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過去2

魔物は夜に活動する

そんなのは分かりきっている

だからエルピーダ王妃だって夜に行動することはしなかった


それなのに…?


疑問が浮かんだまま目の前の遺体を見つめた

なんとか回収できたものの損傷が激しい

痛々しい姿を見ていられず顔を背けると目に涙を浮かべるアステリが目に入った

彼の拳は力いっぱい握り込まれ、爪が食い込み血が流れ出していることに気づく


「アステリ、落ち着け」


「……セリーニは……どうして冷静でいられるんだ」


絞り出すような声で問うアステリに何も答えることができなかった

怒りに満ちた声で言った言葉には憎しみだけでなく悲しみと失望が含まれていた

俺も同じ気持ちだったが、どこか他人事のようでアステリのように感情的になれなかった

喪失感はあれど、どこか冷めていてまるで他人事のようで


「…王に報告しよう

悲しみに暮れていては、いけない」


「……っ!」


アステリは何か言い返そうとしたが、結局諦めたように俯き黙ってしまった

悲しみはあれど涙が出なかった

自分に失望し嫌悪感が湧き上がる

家族の死を悼むべき時に何も感じることができないなんて


「それにしても上手くいくなんて…さすが国王様ですわ」


王の部屋の扉を叩こうとした瞬間、漏れ聞こえてきた会話に身を硬くする

今の発言は一体何だ

まさか、とは思ったが続きの会話がそれを裏付けた


「まさか嘘の緊急の連絡を入れて第二王妃を魔物に襲わせるだなんて

やっと…あなたと一緒になれて私は幸せよ」


「俺もだ」


気持ち悪いやりとりを聞きながら歯を食いしばる

自分の妻の死を喜んでいる様子に怒りを覚えるも、相手は王である以上表立って動くことはできない

エルピーダ王妃の死は事故ではなく事件であるという証拠がいる


「アステリは待ってろ」


アステリにだけ聞こえる声量で呟く

だが聞こえているのかいないのか不気味なほどの無表情で反応が無かった

俺が扉を叩くとアステリも続けて部屋に入る

聞かないほうが良いんじゃないかと思ったが引き返せなかった

王とイディパシス王妃が仲良く座りテーブルの上には食べ終えた料理の跡がある

王は俺たちを見ると微笑みながら口を開いた


「どうした、二人とも」


「エルピーダ王妃が亡くなりました」


「何! エルピーダが死んだだと!」


わざとらしい演技に腹が立ったが押し殺し、淡々と報告する

王は驚きを隠せないといった様子で席から立ち上がり、動揺している様子を見せた

あくまでも悲しみを表現するために振る舞っているのだろう

こんな男が国の頂点に居るのかと情けなくなる

隣で膝から崩れ落ちたイディパシス王妃は王の手を借りて立ち上がる


「そんな……彼女はいつも私を気にかけてくれて、素敵な方だったのに……」


嘘偽りだらけの発言を聞きながら俺は奥歯を噛み締めた

後ろに立つアステリは涙を流しているのだろうか

彼の気持ちを考えると心が痛む


「なんということだ……

彼女は魔物に襲われたんだな?」


「えぇ、そのようです」


「その魔物はどこだ!」


「現在調査中ですので、しばらく時間をください」


俺がそういうと王は舌打ちをし不機嫌な態度を見せる

それを宥めるようにイディパシス王妃が声をかける様子は夫婦というよりも主従関係に近いものだった

俺はそれを一瞥すると踵を返した

ドアノブに手をかけたところで止まる


「ところで…なぜエルピーダ王妃が魔物に襲われたと真っ先に思ったのですか?」


振り向くと二人の顔が凍りついていた


「そ、それはお前が…」


「私は亡くなった、としか言っていません

魔物に襲われたとは一言も言っておりませんが」


言葉に詰まり狼狽え始めるイディパシス王妃

王は顔を真っ赤にして怒鳴った


「謀ったなっ!」


「何をおっしゃっているのか分かりません

では失礼いたします」


扉を開けた瞬間、背後から何かが飛んできて壁に当たり砕けた音がした

確認せずとも投げつけられた物が割れ破片が飛び散っていることぐらいは分かる

頬が切れたが構わずアステリの手を引き、早歩きで部屋から遠ざかった


「王かイディパシス王妃の指示だと証拠は出てくるかわからないな

慎重に進めないと…

………アステリ、今は堪えろ

いつか必ず裁いてやるから」


顔を確認せずに手から伝わる彼の心情を考えて、そう言った

声は聞こえなかったが、手の力が込められたことから肯定として受け取っておく

どうしてこんな事態になったのか

そんなことを考えながら自室に帰り着いた

アステリとはそこで別れ、一人ベッドに横になったまま天井を見つめる


「……もう王族をやめたい」


溢れ出た本音は誰にも聞かれずに消えていく

そもそも俺は政治には向いていない

王に立候補した理由は国民の為だと思っていたが違ったのかもしれない


「母上の言う通り、もう自由になってもいいんだろうか」


目を瞑ると母が浮かんだ

悲しそうな顔をする母

だけど、いつだって俺を自由にさせてくれていた

どうしたらいいかなんて分からない

誰かに縋り付きたい気分で眠りについた

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