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20/21

太陽のなかで変わりゆく街並:6 夜明けの光のなかで僕らは水浴びをする

ものがそこにあろうとするっていう感情

そういう何でもないけど根本的で重要なこと

とりあえずそんなところから話を始めようと思う

僕はなんだかいいかなっていう想いで

久霧里さんの部屋に睡美名さんと声浴ノさんを呼んだ

別に乱交パーティーしたいわけじゃなくて

この地上において僕らはどういう風に生きることができるかって

ちゃんと意識しておきたいと思ったのだ

とは言ってもみんな緊張するよね

久霧里さんなんて外に出られるようになったとはいっても

僕以外の存在にずっと萎縮して緊張感満々

つまりは

四人とも石みたいに別個の存在になってぽつんと立っている

「たこ焼きでも作ろうか」

って言ったら

「お好み焼きのほうがよくない?」

って声浴ノさんが呟く

「私は寝てるからみんな好きにして」

って具合で久霧里さんがまず戦線離脱して

声浴ノさんからすれば睡美名さんは

あんた誰よって感じ

睡美名さんは声浴ノさんも久霧里さんも普通ではないと見抜いて

ひとりでふんふんと興奮している

でも石みたいになっている

それにちょっと安心する僕もいて

だって人間の地上生活ってさ

こういう石みたいなお互いを発見するところから始まっただろうし

そこに自分以外の何かがあるのなら

まずは自分とその何かが全く別の存在だって思えないと

人間になれないじゃん

僕らはだから

久霧里さんの部屋で今

こうやって立体的に立っている


 ◇


「とりあえずシャワーでも浴びますか」

って誰に対してってわけでもなく言ったら

「誰とセックスする気?」

って声浴ノさんがちょっと恐い

「じゃあ私が先に行こうかな」

なんて睡美名さんも挑発的なこと言うもんだから

その間で僕はちょっと困ってしまう

そうしたらいきなり布団から抜けだしてきた久霧里さんが

「私が先に入るよ」

ってすーっと風呂場に流れていった

やっぱり彼女の部屋にして正解だったと思う

声浴ノさんと睡美名さんはその様子を見ながら

ちょっと緊張が解けた感じ

しゃーーって水が流れる音が聞こえて

僕らはその力に引き寄せられるかのようにお互いを知っていく

そこでできそうになる隙間を埋めるのは久霧里さん

シャワーを浴びながら彼女は時々

「仲良くしてくださいね」

ってトーンの上がらない声でぼそぼそと言う

「あの子何?」

って声浴ノさんが訊いてくるから

「かわいいでしょ

 あとで手首も見てあげて」

って言うとちょっとだけ顔を赤くして

「分かった」

と引き下がる

「あの子はすごいわあ

 よく耐えられてるよねー」

と睡美名さんはだいぶ感激している

いつの間にか僕らは整列していて

まるで化学式みたいな気分だ

そこに裸の久霧里さんがやってきて

「私はどこに行けばいい?」

って訊いてくる

「僕らに足りないところかな」

と言うと

彼女は迷うことなく僕らの隙間に入ってきて

「なんだか楽しい」

と言うのだった


 ◇


だんだん慣れてくると

声浴ノさんが自慢の奔放さを発揮してきて

部屋中をうろうろとまわり始めた

「何も面白いものなんてないよ」

と久霧里さんは少しおどおどしていて

そんな彼女の肩を叩きながら

「取って食べられたりしないって」

と睡美名さんが励ましの言葉をかける

「やっぱりお好み焼きだよ」

と声浴ノさんが言うと

久霧里さんも睡美名さんもそれに賛成した

ものとものとの境界が曖昧になってきたかもしれない

でもそれって今はそんなに悪いことじゃないよね

もしかすると誰かは怒って部屋を出ていくかも

なんて心配していたけれど

ここにはちゃんと

みんなをしっかり繋ぎとめる力がある

最初はそれを久霧里さんが

今では睡美名さんが持ち前の変人さを発揮してその役をしている

あれ

でもこのなかだと

睡美名さんをそんなに変だと感じない

つまりやっぱり人間っていうのはこれが普通なんだよね

僕が声浴ノさんに惹かれるように

睡美名さんも彼女の意志に惹かれてきている

久霧里さんだってちょっとびくびくしながらだけど

このなかだったら何も自分を傷付けるものはないって感じている

空気みたいな存在って悪口みたいに使われるけれど

もっと違う捉え方もあるよね

気兼ねしないんだけど必要な存在

みたいな?

