捕獲
翌日の夕方
少し早めに完成した腕輪をレモニーさんから受け取った
見せつけるようにつけ始めると、ちらほら第三の人たちを見かけるようになる
広めてくれることを願いつつ、とりあえずいつも通り何も知らないふりをして過ごしていく
昼は医務室で働き、夜は無防備に散歩をする
そんな生活を続けて二日が経つと手紙が届けられた
不審に思いつつ開いてみると簡潔な内容
そろそろ迎えに行く、とだけ
誰からなのかは分からない
だけど、これが隷属の腕輪の犯人からのものだというのは明らかで鳥肌が立った
「やっぱり来ましたか
わざわざ知らせてくるとは変なところで礼儀正しいですな」
フィトーさんと一緒にメガロスさん達に手紙を見せにいった
手紙から数日後に来ると推測され、いつ来るのか分からないから警戒を強める
セリーニさんにも魔力鳥を使って知らせ気持ちを落ち着かせる
腕輪の犯人は第二の方々が責任を持って捕まえてくれる
私はあくまで誘き出す餌だ
だから焦って怪しまれて逃げられないように注意する
そして手紙が来た日の夜
いつもより緊張しながら街を歩いていると突然後ろから声をかけられた
「おい、黒髪!」
振り返ると見覚えがある気がする男性が立っていた
ふんぞり返っている態度は隷属の腕輪を渡してきた人だろうと思う
まさかこんなに早く引っかかるとは思わなかった
腕輪をつけている私を見るなりニヤニヤと笑みを浮かべ、こちらへ近づいてきた
一歩近づかれる毎に恐怖を感じるが、なんとか表情に出ないように堪える
そして目の前まで来て見下される形になると、じっと顔を見られる
私はなるべく平静を保ちながら彼の視線に耐えた
「ようやく付けてくれたんだな」
彼は満足気に頷くと私に手を差し出した
手を繋げば捕まってしまうだろう
そんな事は絶対にしたくなかった私は距離を取った
すると途端に苛立ったように眉間に皺を寄せる
「何してんだよ!
とっとと行くぞ!」
その言葉とともに私の腕を掴もうとした
その瞬間、私は隠し持っていた笛を思い切り吹いた
高い音が響き渡ると、次の瞬間には周囲から複数の気配を感じた
あちこちから集まってきたらしい隊士達は男性を完全に包囲する
その光景に慌てて逃げようとしたが既に遅く逃げ道は塞がれていることに気づく
それでも諦めきれずに走り出すものの呆気なく捕まり拘束された
私はその光景を呆然と眺める
「怪我はありませんか?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
近寄ってきたメガロスさんにお礼を言いながら安心感に浸っているとフィトーさん達が走ってくるのが見えた
ルルーディに抱きつかれ、みんなに声をかけられて私は嬉しくなった
犯人が連行されていく姿を見送りながら今日まであったことを思い返す
「犯人を捕まえるためとはいえ、こんな危険なことをさせて申し訳なかったね」
「いえ、一人でも被害者が減るなら良かったです」
「本当に君は……
とりあえずお疲れ様、頑張ったね」
フィトーさんの優しい言葉に涙腺が緩みそうになったけれど堪えた
やっと終わったのだと実感して肩の力が抜けた
次の日、報告に来てくれたメガロスさんによると犯人は正式に逮捕され隷属の腕輪を製造、販売したことにより極刑が言い渡された
なぜ私だったのかと思っていたが、それは黒髪への差別が原因
黒髪で、女性だから何をしても良いと思ったらしい
簡単に操れると考えていたようだ
「獣人へもそうですが、かなり減ってきているはずなんです
ですがまだ昔の価値観を持っている人たちも少なからず居ますな」
メガロスさんがため息を吐きながら言った
家の周りの人たちも特に私が黒髪だから避けるなんてことはしていないし、むしろ優しく接してくれている
だから全く知らなかったし、どこの世界にもそういう人がいるのだと分かった
「製造していた場所はすでに押収しましたし、販売経路も特定し封鎖しました
腕輪を購入していた貴族たちやゴロツキ達の行方も追ってはいますが国外の者たちであれば捕らえるのは難しくなります
情報屋からある程度の情報は入手してますが、なかなか尻尾を出してくれないので困っているところです
改めて、ありがとうございました
ミヤさんが頑張ってくれなければ、さらなる犠牲者を出していただろう
感謝しております」
深々と頭を下げてくるメガロスさんに私は慌ててしまう
提案されてはいたけど私が始めたことでもある
気にしなくていいですよと言うと彼は苦笑しながら顔を上げてくれた
解散した時には真っ暗になっていた
今日は久しぶりにゆっくり眠れるかと思いながら廊下を歩く
「…え」
その途中で急に腕を引っ張られた
体勢が崩れて倒れそうになったところを、そのまま抱きしめられる
後ろからだから顔が見えなくて身を捩るも抜け出せない
困惑していると耳元で声が聞こえた
「……俺だ」
優しくて、それでいて寂しさが混じったような声色で言われたけど相手がアステリだと分かり安心して力を抜いた
でも今までこんな風に抱きしめられたことはないし、一体どうしてこんな状況になっているのか理解できなかった
「あ…アステリ、腕輪の件は無事に終わった、よ…」
困惑しながらもそう言うと、さらに強い力で抱きしめられる
身体に伝わってくる力強さに戸惑いつつも彼の腕の中で大人しくしていると、やがて解放された
振り返ればアステリが居たけど、月明かりで逆光になっていて表情がよく見えない
どうしたのか聞くと、ただ小さく首を振るだけで何も教えてくれない
私はもう一度口を開きかけて止めた
「……おやすみなさい」
私はそれだけ言うと踵を返して歩き出した
少し離れてから後ろを見たけど、そこに彼の姿はない
何が起こったのか分からず混乱して、しばらく立ち尽くしていた




