神の庭
数週間経ち季節は冬に近づいている
だいぶ風が冷たく感じるようになると医務室は忙しかった
季節の変わり目だから体調を崩す人が多いみたい
薬草作りをしたり診療録を管理したりする日々が続く
その中でも軍の隊士たちの治療をするのが一番多かった
「ふー…」
一段落つくとフィトーさんが肩を回した
ルルーディと私もイスに座り息を吐く
「やっぱり、この時期は多いですね」
「そうだね
対策したいのは山々なんだがポーションにも限界があるし…
そういえばミヤの世界では病なんかはなかったのかい?」
「普通にありましたよ
普通の風邪はもちろんインフルエンザっていう流行り病みたいなものが」
「流行り病……魔法が無かったんだろう?
どうやって対策してたんだい?」
そこからは休憩もかねてフィトーさんの調合室で色々話した
ワクチンや注射、手術、点滴などなど
ルルーディはついてこれなくて頭を抱えていたけどフィトーさんは頷きながら真剣に聞いていた
「あとは…風邪のひき始めに飲んだりする栄養剤みたいのもありました」
「栄養剤?」
「風邪をひきそうな時って身体がだるかったりしますよね?
そういう症状を抑えるものだったんです
普段の食事からでも得られて、例えば……大根は疲労回復に効果があって、ネギは抗菌作用があるので免疫力を上げられます
私はこの時期はよく全部まとめて食べられる鍋を作ってました」
「ナベ?」
「野菜や肉、魚なんかを一緒に煮込んで食べる料理です
昆布っていう海藻で出汁を取って、それをベースに醤油っていう調味料を使ったりポン酢とか柚子胡椒を使って食べたんです
身体を温めるので重宝しましたね」
「へぇ……そのコンブっていう海藻は知ってる
ただ市場には出回ってないな
ショウユやコショウも高価だし…」
「安価で代わりになるならチーズやお酒でも良いかもしれません
あまり私は好きじゃないんですけど
出汁を入れずに水だけで煮てみて好きな味つけにするのも美味しいですよ」
「…食べてみたい…」
ルルーディがキラキラした目で見てきた
フィトーさんは少し考えてから何かに気づいたように顔を上げた
「神の庭ならあるかもしれない」
瘴気による食糧飢饉があった時、神の一人ラディ様が造ってくださった洞窟内の畑のことらしい
果実がなる木や動物も居て一年を通して四季の食材などが育っている
収穫しても新たに実るため数を気にすることなく収穫でき、神の力で守られているため瘴気が入ってくることも無い
「動物を生きたまま持ち出すことも可能なんだ
持ち出した後は自己責任になるけどね
あと洞窟内の争いごとは禁止
待ってれば新たに実るから争う必要も無いし」
「フィトーさんも行ったことがあるんですね」
「薬草が豊富にあるからね
それ以外が目に入ってなかったから、すっかり忘れてたよ」
フィトーさんらしいと思いながら歩く
だからこの国では極端に痩せている人が居ないのだと納得した
ちなみにルルーディとレモニーさんも行ったことがあるらしい
子どもたちの教育で連れていく家族は多いのだとか
レモニーさんは研究材料として収穫させてもらっているんだとか
「私たちでは食べられるのか分からない食材も多いんです
栄養剤の話も魅力的でしたし…ミヤさんと一緒に来られて嬉しいです」
「美味しいものたくさん教えてね♪」
そんな話をしながら洞窟に向かう
洞窟の中は外と変わらない明るさで多くの人で賑わっていた
地図も貼ってあって迷う心配はなさそうだけど思っていたより広そう
冒険者っぽい人たちも居て薬草畑の中で唸っていた
たぶん見分ける練習をしている新人だろうとのこと
今回の目的は薬草ではないため後回し
「こっちが海エリアなんだ
コンブがあるとしたら、こっちだと思う」
エリアを移動するごとに人が減っていった
海エリアには誰も見あたらない
洞窟だと忘れてしまいそうになるくらい広い
私は久しぶりの海の匂いに感動しながら眺めた
「ミヤ、これだと思うんだけど」
フィトーさんが早速見つけてくれてナイフを使って根元から切る
どれくらい必要かなと考えながら、できるだけ大きく切り取っておく
保存も利くし多めに貰っておこう
せっかく来たし他の物も探してみる
ルルーディとレモニーさんも食べられそうな物を見せに来てくれた
釣りもして魚も持って帰ることにした結果ワカメや帆立、鯛などが手に入った
「ミ、ミヤ…これ、食べられるの…?」
レモニーさんとルルーディの前には蛸とイカが蠢いている
そうだよ、と答えると真っ青になっていた
フィトーさんも怪訝な顔をしている
「食べてみます?」
三人は顔を見合わせた後、恐る恐るといった様子で頷いた
丁度良い石があったから火魔法で熱して捌いた蛸と山エリアで採ってきてもらった長芋を擦って、動物エリアから持ってきてもらった卵を混ぜたものを焼く
味つけが塩しかないけど今回は仕方ない
「「………!」」
「これは…美味しいね、面白い食感だ!」
レモニーさんとルルーディは黙々と食べ始めた
フィトーさんも美味しいと満面の笑み
イカはキャベツと一緒に炒めた簡単なものを作る
これも美味しいと三人は黙々と食べてくれ、良かったと頬を緩ませた
その時ふと岩場から誰かが見ていたことに気づく
小さな子どもで、じっと料理を見つめていた
「良かったらどうぞ」
まだ手をつけていなかった私の分を持っていき、その子に差し出す
睨まれたものの、お腹は空いていたようで奪うように食べ始めた
警戒心が強いのだと思い離れようと立ち上がる
「美味かったぞ」
背を向けたところで成人男性の声が聞こえて思わず振り返る
そこには誰も居なかった
辺りを見渡すものの人の気配は無い
「ミヤ? どうかしたの?」
「……ううん、なんでもない」
夢でも見ていたのかと思うほど一瞬のことだったけど美味しいって言ってもらえたから良しとした
その後もう一度イカと蛸を獲ってから帰宅した




