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訓練

「…剣を教えてほしい…⁉︎」


夏至祭での騒ぎが落ち着いて数日が経ち、魔物の大きな被害報告がなく比較的平和に過ごしていたある日

医務室からの配達ではなく個人の用件で俺のところに来たミヤは驚くことを口にした

彼女はまっすぐ俺を見つめ真剣そのもので冗談ではないことは分かったが、当然その場に居た全員が目を丸くして彼女を見る


「…なんでまた突然そんなことを……」


「ここ数日考えてたの

攫われた時も魔物だった男性に襲われた時も…自分の身を守る最低限の心得を持ってたら、もう少しまともに動けていたんじゃないかって」


もちろん自分が戦いたいわけでも周りの助けになりたいわけでもないと弁解した

自分で自分の身を守れるくらいにはなりたいらしい

意思は固いらしく俺は腕を組み考える

確かにそうなれば危険な目に遭っても簡単には死ぬことはないだろう

ミヤにとって最善の選択であると同時に周囲から見れば異質とも言える提案だ

どう返答すべきか悩んでいるとクレムが挙手する


「教えてもいいと思います」


カスタノも賛同して手を上げるが俺は内心複雑だった

武器を持つということは命のやり取りをするリスクを増やすことになる

いくら浄化の力があっても安全ではないし本来の魔物が相手になる可能性もある

それでも彼女が本当に覚悟を決めているなら受け入れるべきなのだろう


「……分かった、教えるよ」


「本当…⁉︎」


「ただし条件がある

絶対無茶しないこと、それと毎日時間を作って短い時間でも剣を握ること

それから夜はしっかり寝ること」


ミヤは大きく首を縦に振り、ありがとうと言った

その様子を見ながら微笑ましいと思う一方で不安が募る

果たしてこれで良かったのかと自問自答してしまう

しかし今更後戻りすることはできない

なにより、ここまで言われたら断るほうが野暮というものだ

ならば全力で支えるのみだと自分に言い聞かせた



             ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



という話を巡回から戻ってから聞いて、最初は驚いて止めようとしたがミヤさんの意思は固いらしく軍隊長も渋々といった様子だった

初歩的なことから教えてほしいらしく、それなら俺が適任だと今日から指導することになった

まずは素振りから始めることにして訓練場へ移動して現在に至る


「剣を握るのは初めてですか?」


「はい、何もかも初めてです」


「では基本から教えますね

まずは構え方を覚えましょう」


剣を渡すと彼女は両手で持って真面目な表情を浮かべている

肩の力を抜くように言いながら正面で剣を持ち切っ先を相手に向ける

その姿勢を保ちつつ息を整える動作を教える


「こうやって構えたら、ゆっくり深呼吸してください

…………はい、上出来です」


彼女は俺の言葉に素直に従い何度も練習する

真面目すぎる性格が災いして疲労が蓄積していないか心配になるほど頑張っていた

その熱心さに敬意を払いながら俺も集中力を高めて指導に当たる

三十分ほど素振りをしたところで一旦休憩することにした


「疲れましたか?」


「はい…、思ってたより剣が重いです

カフェティさん達が軽々持ってたので錯覚してました」


「まだまだ序盤ですからね

筋肉がつきはじめると我々のように振れますよ」


「頑張ります…」


疲れを隠さずに座り込むも立ち上がろうとしている姿に苦笑しながら彼女の手元を観察する

素振りの際、体幹が安定しているところに基礎的な運動神経の良さが垣間見えた

おそらくセンスはあるから問題は筋力不足だろう


「今日はこれで終わりにしておきましょう」


「え、でも…」


「無理は禁物ですよ

明日からも続けるんですから基礎づくりが大事なんです」


ここで無理をさせて怪我をさせるわけにはいかないので厳しく言うもミヤさんは静かに納得する

その場で身体をほぐした後、一緒に医務室へ戻った

それから数週間が経った

ミヤさんは時間を作っては剣を振っている

自主練習も欠かさず最初は身体中が悲鳴を上げていたが最近ではだいぶ慣れてきたらしい

素振りだけでなく木刀を使った打ち込みも始めてみている


「そこ! 踏み込みが浅いです、もう一度!」


「っはい!」


必死に剣を振り下ろし諦めずに挑戦し続ける姿は賞賛に値する

何度目か分からない掛け声とともに打ち込みを続けた後


「今日はこの辺にしておきましょう」


「ありがとうございました…」


座り込みながら頭を下げた彼女の正面に俺も座った

汗を拭い呼吸を整える彼女と遠くからは鳥のさえずり

しばらく会話が途切れても気まずさは感じなかった

むしろこの静けさが心地良いとさえ思うほどだった

しかし、ある程度落ち着きを取り戻すとミヤさんは立ち上がる


「少しだけ素振りしてもいいですか?」


「大丈夫ですか?」


「はい、もう少しだけ」


そう答えると彼女は再び剣を構え、一人で黙々と素振りを始める

その姿はとても真剣で美しくもあり自然と俺の視線を惹き付けた

どこか遠くを見るような瞳が印象的で何を考えているのか気になる

だが彼女が自ら語らない限り聞くべきではないだろう

だから今はただ見守ることにした

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