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アステリ


アステリが変だ

というより私を避けている

初めは忙しいのかなと思っていたけど何度も続けば、さすがに分かった

何かしてしまったのだろうか

思い当たることがない

あれ以来、目を合わせてくれないどころか挨拶すらできなくなり、もちろん話しかけようとしても逃げるように去っていく

だんだん不安は怒りに変わり私は休憩時間に第一軍の部屋を訪れる

カフェティさん達は居るけどアステリは見あたらない


「アステリはどこに居ますか?」


「…最近休憩時間になるとどこかに行ってしまうので…」


「俺たちも把握できてません」


カフェティさんとクレムさんが申し訳なさそうな顔で謝った

それなら捜すしかない

分かりました、と言って部屋を出るとカスタノさんとぶつかりそうになった

謝ってから通り過ぎると


「東の側塔」


呟かれた言葉に振り返った

カスタノさんは変わらない表情で私を見つめていた

なんとなくだけどアステリの居る場所なのかなと思い、お礼を言ってから東の塔に向かう

長い階段を登った先に、どこか遠くを見つめるアステリが居た

階段に続く扉を閉めると私に気づき、退路が断たれたことが分かると顔を逸らした


「…アステリ、なんで私を避けてるの?」


「…気のせいだろ」


「嘘、今だって顔逸らした」


そう言えばアステリは気まずそうに口を結ぶ


「私何かしちゃった? 怒ってるの?」


返事はなかった

違うと言うように首を振るだけ


「じゃあ、なんで…?」


彼は何も言わない

黙ったまま俯くばかりだった

もしかして嫌いになったのだろうか

だったら、こうやって話したくもないかもしれない

それともやっぱり迷惑だと思っているのだろうか

そんなことを考えていると、アステリは溜息を吐いた


「ミヤが何かしたわけでも怒ってるわけでもない

俺自身の問題というか…だから気にしなくて良い」


「…なら、もう避けるのはやめて?

何も分からないまま気まずくなりたくない」


お願いだからと訴えかけるようにアステリを見た

返事はない

何かを悩むように表情を歪ませ、片手で顔を覆う


「…ダメだ」


「え?」


「俺と関わったら…ダメだ」


どういう意味なのか分からず固まってしまった

彼は苦しそうな顔をしていて、きっとこの言葉は彼がずっと考えてきた末に出したものなんだと思う

一人にしたほうが良いのかと思ったけど、してはいけない気もした


「…理由を教えて」


「……」


「アステリ!」


私が叫ぶように呼ぶと彼は肩を跳び上がらせる

遠慮していたけど構わず早足で近づいていって目の前に立った

目線の高さが全然合わず首元の服を掴んで、無理矢理私と同じ目線にする

瞳は困惑で揺れ動き視線を反らすから、こちらに向けさせた


「言えないなら言わなくてもいい

けど逃げるのはダメ、ちゃんと向き合って

私は絶対アステリから逃げないから」


目を逸らすことを許さないように強く見つめ続けるとアステリは観念したようだった

困惑していた瞳は、だんだんと決意を秘めた強い眼差しに変わる


「……すまなかった」


零された言葉に一瞬だけ躊躇したがアステリから手を離した

しっかりと私を見ている彼は何かを決めたのか目つきが真剣なものに変わっている


「母親を失ってるって話したの覚えてるか?」


私は無言で頷く


「母は第二王妃で近隣の国と和平条約を結ぶために動いてたんだ

ほとんど城に居なかったけど俺は母を誇りに思ってた

…けど第三王妃が来てから色々おかしくなった」


アステリは一度言葉を切り、深呼吸をした


「第三王妃は王の寵愛を一身に受けていた

そのうち邪魔に思うようになったんだろうな

母を亡き者にしてほしいと王に頼んだ

王も拒否することなく実行して、危険な夜に馬車を走らせて……結果的に母は命を落とした」


沈黙が流れる

アステリは辛そうに表情を歪めながら話を続けた


「幸い当時の第一軍隊長のお蔭で遺体は回収された

民からも慕われてたから泣き崩れる人は多かったよ

…ただ俺は現実を受け入れるのが怖くて、その後荒れに荒れてた

自分の身すらも危険に晒して母の仇である魔物を倒してた」


「…それは何年前?」


「九年前だ

俺は十五になってなかったと思う」


衝撃的な過去を聞いて言葉が詰まる

アステリは十五歳にも満たない少年期に母を失い、さらに復讐の道に踏み込んでいたなんて


「俺は母を死なせた奴らを許せなかった

誰も信用できなくなって……死んでも良いって思ってた

でも、第一軍隊長の勧めで剣を学んで『守る』ってことを教えてもらった

『自分を大切にしないと誰も守れない』って……

それに王たちが嫌いなだけで国は好きなんだって気づかされた

だから第一軍に入って俺なりに守ろうと思った」


「………」


「でも、この前ミヤが隷属の腕輪を渡された時、どうしても思い出しちまった

また大切な人を失うことになるんじゃないかっていう恐怖を

…そしたら避けてた

不安にさせて悪かった

本当はミヤの傍に居たいし楽しく笑って喋ってたい

けど、また同じことが起きたら俺は…」


アステリの悲痛な独白に心を痛めると同時に、彼の傷ついた心を全て理解することはできないと痛感する

平和な世界で生きてきた私には想像すらできない痛みだろうから

それでも私は伝えたいことがあった


「確かに私は弱いし魔物と戦えるわけじゃない

みんなに、アステリに守ってもらってばかり

だけど私にもできることを探してる

私だってみんなのために、大切な人たちのために自分にできることをしたいから

失うことを恐れて何もしない、なんてしたくない」


アステリは目を見開いた


「だから、すぐには無理かもしれないけど、アステリも諦めないで

戦うことをやめないで

私はアステリの強さを知ってるから、信じてる」


アステリの瞳が少しずつ輝きを取り戻していく様子を見ながら続けた


「だからアステリも信じて

みんなのことも、私のことも

お互いに守り守られる存在なんだって認めて

もし戦えなくなったら遠慮なく言ってほしい

支えるくらいの筋力はつけておくから」


言い終わるとアステリは大きなため息を吐く

その姿は憑き物が落ちたように、どこか晴れやかに見え今にも笑い出しそうに肩が震えている

呆れと安堵が入り混じった表情で口を開いた


「……何だよ、それ」


苦笑しながら吐き出された言葉は軽口に近いものだった

アステリはまだ少し戸惑っている様子を見せていたけれど徐々に普段の調子を取り戻しているように感じる

それがとても嬉しいと思った


「アステリはやっぱり笑顔のほうが似合うよ」


私が微笑みかけると彼は目を丸くした後、頬を赤く染めた


「…あ〜、もう良いから

戻るぞ、そろそろ休憩も終わる頃だろ?」


照れ隠しなのか、早口で言い切ったアステリに手を引かれ歩き出す

その手は大きくて温かくて頼もしくて


「……ありがとな」


小さく微笑んだ

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