遠征
晴れた日の朝
今日は遠征についていくことになっている
初めてのことだし緊張しているけどアステリに言ったら適度に緊張は必要だが気楽に行けと言われた
自分の剣を持って集合場所である門へ急ぐ
みんなに挨拶を済ませアステリと共にマヴロスの背に乗ることになった
「全員居るな、出発するぞ!」
アステリの声とともに門から飛び出す
しばらくの間移動したところで止まり小休憩を挟んだ
今回の目的地は西の山の向こうにある湖
何かが潜んでいるという情報が送られてきたためだ
西の山に行くまでに二日
その向こうとなると半日かかるらしい
村などで滞在しない限りは野営になるという
西と聞くとセンテーフィさんを思い浮かべ、元気かななんて思いながらマヴロスを撫でる
それからまた進んで夕方になる頃に村に立ち寄ることができた
「宿取れました」
「よし、じゃあ今日はここで泊まって明日の朝には出発するぞ
長旅だからゆっくり休めよ」
アステリの声にみんなが元気に返事をする
案内された部屋の中は二人で寝るだけなら十分な広さだ
「リラさん、着替えないんですか?」
私と同室になったのは第一のリラさん
少ないけど第一に何人か居る女性隊士だ
ベッドに座ったものの彼女は軍服のままだった
「突然、魔物が来ることもありますから
備えておくことに越したことはありません」
確かに魔物っていつ来るか分からないしそういうことも考えられるなと思った
私も剣を携帯したままのほうが良いかなと思ったが、それは止められた
身支度を整えてアステリ達と合流して宿屋の食堂に向かう
上着を脱いでいるものの彼らも軍服のままだった
私だけ違うことしてたら失礼かもと思ってアステリに声をかける
「アステリ、私も軍服着たらダメかな?」
「…あぁ〜、そういうことか、良いよ別に
隊士としてついてきてるんじゃなくて同行者なんだから
それに、ここら辺の村は比較的安全だから心配しなくて良い」
「そうなの?」
「冒険者もここはよく使ってるんだ
だから寝るときはしっかり横になれよ
疲れが取れないんだからな」
確かに今まで訓練しかしてないし遠征に行くのは初めてだ
みんなが言ってることは間違っていないしリラさんの意見もアステリの意見もどちらも正しいと思う
じゃあお言葉に甘えようかなと言うとアステリ達は頷いてくれた
みんなで夕飯を食べてそれぞれの部屋に戻る
シャワー室に行って汗を流してからベッドに入って目を閉じた
休む時間はあったし鍛錬もできてないからあまり疲れてない
でもこの後のことも考えて私は早めに眠りについた
翌朝、早く目覚めて起き上がるとリラさんも起きていてちょうど洗面台から戻ってきたところだった
「おはようございます、朝早いんですね」
「おはようございます
いつもこの時間には起きてるんですよ
夜勤のこともありますし規則正しい生活が基本なので」
言われてみれば納得できた
食堂に行くとアステリ達がすでに座っていて、おはようと声をかけてくれた
おはようと返すと今日の行動について話される
しばらく休憩がないらしいのでしっかり食べておこうと思った
頼んだ朝食を食べ終え外に出ると、すでに出発準備を始めている人が数人居た
私も手伝えることはないかと訊いてから色々手伝った
「よし、行くか」
その後は順調に進み夕方には山の麓に到着できた
このまま野営の準備を始めたみんなを見つつ私は食事の準備に取りかかる
食材は好きに使って良いと言っていたから色々考えたものの暑いし生姜もあったから生姜焼きにしようと決めた
野菜も食べてもらうためにサラダとスープも作る
しばらくすると匂いに釣られたのか隊士達が集まってきた
「もう少し待ってくださいね」
と言うとみんな嬉しそうに返事をした
それから料理の仕上げをして味見をする
生姜焼きのタレが不安だったけど美味しく出来ていて安心した
「美味いっす!」
「なんだこれ、すごく美味いな……」
なんて歓喜の声が聴こえてくる
作った甲斐があったなと思いつつ、おかわりがあることを伝えれば全員が勢いよく皿を差し出した
気づけばお肉もサラダもスープも空で、もっと作っておけば良かったかなと思ってしまった
「ミヤさん、ごちそうさまでした
