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笑顔

アステリと仲直りをして数日が経った

今日も変わらずに医務室に通っている

仕事中にふと彼のことを考えるようになったのは、おそらくあの日の出来事がきっかけだろう

勇気を振り絞って声をかけて良かったと思う

でも私じゃアステリの心の傷を癒すことはできない

私が関わったせいでアステリの過去を抉ってしまったのだと思うと申し訳なくなる

でも、だからこそ関わらないといけない気がする

私のせいで傷つけてしまったから、彼の過去と向き合わなくてはならないと思いながら医務室での作業に戻った


作業が一通り終わり伸びをして窓を開ける

気持ちの良い風が吹き込み髪を靡かせた

ふと窓の外を見ると、訓練を終えたであろうアステリがカスタノさん達と歩いている

今日も頑張ってるんだな、なんて思いながら見ているとアステリが私に気づいた

目が合うと手を振り、柔らかい笑顔を向けてくれる

微笑ましくなって私も振り返した

すると後ろに控えていたカスタノさん達も小さく手を上げてくれたので続けて手を振る

彼らとも仲良くなれて嬉しい、と思いながらアステリ達が戻るのを眺めていた


「何アレ」


「え、あ、ルルーディとレモニーさん」


「こんにちは、ミヤさん

詳しく聞かせていただけますか?」


「え…、何を…?」


笑顔だけど笑っていないルルーディとレモニーさん

二人の圧に押されて後退りながら言うと肩をがっしり掴まれた

アステリと仲直りしたことについては伝えていたはずだけど


「そっちじゃないっ

何さっきのアステリ様の笑顔!」


「それです! 私たちは見たことがありません!

あんな笑顔は初めて見ました!」


「そうそう、いつも厳しい顔しか見たことなかったもん!」


「……普段からあんな感じだと思うけど」


そう言うと、二人は勢いよく頭を横に振った

溜息を吐いた後、レモニーさんは頭を抱えてしまいルルーディは呆れ顔で私を見る

私何かおかしなことでも言ってしまったのだろうか


「ミヤは知らないと思うけど、アステリ様は女性には愛想笑い以外あんまり笑わないの

むしろ、しかめっ面の方が多いと思う」


「私たちには笑ってくれてるほうだとは思いますがね」


「それがミヤといる時は全然違ってた!

