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ティルクアーズ

湖の上に突然現れたアステリにそっくりな男性

だけどすぐに姿がぼやけリラさんそっくりに姿が変わる


「会いたかったぞ、聖女」


そして赤い瞳が真っ直ぐ私を見つめる

この人は誰なのか

なんで私を聖女と呼ぶのか

人間なのかも分からない

色々訊きたいことが頭を巡り固まってしまっているとアステリが私を隠すように前に出た


「誰だ」


周りに居た第一の人たちも剣を構えた

私も倣って腰に差していた剣に手を伸ばす

それにリラさんにそっくりな女性は眉を寄せた

そして片手を上げる

すると水が鞭のように動きアステリを吹っ飛ばした

アステリは剣で受け止めるも木に叩きつけられる


「……っ…アステリ!」

「軍隊長っ!」


その水の鞭は第一の人たち全員にも振られ同じように叩きつけられる

全員意識があるみたいだけど倒れた場所で水に絡まれ動けなくなっていた


「妾は聖女と話したいのだ

そなたらには用は無い

邪魔をするな」


そう言ってリラさんそっくりな女性は無表情のまま私を見る

水の鞭は私では反応できなくて剣を抜けないまま取り上げられてしまった

私とは話をしてくれるみたいだけど何をどう切り出したら良いか分からない

今はみんなを助けた方が良いと思うけど下手に動いて大丈夫なのかも分からない

とりあえず敵意は感じなかった


「…アステリ達を離してください」


拳を握り恐る恐る言うと不愉快だと言わんばかりの表情を浮かべて私を睨んだ

怒らせちゃったみたいだけど、アステリ達を心配するのは仕方ないことだと思う


「何か用事があるんですよね」


「そうだ、聖女に頼みたいことがある」


「…なら彼らを解放してくれませんか

いきなり暴力を振るってくる人の頼みを聞けるほど私は優しくはないので」


そう言うと納得したのかアステリ達を自由にさせてくれた

すぐに駆け寄って、みんなの傷の具合を見る

叩きつけられた時に痛めたらしい何人かを診て治癒魔法をかける

その様子を女性は静かに見ていた

手当てが終わったことを確認すると再び、妾と話せと言った


「名前を教えてくれませんか?

あと、なんで私を聖女と呼ぶんですか?」


「妾はティルクアーズだ

なぜ聖女と呼ぶか、それは聖女だからだ」


質問が簡単すぎるのか不思議な答え方をしてきた

私は聖女だと公表していない

どこで聖属性が使えると知ったのだろうか

すると、みんなは目を丸くしてティルクアーズさんを見ていた


「まさか…水竜…⁉︎」


カフェティさんが驚いた表情のまま、そう言った

驚いている理由が分からず訊いてみる


「ラハニス様やグリーゾ様にも得意な属性魔法があるのはご存知ですよね?

その得意な属性に応じてドラゴンは精霊界の王を名乗っています

木と土ならラハニス様、闇ならグリーゾ様という風に

そして…そこに座っている方は水の精霊王、水竜ティルクアーズ

通称ウォータードラゴンと呼ばれる方です」


私は息を呑んだ

目の前にいる女性が水竜だということに信じられない思いが湧き上がる

ティルクアーズさんは静かに頷いた


「いかにも、妾は水竜だ

ウォータードラゴンと呼ばれるのは納得していないが

妾も瘴気の影響を受けていてな

最近聖女が現れ、この世界に清浄の波が戻り始めたことを知ったのよ

精霊たちの助けもあり妾も少しずつ回復はしていた……が、完全にはできない

そなたに妾の浄化を頼みたい」


ティルクアーズさんの視線は依然として私を捉えている

断る理由は無かったから頷いた

水竜の姿に戻ってもらってから触れていいか訊いて酷くなっている尾に触れる

浄化するとティルクアーズさんの身体に変化が見えた

リラさんに変身した彼女の頬などに一部鱗が生え、耳も魚のえらのようになっている


「あぁ…久しい感覚だ

やはりそなたが現れたのは天命であったのだな」


ティルクアーズさんは身体が軽いと嬉しそうに、その場で一回転した

安心しながら立ち上がると足に力が入らず倒れそうになる

それをアステリが支えてくれた


「ありがとう」


「…ほら」


アステリから魔力回復ポーションを渡され、ゆっくり飲み始める


「…ティルクアーズさん、もう一度訊いて良いですか?