あとは我々がやっておきますから休んでください」
「良いんですか?」
「良い、寝て」
そう言ってカスタノさんは私の背中を押す
じゃあお願いしますと言ってテントに戻る途中、アステリを見つけた
仕事が溜まっているのか真剣な顔で書類を見ている
邪魔しちゃ悪いなと思いながらテントに入った
「お疲れ様です」
「お疲れさまです、リラさん」
リラさんは既に寝袋に入っていた
交代で火の番をしてくれるらしいから早めに寝るとのこと
目を閉じたリラさんが起きないように私も服を着替えて寝袋に入る
そういえば剣の練習ができていなかったから明日の朝にでもしようと決めてそのまま眠った
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そろそろ太陽が顔を出す
そんな時間だと思っているとミヤとリラが寝ているテントが開けられた
中から剣を持ったミヤが静かに出てくる
リラを起こさないようにか、と納得し声をかけた
「 …ビックリした、起こしちゃった?」
「いや、火の番してたからな」
「そっか、ありがとう
私は剣の練習をしようと思って」
そう言いながらミヤは自分の手元を見る
手伝うか? と訊いたが素振りと筋力増強のメニューをカフェティから与えられているらしい
それをするから大丈夫と言われ、頑張れよと返した
少し離れた場所で始めた彼女は真剣だった
その姿が美しかったのか俺はずっと見ていた
周りの音も聞こえなくなるほどに
どれくらい見ていたか分からない
「…軍隊長」
「うおっ⁉︎」
日が昇り後ろにカスタノとカフェティが立っていたことにすら気づかないほどに
俺としたことが、とため息を吐き腰に下げてある剣を握った
「危ないですよ
我々だったから良かったものの魔物だったらどうするんですか」
「…本当にな…」
「ミヤさんがこちらに来たときからずっと見守っていますよね」
「まぁ……そうだな」
否定はできない
だって事実だ
ミヤを最初に見つけたのは俺だ
不安や寂しさを表に出さず冷静に行動する彼女に興味を抱いたのは覚えてる
あの状況下でも冷静に判断できていたことに関心し、その後も彼女の働きぶりを目で追っていた
真面目で周りの評価も高い彼女を自分も高く評価している
それだけのはずだ
「…とりあえずミヤさんを呼んできます
そろそろ全員起きてくると思いますから」
「…頼んだ」
カフェティは剣を振り続けるミヤの方へ歩いて行った
自己嫌悪に陥りつつ切り替えて今日の行動を、もう一度見直す
その後は全員起きてきて食事の準備をしたりテントを片づけたり持ち運びの荷物をまとめたりした
簡単に食事はサンドイッチで済ませて湖に向かう
順調に進み昼前には到着した、が
「…妙ですね」
カフェティの言葉に緊張感が走る
ミヤがどうしたのかと訊くとカスタノが答えた
「何かが潜んでる、にしては静か、澄みすぎ」
カスタノの言葉に全員が周囲を警戒する
確かに湖の周りに居るのは俺たちだけで他に誰も居ないし生き物の気配もしない
これは魔物によるものなのか疑問を持ってしまうほどだった
すると探査魔法によって湖の中心部に魔力のようなものが漂っているのを感じ取った
「ちょっと見てくる」
そう言って俺は上着を脱ぎ湖に飛び込んだ
他には何も気配がなかったし水面にも変化が無かったからだ
潜ってみるも水の中も特に異常は無かった
…なんだ?
底に何か…
ふと湖の中心の底に何かが立っているのが見えた
泳いで近づいてみると、そこに居たのはなぜか俺だった
イスに座って目を閉じていたが、ふっと開けられ俺と視線が合う
瞬間、水が勢いよく押し寄せた
「くっ、ぅ……!」
強い水の力で息ができなくなる
そのまま水面まで押し上げられた
「アステリ!」
「軍隊長!」
必死に上がるとミヤ達が駆け寄ってきた
水を吸い込んだからか咽せる俺を引き上げてくれた
ミヤは俺の体を調べて怪我はないと分かると安心した表情を見せる
「…げほっげほっ……っ」
「軍隊長、いったい何が…、…⁉︎」
すると湖に向かってカフェティ達が剣を構えた
そこには湖の底で見た俺がイスごと水面に浮かんでいる
そしてミヤを見つめ
「会いたかったぞ、聖女」




