兄妹
<ジュゼ=ファート>と<ファリ=ファール>の兄妹は、地方の豪商の妾の子としてこの世に生を受けた。
父親はただ自らの欲望を満たすために女性を囲っていただけの俗物だったが、母親は、かつてこの地方で大きな力を誇っていた貴族の末裔という身だった。
しかも、<英雄>の血統を受け継ぐ者でもあったのだ。
しかし、何代か前の当主が他の貴族との政争に敗れたことをきっかけに落ちぶれ、遂には爵位を金で譲渡するに至って、貴族であった事実を口にすることさえ憚られるようになってしまったのだという。
ちなみに、『爵位を金で譲渡』というのは、本来、認められない行為なのだが、要するに莫大な借金を肩代わりする見返りとして養子に迎え入れ、そうして合法的に爵位を譲り渡すという<裏ワザ>が使われたそうだ。
そこまで当時は追い詰められていたということだろう。
その後、本来の貴族だった者達は次々と家を追われて野に下り、そうして平民となった者達の子孫が、ジュゼ=ファートとファリ=ファールの母親ということである。
が、皮肉なことに母親が受け継いでいた<英雄の血>がここに来て発現。母親は家事が得意なだけの凡庸な人間だったが、息子と娘は、およそ人間としては規格外の才能を開花させたのだった。
ただ、その中で、ジュゼ=ファートは、
『貴族などという身分があるからこそ、祖先はそれに振り回されて道を踏み外した。つまり、貴族制度こそがこの悲劇の元凶である。ゆえに悲劇を繰り返させないためには、貴族制度を打破し、身分に振り回されない社会を築くべきである』
と考えるに至ったらしく、それが事の元凶であるらしい。
加えてジュゼ=ファートがやや先鋭的な発想を持つに至った原因の一つが、実の父親である豪商の存在だというのもあるだろう。
彼とファリ=ファールの血縁上の父親は、貴族に取り入って利権を思うがままにすることで莫大な富を築き、それにものを言わせて自身の欲望を叶えているという俗物なのだ。しかも、経済観念という部分が疎かったかつての当主を言葉巧みに誘導して借金まみれにしてその肩代わりする見返りとして養子に収まったのも、同じような豪商だったのだという。
だからジュゼ=ファートは、その<復讐>という意味でも、貴族社会を破壊したかったのかもしれない。
一方、ファリ=ファールは、兄に比べれば、ややお転婆な部分もあるもののずっと穏やかで気立ての優しい娘だった。
ただし、自分が『これ』と思った部分については頑として譲らない一面も持っていたのである。




