしいと、それだけ言われました

でもそれは、僕には都合が良い言葉だったんです

もう義兄上(あにうえ)たちとの間には溝ができてしまっていたから

今更何ができるのか、何をすれば良いのか分からないから

お祖母様の言葉を理由に、僕は未だに見ないふりを続けているんです」


懺悔するように語る殿下は自嘲的な笑みを浮かべていた


「僕は義兄上(あにうえ)たちを慕っていますし、尊敬もしています

それでも、あの時のことを知ってから義兄上(あにうえ)たちに対して何も言えない自分が情けないです

何もしないのが一番良いのだと思って、また何もしないでいる

そんな自分が嫌になるんです」


「…殿下はアステリ、様たちとお話しされないのですか?」


さすがに今は呼び捨てにできないと慌てて取り繕う

それに気づいた殿下が普段通りで良いですよ、と優しく言ってくれた


「話、はしたいです

でもいざそうなったら何を話せば良いのか分からない

懺悔の言葉しか出さず義兄上(あにうえ)たちを困らせるかもしれない

そう思ったら…」


「話してみないと何も分かりませんよ」


真っ直ぐ見つめて言った私を殿下は目を丸くして見る


「殿下はお優しいですからアステリたちを困らせたくないと思われるのは当然のことです

でもそれがアステリたちの為になるとは限りません

お話をすることは必ず意味があることだと私は思います

もちろん辛い思いをしてしまうかもしれない

でもその覚悟があって近づいてきた人たちをセリーニさんは、アステリは無碍にはしません

私が知っている二人はそんな人たちです」


「……ソライさん」


ディアス殿下は私の言葉を噛み締めるように、しばらく沈黙した

やがて小さく笑うと殿下は歩き出した

私も静かについていく


「ソライさんは本当に優しい人ですね」


そう言って殿下は私を見つめる


「義兄上(あにうえ)たちが貴女と親しくしているのも納得できます

彼らは不器用なところがありますから

だからこそ貴女の優しさが彼らの救いとなっているのでしょう」


「そんな大それたものではないと思います」


殿下は頭を振る


「本当に感謝しています

貴女がこの国に来てくれて……義兄上(あにうえ)たちの側に居てくれて良かった

貴女は義兄上(あにうえ)たちをよく見ているようだ

……貴女の言う通り、義兄上(あにうえ)たちは優しい人たちです

話をすることの重要性は承知しています

…やはり躊躇ってしまいますが時間をかけて考えるべきなのでしょう」


殿下は空を見上げると深呼吸した


「ありがとうございます、ソライさん

貴女と話せて良かった

悩みが晴れたわけではないですが……少しだけ前向きになれました

貴女の言葉は真摯で純粋で心に響きました」


ディアス殿下は優しく微笑む

少しでも歩み寄るきっかけになれたなら良かった

そう思いながら淹れ直してもらった紅茶を飲みながら殿下と過ごした


「…そういえば気になったことがあるんですが訊いても良いですか?」


「なんでしょう?」


「自己紹介の時に皇后陛下の三番目の孫と言っていたのは何故ですか?」


普通は国王の名前を言うんじゃないんだろうか

するとディアス殿下はハッとして微笑んだ


「そこに気づかれますか…

理由としては第一に貴女と接点があるのがお祖母様だったことです

知らない人間の名前を言われてもピンとこないでしょう?

第二の理由としては僕があの人たちのことが嫌いだからです

息子だと紹介するのもされるのも嫌なんですよ」


微笑みながらも目を細めた殿下から再び威圧感が出る

あの人たち、つまり国王と王妃である父母のことだ


「アステリ義兄様(にいさま)の母君の件に関してだけではなく普段から散々振り回されていましたからね

僕がきちんとした王になれるように教育してくださったのは、お祖母様ですし

あの人たちを慕うことはこれまでもこれからもありません」


なるほど、と思いながら二人で紅茶を飲んだ

そこからお互いの趣味や最近の話などして会話を楽しむ

気がつけば、かなりの時間が経っていた


「では今日はありがとうございました

義兄上(あにうえ)たちと話をできるように努めてみます

またお話ししましょう」


「こちらこそ、ありがとうございました」


深々と頭を下げて挨拶を済ませると執事さんの案内で医務室に帰った

ルルーディが心配そうに駆け寄ってきた


「大丈夫だった?」


「うん、すごく優しい方だったよ

瘴気浄化のお礼を言われた」


「あ〜……やっぱりバレてたんだ……」


ルルーディが苦笑いする

フィトーさんも困ったように笑っていた

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