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懸念

雪が降り続く寒い日

慣れた足取りで進む廊下

辿り着いた先の扉を叩き中に入った


「遅くなりました」


「お疲れ様、アステリ」


そこには義兄であるセリーニと祖母である皇后陛下が向かい合わせで座っていた

俺が部屋に防音魔法をかけセリーニの隣に腰かけると陛下は目を細め本題に入る


「噂のほうはどうですか?」


「かなり国中の者が注目している話題のようです

当初は信じる者も信じない者も居たようですが瘴気の問題が小さくなってきたこととフィトーが発表したポーションの存在から聖女は居るんではないかと思い始めたようです」


「加えてこの一年、ラハニス達が頻繁に来ていることも含めて気にしているようで」


俺は第二軍と合わせて集めた噂の現状を陛下に渡す

皇后陛下はそうですか、と深くため息を吐きながらパラパラと捲って見る


「教会はどうですか?」


「教会の者たちは躍起になって探しております

最近では暗がりの森にわざわざ出向いて浄化するところを見ると豪語していました

ティルクアーズ殿が姿を隠してはくれていますからミヤの存在がすぐに見つかる心配はないと思います」


「そうね、ティルクアーズ様であれば簡単に破られたりはしないでしょう」


ミヤの存在が知られるわけにはいかない

彼女の存在が知られれば間違いなく教会が動く

聖女というのは教会でも特別な存在だ

だがミヤ本人はそれを望んでいない

聖女などと呼ばれることによって、これまで通りの生活が送れなくなることが目に見えているからだ

この前のお礼会の時のミヤを思い出す

何よりミヤには暗がりの森(ゾフェロスフォレスト)で瘴気を浄化する役目をすでに担ってもらっている

これ以上、彼女の負担を増やしたくない


「……アステリ、もしも、ですけれど

もしあの子が聖女だと知られたら……どうしますか?」


その質問に俺は目を丸くしたと同時に呆気に取られた

そんなことにならないよう最善を尽くしているし、これからも守るつもりでいたから


「そんなの全力で阻止しますよ

俺は彼女を守れる環境に居れるのであれば、どこに居たって構わない

知られないよう努力します」


そう答えると陛下は目を丸くした


「貴方は軍隊長なんですから国を裏切るようなことを言わないでちょうだい

というより…そう、なるほどね」


静かに納得した陛下に俺は首を傾げる

俺を見つめて困ったように微笑むとセリーニに視線を移した


「貴方はどうですか?」


「許されるのであれば俺もアステリと同意見です」


「……まぁ、そうでしょうね」


皇后陛下は真っ直ぐに自分を見るセリーニを見て困ったように笑った

返事を聞かなくても分かっていたようだ

それは陛下も同じようで、小さくため息を吐いたこの人の笑顔にはミヤを大切にしているというのが伝わってくる


「……陛下も、想っているんですよね」


「……そうね、国のことを抜きに考えれば二人と同意見です

あの子が聖女じゃなかったとしても、こんな感情を持ってしまっていたと思いますよ」


俺の言葉に陛下は苦笑しながら答えた

でもそれは陛下にとって許されない考え

国の頂点に立つ者にとって国のために考えることが最優先される

だからこそ影ながらミヤを支えてきたのだと思った

公にできなくても大切に思っているんだと分かる

俺もセリーニもそれなりに目をかけてもらえていると思っているが、たぶんミヤも同じように母親代わりとして接していると言っても良い

それくらい彼女のことを気に入っているんだろう


「…まぁ、しばらくは大丈夫でしょう

ティルクアーズ様たちが一緒であればミヤさんがそう簡単に見つかるとは思えないですし

ただ…」


そこまで言って陛下は真剣な顔で考え込んだ

セリーニと顔を見合わせ、まだ何かあるのか訊く


「隣の…スコティノースに送っている者から報告が来たのだけど…召喚魔法を使って少し不穏な動きをしているらしくてね」


この国と違い召喚魔法を禁術にはしていない国

不穏な動きというのが気になる

聖女の噂が出回ってきてから、その話ということは


「…もしかして聖女を召喚しようとしているんでしょうか」


「おそらく、ね

この国に聖女が現れたと聞いて焦り始めたんでしょう

聖女が居れば瘴気の影響は減りますから

召喚魔法を用いて新たに聖女を召喚する気かもしれません」


その言葉に俺は深くため息を吐いた

それだけならまだ良いが、失敗した場合この国に現れた聖女を欲する可能性もある

ミヤのことがバレれば彼女を狙って暗がりの森(ゾフェロスフォレスト)に忍び込んでくることだって考えられる

あまり想像したくない事態だ


「まぁ、そう簡単には成功しないとは思いますが今は情報共有に留めておきましょう

こちらから刺激して、この国に被害が出るのは最低限に抑えなければなりません」


分かりました、とセリーニと共に答えると皇后陛下は満足そうに頷いた

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