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人型魔物

突然、大きな爆音が轟き地面が揺れ背後から何者かに腕を掴まれ、引き寄せられた

それはあの時の人型の魔物だった

ギザギザした歯を見せる笑顔に背筋が冷える

振り払おうとするが力が強くて抜け出せない

ルルーディとレモニーさんが応戦しようとしてくれたけど、私が居るからか魔法を放てず顔を顰めていた

腕を掴まれたまま上に上げられ足が地面から離れる

どうしようもない恐怖に襲われ血の気が引いた瞬間


【ーーシテ】


声が聞こえたと同時に目の前に氷が割って入った

魔物の腕が引き裂かれた拍子に私は宙を舞う

だけど地面に叩きつけられることはなかった

状況についていけず呆然としていると温もりを感じて我に返った

見上げると魔物を真っ直ぐ見据えるアステリが私の肩を抱いている


「もう大丈夫だ」


アステリは短くそう言い切ると私の身体を優しくレモニーさんとルルーディの方へ押し出した

すると魔物は狂った咆哮をあげながら鋭利な爪を立てて飛び込んでくる

未だに私を狙っているらしい

だけどアステリは冷静に氷を弾丸のように放ち視界を奪いつつ身を捻らせ横へ跳ぶと同時に追撃する

アステリの動きは滑らかで無駄がない

魔物が苛立ったように反撃してきても流れるような連撃で刃を突き立てると大きく仰け反った体躯の隙をつき蹴り飛ばした

そのうちに軍の人たちが集まり魔物は一気に劣勢になる

気づけば広場の避難は終わっているらしく私たち以外いなくなっていた


【ーーレ】


【ーーシテ】


そのたびに声が繰り返し響いた

誰なのか全く分からず、しかも聞こえているのは私だけみたいだった

隣に立つルルーディとレモニーさんは全く気づいていない様子だ

魔物が再びこちらに向かってくる様子を見せるとアステリ達はさらに激しい攻撃を繰り出して魔物との距離を詰める

多勢に無勢となった魔物は次第に追い込まれていくけど未だ諦めを感じさせず執拗なまでの執着心を見せていた

ついに決定的な一撃が魔物に加えられ倒れた瞬間、私は魔物と視線が合う



【ーーコロ、シテ…クレ】



はっきりと聞こえたその言葉を理解した瞬間、私は反射的に魔物へ駆け寄ろうとしてしまった

だけどレモニーさんが腕を掴んで制止する


「危ないですよ!」


「あ……」


ルルーディにも止められて心臓が暴れ馬のように脈打ちスカートを握りしめる

行っても邪魔になるだけだと思ったけどアステリがとどめを刺そうと剣を振り上げた向こうで魔物が泣いていることに気づいてしまった

目に涙を溜めて何かを諦めてしまったような


「…っ、アステリ待って!」


私の突然の言葉にアステリは振り上げた状態で固まる

周りに居たカフェティさん達も目を丸くして動きを止めた

すると魔物は息も絶え絶えに這いつくばった状態で私に近づく

みんなが止めようとしてくれたけど静止をかけた


「ミヤさん……?」


アステリはもちろん、レモニーさん達も心配そうに私を見つめる

一瞬で緊張した空気が流れたが誰一人として動くことはなかった

私が本気で言っていることが伝わったのかもしれない

アステリは少し眉をひそめたけれど私を見つめたまま動かない

私はゆっくりと近づき魔物を見下ろす姿勢で膝をついた


「苦しかったんですね…

気づかなくて、ごめんなさい」


私は伸ばされた魔物の手を両手で包むように握る

何を求められているのか分からないけどラハニス達を浄化した時と同じようにしてみる

濃く深く染み込んでしまった瘴気を全部消せるように深呼吸をした

光に包まれて徐々に魔物の身体が元の肌色になっていくと魔物になる前だろう人間の姿に戻っていた


「……アリ、がと」


彼は自分の手を、顔を確かめて最後にそう言いながら微笑み消えていった

残された静寂の中で私は深いため息を吐き出すとアステリが剣を鞘に納めながら問いかける


「ミヤ、どういうことだ?」


「…声が聞こえたの

殺してくれって、ずっと言ってた

ラハニス達みたいに私だけ聞こえてたみたい

泣いてるのも見えちゃって…それで」


「……」


「ごめんなさい、勝手な行動をしました」


立ち上がりアステリ達に頭を下げる

しっかりと謝罪の意味を込めて

アステリがどんな表情をしているのか見るのが怖いけど意を決して顔を上げた

予想とは違って瞳に浮かんでいるのは安堵の色だった

そして小さく息を吐き出し彼は頭を左右に振る


「いや……お前はよくやったよ

怪我はないな?」


優しい笑みを浮かべてくれる彼に安心しながらも何とも言えない気まずさを感じる

とはいえ、アステリはそれ以上何も言わなかったし他の隊士たちも同じだった

レモニーさんとルルーディは心配してくれていて抱きしめられた



             ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



夏至祭は静寂を取り戻していて篝火だけが名残惜しそうに揺れている

魔物もとい消滅した男性は持っている力のほとんどを使って魔法壁に穴を開け侵入したらしい

道理で外で会った時より弱くなっていたのだと合点がいった

負傷者の確認を第二に頼むも、ありがたいことに民たちは大きな怪我もなく無事だった

ルルーディとミヤが治療にあたってくれているから、すぐに収束するだろう

代わりに俺たちの誰もこの状況を完全に飲み込めていなかった


「…まさか、このような結末を迎えるとは思いませんでしたね」


「驚いた」


「そうだな…」


カフェティの言葉にカスタノと一緒に同意する

魔物の狙いは最初からミヤだった

それは襲うためではなく彼女の力を欲していたから

人間に戻りたくて浄化してほしかっただけだった

今まで見たことが無い現象が目の前で起こったことによって隊士たちは収束させるために動いているものの未だに混乱している様子だった

カフェティやクレム達以外の隊士たちにも緘口令をしようかと考える

彼らは今回初めてミヤの力を見たし契約書も書いていない


「ですが、この結果で良かったのではないでしょうか

彼も救われたのでしょう

魔物になってからの記憶は不明瞭でしょうが苦しんでいたことは理解できます」 


「まぁな……」


彼が最後に見せた感謝の言葉を思い出すと複雑な気持ちになる

忘れていたわけではないが魔物であっても元は人間なのだという事実が重くのしかかる

街道沿いに出てきていたのも俺たちには分からない理由があるんだろう

カフェティも同じことを考えているようで、顎に手を当てて難しい顔をしていた


「本当に不思議な力…」


カスタノが呟くもミヤ自身も自分の力について詳しいことは知らない

その疑問に答えられる者は誰もいない

できるとすれば女神たちくらいだろう

ただ、魔物を浄化することができる特別な能力を持っていることは間違いない

それだけでも十分すぎるほどの存在意義があった

だがそれは俺たちの都合でしかない


「いずれにせよ、今後の対策を考えねばなりませんね」


「ああ、そうだな」


俺は頷いて星空を見上げた

先程まで燃えていた篝火の煙が薄らと漂う夜空には星が輝いている

これから起きるであろう新たな問題に対して警戒を怠ってはならない

俺は怪我をしている人たちを治療するミヤを見つめた


「なんつーか危なっかしくて…放っておけないな」

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