私を聖女と呼ぶ理由を

それに、なんで湖の底に居たんですか?」


「聖女と呼ぶのはセンテーフィがそう呼んでいたからだ

聖属性が使える者を妾たちはそう呼ぶ

精霊たちも騒いでいたからな

それ以外に理由はない」


そっか、センテーフィさん

彼女に口止めというか、そこら辺のお願いしてなかったか

してたとしても王同士の話だから私たちには制御できない


「ここに居たのは単純に動けなくなっていたからだ

世界全ての水を通して妾は様々な場所を覗けるし移動できる

ゆえに瘴気に蝕まれていく精霊たちの声をずっと聞いていて代わりに請け負ったことで動けなくなってな

精霊たちに頼み聖女が来るまで待つことにしたのだ」


どうやら何かが潜んでいるという情報は水の精霊たちがティルクアーズさんを助けるために流した情報らしい

教会の神官であれば精霊の声を聞くことができるから


「…その水を通したってのはどこまでなんだ?

まさか常に誰かを覗いたりしてるなんてことはないだろうな」


アステリの問いにティルクアーズさんは、そんな面倒なことはしないと言った

それは良かったとカフェティさん達が安堵した


「そう言えば名前を聞いていなかった、名は何と言う?」


「ミヤです」


「そうか……ミヤ、妾を救ってくれて感謝する

何かあれば遠慮なく呼んでくれ

水に話しかければ現れよう」


お礼を言うとティルクアーズさんは椅子から下りて私の前に立つ

私の顔を見つめると


「それで礼と言ってはなんだが妾と番にならないか?」


「…はっ⁉︎」


私よりもアステリが早く反応した

目を丸くしていた私を隠すようにティルクアーズさんの前に立つと彼女を睨む


「先程から思っていたが、そなた随分と妾に対して態度が悪いな

そなたはミヤと何の関係もないのだろう?

なら妾の伴侶を選んでも良いだろう

ミヤも嫌がっていないのだから」


その言葉を皮切りにアステリだけじゃなく後ろに居たカフェティさん達まで殺気立つ

どうしたのだろうと首を傾げつつ、止めたほうが良いのか悩んだ

ティルクアーズさんはそんなことに臆せず私の腕を引っ張り抱き寄せる


「あっ、おい!」

「ミヤさん!」


慌てる隊士達を見てティルクアーズさんは楽しそうに微笑んだ

からかって遊んでるだけらしい

ティルクアーズさんが後ろから私の頬に触れて唇をなぞる


「美しい娘との行為を望むことの何がいけない?」


そっくりに見えるからか妖艶に微笑むリラさんも綺麗だなと思った後、素朴な疑問をぶつけた


「質問なんですが…ティルクアーズさんって女性ですよね?

リラさんに変身したくらいだから…それでどうやって私と番になるんですか?

そもそも竜と人間って子どもできるんですか?」


「「……」」


疑問を投げかけた私に全員が唖然とした顔を向けていた

首を傾げればアステリもカフェティさん達も呆れた顔で苦笑している

一体何に呆れているんだろう


「……ミヤは本当に面白い

良いぞ、そういうところも気に入った」


そんなに面白いこと言ったかな、と首を傾げる


「答えよう

まず妾は両性、そなた相手でも問題ない

この姿のほうが話しやすいかと思っただけでな

それから竜でもドラゴンでも人間に産むことは可能だ

腹の中にできるのは卵の状態なのでな」


そう言ってティルクアーズさんは私のお腹を撫でる

へー、と自分のお腹を見ながら相槌を打った


「…おい、この娘大丈夫か⁉︎

嫌がる素振りも、恥ずかしがる素振りもないぞ⁉︎」


「俺らに言うな…」


「ミヤさん、そういうところあるんですよ…」


「……ミヤさんらしい」


そのやりとりを聞きながらティルクアーズさんの腕の中から抜け出すと彼女に向き直り頭を下げる


「ありがとうございます、勉強になりました

それと申し訳ありませんが番は遠慮させていただきます

今そういうことを考えていないので」


全員が驚いたような表情を浮かべていた

やっぱり呆れてるのかなと思っているとティルクアーズさんが噴き出して笑い始める

何がツボに入ったのか分からないがひとしきり笑うと、面白いと言った

結局番にならなくても協力は惜しまないと言ってくれたので、お願いしますと言った

剣を返してもらった後、帰ろうとするとあぁそうそう、とティルクアーズさんが一度引き留める


「今回そなたらの態度を責めようとは思っていない

聖女のために勇気を出して剣を抜いたのだ

誇って良いし、そなたらも気に入った

また遊ぼうな」


みんなは安堵の表情を浮かべていたけど最後のセリフで眉間に皺を寄せる

瞬間、泡に包まれてティルクアーズさんは消えた

静かな水面だけがそこにある

そういえばと疑問が浮かび湖を見つめる

水竜であるなら水属性が得意なのだから変身魔法を使えていたのは何故なのか

ラハニスなら知ってるかもしれない


「ミヤ、行くぞ」


今度訊いてみよう

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