カレー
本格的に吹雪いてきた今日この頃
医務室は変わらず過ごしていて今はケット・シーのすみれを含めて四人で薬草茶を飲んで休憩している
「こういう寒い日は温かいもの食べたくなるよね〜」
「ルルーディ、鍋は食べてるの?」
「食べてるよ、家族みんなで
好みの味付けにできる水炊きばっかだけどね
でも、お蔭で元気だから倒れる心配はいらなそう」
「それは良かった」
「俺も食べてるよ、教えてくれて本当にありがとう
ミヤは最近食べたいものとかあるのかい?」
そう訊かれて言い淀む
最近というより医務室に来るたびに作りたいな、と思っているものがある
するとあるんだ、と前のめりでルルーディが気づいてしまった
「その…カレーって料理です」
「「カレー?」」
カレーはこの世界には無い
ハーブや香辛料も市場に出ているのは少ない
薬草として利用するほうが良いからだ
だから医務室にはカレーの材料になるものが多くて、香ばしいというか独特な匂いがある
お茶にしても慣れてないと顔を顰める人が居るくらいだ
「薬草は神の庭で採れるから…他に不安なことがあるのかい?」
「……私がカレーの材料を全部知らないんです」
そう言うと二人はあぁ〜、と納得してくれた
前の世界では基本ルゥで作っていたから作るのは簡単だけど材料までは把握していない
「たぶん香辛料と薬草を混ぜれば作れるはずなんですけど」
「香辛料……試行錯誤しかないね」
「はい…なんとなく、これかなって思ってる材料はあるので今度神の庭に行った時に採ってきて試作してみようかと思ってます」
納得できるものができたらお裾分けしますね、と言えば楽しみにしてる、と二人とも笑顔で言ってくれた
すみれも食べたいです、と鳴いたけど多分食べちゃいけないと思う
魚の乾物なら用意できるかな、と言えば嬉しそうに鳴いた
「それは俺も食べたいね」
すると、いつの間にかセリーニさんが調合室の扉のところに立っていた
返事が無かったから入ってきたらしい
どこから聞いてたんだろう、と思いつつ承諾した
いつになるか分からないということも伝えておいたけど、もし上手くできたら第一軍にも持っていこうかと思った
それから仕事が無事に終わり家に帰る
その途中、道端に並べられている雪だるまを眺めながら歩いていると八百屋の店主さんに止められた
野菜が売れ残って困っているらしい
じゃあ、と一人で消費できる分を買っていった
「そういやミヤちゃん、聖女の噂を聞いたことあるかい?
誰か分からないが目撃したっていう話があるから信憑性高いと思うんだよな」
「…気になるんですか?」
「気になるだろ? だって暗がりの森を浄化してたって言うからな
瘴気が完全に消えるんじゃないかって、みんな気にしてるよ
長い間、苦しめられてきたから」
店主さんの言葉に、私は相槌を打ちながら話を聞く
「そういえばミヤちゃんは王城で働いてるんだろう?
聖女様に会ったりしないのか?」
「…ないですね」
「そうか、そりゃ残念だ」
そんな話をして家に帰った
思いがけず買えた野菜をどう料理しようかと考えると同時に、やっぱり森のことはみんな気にしているんだと気づく
地道に確実に浄化していこうと決意を固めた
それから二週間ほど経ったある日
カスタノさんとリラさんが神の庭へ行くと言うので便乗させてもらった
「すみません、私までついていって」
「問題ありませんよ
いつも治療でお世話になっていますし」
カスタノさんも頷いてくれた
彼の場合は新しい料理が楽しみというのもありそうだけど
そんな会話をしながら馬を走らせ神の庭に着いた
薬草の中から医務室からの依頼の薬草を採る二人
その隣でカレーに必要だろうと思うものを採っていった
コリアンダー、ターメリックは有名だけど…あと何があるのかな
クローブってあった気がする
あ、クミンもあったな
あとは…シナモン……?
考えながら薬草を集め、ある程度集まった頃に二人も集め終わったらしい
「……結構変わった匂いがする」
「これを使うんですね
どんな料理か楽しみです」
家に帰ると薬草を炒って乾燥させた後、すり潰した
少量ずつ混ぜ合わせ、お湯に溶いていく
何かが足りない気もして家にある調味料を足したりもした
そうして試行錯誤して三日が経つ
なかなか上手くいかず、食品メーカーさんのありがたさをしみじみと実感していた
「あ、ミヤちゃんミヤちゃん、ちょっと良いかい?」
今日はターメリックを多めに入れて作ってみようかと考えながら帰路についていると近所の奥さんに呼び止められる
「ミヤちゃん最近何か危ないもの作ってる?」
「危ないもの、ですか?
特に作ってないと思いますけど…」
「いや、一昨日と昨日のことなんだけど…なんか臭いなって思ってたらミヤちゃんの家のほうだったからさ、その……」
言葉を選ぶようにオドオドとする奥さん
最近作っているものといえばカレーくらいだと首を傾げる
そこで気づいた
「ごめんなさい、作ってる料理の匂いだと思います」
「料理?」
カレーは確かに慣れてない人にとって匂いがきついことがある
私自身、作っているうちに匂いに慣れてしまって気づかなかった
「はい、異国風の料理を試作してるんです
時間がかかるのもあって中々完成しないんです」
「そ、そうなのね」
ごめんなさい、と再度謝ると奥さんは気にしないで良いと言ってくれた
カレーができたら持っていくことを告げて家に入る
そこでふと他の住民たちにも謝りに行かないといけないことに気づいた
多分言ってこないだけで匂いがきついと思ってるはずだ
そうして翌朝、早々に謝りに行くと逆に謝られたりもした
気にせず頑張ってほしい、と応援されカレーの試作品ができたら持って行く約束をする
その日の夜、寝る前に試作を始める
今日は昨日より少し多いターメリックとコリアンダーを入れてみよう
乾燥させた後、すり潰す
焦げないように火加減に気をつけながら鍋で煮込む
「いい匂い……」
思わず声が漏れた
ちょうど色はカレーらしくなったんじゃないか
そう思いつつ他の薬草も同じように加工して、混ぜる
それぞれの量もメモしながら最後に味見をしてみる
昔食べた、おばあちゃんのカレーに似ていた
試行錯誤して苦労したけど、やっぱり美味しい
そうして翌日
近所の人たちとフィトーさん、ルルーディ、セリーニさんと第一のみんなにお裾分けした
すみれには神の庭で釣ってきた魚を日干ししたものをあげた
最初はみんな見た目と匂いに驚いていたけど一口食べたら目を輝かせていた
好みで辛くしても美味しいことを伝える
これならギルドに登録しても大丈夫かな




