お茶会
「失礼します、ミヤ・ソライ様はいらっしゃいますか?」
寒さが落ち着いてきたある日、医務室に見慣れない人が現れた
フィトーさんと目配せしつつ名乗り出る
その人は胸に手を当てて
「私はディアス王太子殿下の執事をしております
殿下よりお茶会の招待状を預かってまいりました
お目通しの上、この場で返事をお願い致します」
そう言って封筒を手渡された
フィトーさんとルルーディが目を丸くしていた
私も驚きつつ拝見します、と言って封筒を開く
丁寧な文章で綺麗な字で書かれている
フィトーさんに文字の確認をお願いすると正真正銘、殿下の手書きらしい
一体何の用事なんだろうと思いつつフィトーさんを見ると無言で頷いていた
特に変な用事ではないんだろう
断る理由もなかったから了承の返事をした
執事さんはそれでは当日お迎えにあがります、と言って頭を下げた後、医務室から出ていく
それと入れ替わるようにアステリが入ってきた
「さっきの執事…」
「ディアス殿下の執事さん、お茶会の招待状を届けに来てくれたの」
「あぁ、どっかで見たことあると思った
……って、お茶会? ディアスから誘われたのか?」
頷くとそうか、と小さく言った
何の用事なのか分かるかフィトーさんが訊くと
「たぶん、お祖母様からミヤに会って良いって許可を貰えたんだろ
ずっと俺たちからの報告だけで直接は許さなかったってお祖母様が言ってたから
会いたくなったんだろ
…次期国王として見定めなきゃいけないしな」
なんで許さなかったんだろう
そう思っているとアステリが小さく息を吐いた
自分たちが王位継承権を放棄したから、その皺寄せがディアス殿下にいってしまった
そう思っているのかもしれない
「何か言われても気にするなよ
まぁディアスは優しいから下手なことは言ってこないだろうけど」
「分かった、ありがとう」
心配してくれることが嬉しくて微笑みながら答えるとアステリも小さく笑い返してくれた
そしてディアス殿下と会うことになった当日
以前、皇后陛下が贈ってくださった薔薇の刺繍が施されたドレスを着た
シンプルなデザインだけど落ち着いた雰囲気だから問題ないと思う
ルルーディから似合ってる、と褒めてもらった
執事さんが医務室まで迎えに来てくれて、ついていくと温室に案内される
その一角で紅茶を嗜む一人の男子が居た
「ディアス殿下、ミヤ・ソライ様をお連れしました」
「ご苦労様、下がって良い」
執事さんが頭を下げて去っていった
ディアス殿下は私を見て柔らかく微笑む
「ようこそソライさん、どうぞ座ってください」
促されて緊張しつつ向かいに座った
皇后陛下とは似ているようで全く異なる雰囲気を持つ彼
優しそうで、それでいて威圧感がすでにあった
若いのにすごいな、と思う
「改めて、はじめまして
僕はディアス・F・フェンガローペトゥラ
イーリオ陛下の三番目の孫でセリーニとアステリの義弟にあたります」
「こちらこそはじめまして、ミヤ・ソライと申します」
座ったまま私は頭を下げて自己紹介をする
ディアス殿下の自己紹介に違和感を覚えつつ執事さんが持ってきてくれた紅茶を一口飲んだ
「楽にしてくださって構いません、私的なお茶会ですから
それに国王になる予定とはいえ今はまだ勉強中なので」
そう言われて肩の力を抜いた
「実は遠巻きには見かけたことがあって、ずっとお話したかったんですよ
最近平民たちの間で美味しいと評判の食事
全てソライさんが考えられたものだそうですね」
「私ではありませんが、ありがとうございます
美味しいと言っていただいて創作した者も喜んでいると思います」
ギルドに登録しているのは元の世界ですでに広く知られている料理ばかりだ
新しく生み出したものではないから私ではないと言った
殿下は微笑みながら
「ソライさんの故郷のものだそうですね
一度、私もいただきましたが美味しかったです」
「お口に合って良かったです」
砕けた雰囲気になるも礼儀は忘れないように会話をする
しばらくすると殿下は微笑みながら本題に入っても良いか訊いてきた
私が頷くと彼は紅茶に一度口をつけてから口を開く
「義兄上たちから聞いたんですが、ソライさんは聖女なんですよね?」
「…なぜ、そう思いますか?」
「貴女がこの国に迷い込んできたと報告は貰っていたんです
その頃から瘴気によって動けなくなっていた人たちが治ったという話や精霊王たちが頻繁にこの国に来るようになっていると聞きました
半年くらい経った頃から暗がりの森の瘴気の濃さが徐々に薄らいでいるとも」
「……」
「貴女を疑わしく思ったわけではなくて、むしろ感謝しているんです
貴女のお蔭でこの国は少しずつ明るくなっていっています
この国に来てくださったこと、本当に感謝しています」
その言葉に偽りがないことを祈りつつ、ディアス殿下の言葉に耳を傾けた
彼は微笑みながら優雅にお茶を飲む
「義兄上たちから聞いていますが瘴気を浄化してくださっているのでしょう?
望み通り貴女のことを公表するつもりはありません
ただ私が会ってお話ししたかっただけなんです」
そう言ってディアス殿下はカップを置いた
「ソライさんが望まないのであれば聖女として扱うつもりはありません
義兄上たちやお祖母様からも強く言われていますし
ですが……やはり感謝の言葉だけは伝えたかった」
その言葉に私は小さく笑った
「お気遣いありがとうございます
ですが私は自分を聖女だと思っていません
ただできることをしているだけです」
「……そうでしょうね
貴女はそういう人なんだろうなと思います」
ディアス殿下はふっと表情を崩し肩を竦める
「義兄上たちから聞いていましたよ
自分の立場や報酬よりも周囲の人たちのために動く人だって」
「買いかぶりすぎです」
「そうでしょうか?」
彼は楽しそうに笑った
皇后陛下の面影を感じる優しい笑顔だ
「ともかく……ありがとうございます
本当に助かっています
もし何か困ったことがあれば遠慮なく言ってください
できる限りの支援をさせていただきます」
その言葉に私は深々と頭を下げた
「それで…話は変わるのですが、ソライさんは義兄上たちと…仲が良いのですよね?」
仲が良いかは分からない
彼らが私をどう思ってるのか知らないから
でも私は信頼していると伝えると殿下は俯いたまま
「……アステリ義兄様は、僕のことを、何か、言っていましたか…?」
「…優しい方だと仰ってました」
「それだけですか…⁉︎」
まるで信じられないものを見るように殿下は私を見つめる
「それだけです、それ以外は何も聞いておりません」
簡潔に、はっきりと殿下を見つめて言った
彼はぽかんと口を開けたまま固まった
何か悪いことを言っただろうか
「本当に、それだけですか……?」
「本当に、それだけです」
繰り返し伝えるとディアス殿下は大きく息を吐いた
そうか、と何度も呟いている
「あの、ソライさん……少し、昔話に付き合ってもらえますか?」