いやいや

空気ってそんな単純なものじゃない

分断を修復したり

満たしたり適度に圧迫してくれたりする

「どうしてもっと早く紹介してくれなかったのー?」

と睡美名さんが楽しそうに言うものだから

「最近になってようやくみんなの準備が整ったんだよ」

って返した

すると彼女はやけに首を大きく縦に振りながら

「なるほどね」

って納得してくれた


 ◇


お好み焼きと言っても

久霧里さんの部屋に大きなホットプレートなんてあるわけもなく

小さなフライパンで一枚ずつ焼くことにした

声浴ノさんが指示を出して

睡美名さんが具材を切って

久霧里さんが小さなボールで混ぜ合わせる

そのなかにみんなが時間の流れを感じていて

僕がフライパンで焼く段階になると

「これが生きるっていうことかー」

と示し合わせたかのように三人は一斉にそう言った

そうだよね

ホットプレートを使って電気で調理するよりも

直接火を使って焼くことができてよかったと思う

うまくひっくり返して

きれいに焼けた一枚を小さなお皿に乗せると

「四当分しよう」

って声浴ノさんが率先して言ってくれた

「私は少しでいいよ」

と久霧里さんは遠慮気味

「そんなこと言わずにー

 もっと太らないと抱いてもらえないよー」

なんて睡美名さんが恐ろしい発言をするものだから

僕はびっくりして声浴ノさんを振り返る

ふーんって感じの彼女の視線とぶつかってしまったので

「あー

 実は

 みんなとよくセックスしてるんだよねー」

と言うと

「そんなの知ってるよ

 でも

 それでもみんなとは仲良くしていけそう」

って声浴ノさんは言ってくれて

僕はそれが本当に嬉しくて

次のお好み焼きを焼きながら

ぼろぼろと泣いてしまった


 ◇


一枚のお好み焼きが分断されて四枚になると

やっぱり僕らはそれぞれの存在なんだなって感じる

それに伴って久霧里さんの部屋が少し広がった気がする

「光よ

 光がね

 私たちを一人ひとり照らしてくれて

 その存在を大きくしてくれているのよ」

と言う睡美名さんはなんだか

今までに見たことがないくらいお姉さんっぽい

「久霧里さんは今までずっと暗いところにいたんでしょ」

「そうです

 それが楽な気もしますし

 恐い気もするんです

 でも今は光があってよかったと思っています」

僕は次々にお好み焼きを焼いていく

それらは声浴ノさんの指導のもとに次々と分断されていって

僕ら一人ひとりはその度に自分を強く感じ始める

僕らの意識が大きくなっていったら

どこかでぶつかるかもしれない

なんていうのはたぶん杞憂

光って賢いんだってことはもうずっと前から知っている

僕らがそれに誘われて大きくなっていくとすれば

ぶつからないような調整までちゃんと光はしてくれる

だからここでは自由に広がりたいように広がればいいし

好きなことをやってもらえればいい

三人ともとっても楽しそうにお好み焼きを食べている

睡美名さんが笑うのは知っていたけど

久霧里さんがあんなに笑うの初めて見た

なんだとってもかわいい笑顔をするんだな

声浴ノさんも笑ってる

きっと僕も今

笑っている


 ◇


お好み焼きに分断された光によって

僕らはようやくお互いの顔をはっきり見られるようになった

すると今度は互いのことをもっと知りたくなってくるもので

やっぱり話好きの睡美名さんが先導を切って

お互いのこれまでを話し始めた

一番みんなに興味を示したのは久霧里さんで

食い入るように二人の話を聴いている

そして今度はここに音が生まれる

音って光よりも秩序があって

きれいに並んでいるように見えるけれど

ここにある本質はやっぱり分断すること

僕らは音のなかで音と共に生きているから

きっと三人の会話はひとつの音楽みたいなものだ

僕の細胞だって音楽的に並んでいるし

今テーブルを囲んで三人が座っている場所だって

やっぱり音楽的だと思う

ハーモニーって合うことが根底ではなくて

分かれることが本質だって気が付いたら

僕らの世界はもっともっと住みやすくなるんじゃないかな

声浴ノさんと目が合った

「この子すごく面白い

 これが本当の命だよ!」

すごい

声浴ノさんの目が生き生きしている

そうだね

僕らの社会に足りないものは

ちゃんとした音楽なのかもしれない


 ◇


たぶん声浴ノさんはもともとがリーダー気質

分断した音楽だって指揮者がいるからきれいにまとまる

僕は彼女が「命」って言った時

分断されて生まれたあらゆるものを繋げられるとしたら

それは声浴ノさんの力でだろうなって気持ちになった

久霧里さんはすっかり彼女に懐いているし

姉御肌の睡美名さんも声浴ノさんに一目置いている感じ

そしてこのまとまりが生まれるとしたら

それは久霧里さんの部屋以外にないだろうな

って思った僕の直感はどうやら正しかったみたいだ

今日はここで四人並んで寝ることにしよう

もうそれを拒んだりする人はいない

それで夜明けの光が窓から差し込んできたら

今度はみんなそろってシャワーを浴びよう

ねえ

香奈理子

僕はようやく

君からもらったものを使う準備ができてきたみたいだ


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