あんな笑顔は私たちには見せてくれないもん!」


「そうなの?」


首を傾げて聞き返すと二人は再びため息を吐いた

どうやら二人の話しぶりから察するに普段のアステリとは随分違うらしい

私の前では自然に接してくれるけど他の人だと警戒してしまうのかな

だからこそカフェティさん達や私に気を許してくれているのかもしれない

そう思うと少し嬉しくなった

だけど、この様子を見るにルルーディたちには言えないなと苦笑する

アステリが私に対して親しげにする理由を知りたいのだと思う

彼は人との関わりを避けるようなところがあるから


「…ねぇ、ミヤはアステリ様の事どう思ってる?」


「どう、って…?」


「恋愛対象として見てないの?」


唐突な質問に戸惑ってしまう

どうしていきなりそんなことを聞くのだろうかと思いつつも考える

正直言ってそういう風には全く意識したことがなかった

優しくて頼りになって、いつも助けてくれるけど恋愛感情を持ってるとは自分でも思えない

彼は友達であり大切な仲間だと思っている

少なくとも今はそう思っている

たとえ今後変化することがあったとしても、それはまだ分からない


「今は見てない、かな」


そう返すとルルーディは頬を膨らませて不満そうな顔をした


「もーっ、ミヤってば意外と鈍感だよね

あんなに近くにいて毎日のように会ってて、しかもアステリ様に特別扱いされてるのに」


「特別、扱い」


「アステリ様は基本的に女性に対して一定の距離を置かれますから

ミヤさん以外には気軽に話しかけることもありませんし、ましてや笑顔を向けたりもされません

だからアステリ様がミヤさんにだけ見せる表情っていうのは特別なんだと私も思います」


「つまり…絶対に脈ありだと思うの!」


ルルーディが勢いよく言い切ると同時に、レモニーさんも頷いた

確かにアステリは優しいし親切だし私にとって大切な友人だけど、それが恋愛感情に発展するとは考えにくい

私はルルーディたちと違って異世界人だしアステリだってそんな簡単に人を好きになるようには思えない


「たぶんこの世界に慣れてない私を気にかけてるだけだと思うよ?」


そう言うとルルーディはまだ納得していない様子で口を尖らせている

レモニーさんはそんな彼女に苦笑していたが、すぐに真剣な表情になって私に問いかけた


「ミヤさんはアステリ様のことが好きなんですよね?」


「そうですね、好きですよ」


レモニーさんが言った言葉に即答した

私の変わらない表情に明らかな落胆している


「じゃあミヤ、逆に聞かせてよ

もし、アステリ様が他の女の子にあんな風に笑いかけてたらどんな気持ち?」


アステリが誰かに屈託なく微笑む光景を想像してみる


「…良かったな、って嬉しくなるかな」


アステリが幸せになれるのなら素直に嬉しい

私がこの世界に馴染むために協力してくれたり助けたりしてくれた優しさに対する恩返しだ


「………そうじゃない」


「手強いですね…」


ルルーディとレモニーさんの態度が一変し、不満そうに私を睨んでくる

でもアステリが幸せならそれが一番だと思ってるし彼には幸せになってほしいと思っている

それが恋愛感情でも変わらない事実だし、私はそれで満足しているのだ


「でも本当にアステリ様はミヤのこと、すごく気に入ってると思うよ」


「そうですよ

アステリ様に好意を持たれている時点で他の方より相当有利ですからね?」


二人が迫るように近づいてくる

もしかして恋愛感情を持たせたいのだろうか

とりあえず今は引き下がってくれたようだったが、二人の表情からはまだまだ追求したいという意思が伺える


「ちょっとでも変化があったら教えてね?」


渋々といった様子で了承してくれたことに安心しつつも、アステリと会った時には必ず報告するように言われてしまった

彼女たちの言うことをちゃんと聞けば少しは大人しくなるかもしれないと思いながら約束をしておいた


「ミヤ?」


「あ、お疲れ様」


ルルーディとレモニーさんの追求が終わり一息ついているとアステリが現れた

レモニーさんは慌てて部屋を後にして、ルルーディは隣の部屋に駆け込んだ

慌ただしく走り去っていく後ろ姿をアステリと一緒に呆然と眺める


「何の話してたんだ?」


「何……な、何の話だろう…?」


「いや俺に訊くなよ…」


「……強いて言うなら、恋愛? かな」


アステリの特別な笑顔とか、アステリの交友関係とか、アステリの女性への接し方とか………ん?

恋愛っていうよりアステリのことを話してたな?


「……ミヤ、も…恋愛に興味あるんだな」


そんなことを考えているとアステリの顔がさっきより曇っているように見えた


「話聞く分には好きかな

恋してる女性って可愛いって思うから」


「………ミヤ自身は?」


「今はまだ考えてない」


「そ、そうか」


なぜかアステリは顔を逸らしてしまう

そして、どこか安心したような表情に見えたのは私の気のせいだろうか

なんだか隣の部屋からルルーディが念を送っている気がする

何か気づけってことなんだろうけど全く分からない

そもそも何に気づくのかすら分からないんだから


「そういえば何か用があったんじゃないの?」


「あ、そうだ

薬草煎じてもらえるか

カリムが頭が痛いって言っててな」


「分かった

すぐ終わるから待ってて」


「おう、ありがとな」


薬草棚に向かいフィトーさんから教えてもらった物をいくつか選び取る

魔法で火をつけ水を温めつつ、その間に細かく刻んで粉状にしていく

あとは熱湯に溶かしたら完成


「…ルルーディ、うるせぇ」


「えっ、なんで⁉︎

何も言ってないのに!」


「背景がうるせぇ」


ルルーディに念を送られたのかアステリは振り返って睨みながら言っていた

仲良いなぁ、とぼんやり思った

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