太陽のなかで変わりゆく街並:5 もうむしろ星になる勢いでそこで意識を保つこと
睡美名さんが言っていた
星に見られているっていう感覚はきっと真っ当で
僕らはそれによる影響をずっと受けている
もちろんそれは悪いことなんかじゃない
人間がたったひとりでこの地上を生きられるのかと言ったら
そんなことはもちろん不可能で
だからそれに対して僕らは望めばいつだって
自分の内側から星々による力が溢れてくる
って気持ちになることができる
きっと久霧里さんも睡美名さんも
もちろん声浴ノさんだって星占いなんか信じないだろうけど
星をうまく使うということは大切だし
それができないと何をやってもうまくいかないってことは
みんなそれぞれに経験してきている
例えば月は清浄なものも穢れているものも持っていて
その上での厳格な判断を与えてくれる
地球からの距離もそうだけど
月って僕らに一番近い存在だから
一番頼りやすいっていうのもある
でも久霧里さんみたいな敏感で繊細な心だったら
そこに何か悪いものもあるんじゃないかって直感が働くんだろうね
彼女は昼間が大嫌いだったけれど
それ以上に月の晩には戦慄していた
かと思えば太陽が苦手だからやっぱり月を頼ることになっちゃって
なんだかそれって
結局言うことを聞くしかない性奴隷みたいな感じだ
睡美名さんは月のことをいつも主役になれない主役って言う
「昔はお月さまだって信仰対象だったでしょ
今だってそうしてるとこあるけど
だんぜん太陽のほうが優勢だし」
太陽が翳ると月になるんじゃなくて
むしろ強固な大地になってしまう
だからそのために月が出てくるんだって話がある
月の光って月の優しさでもあるし
太陽の本来は物質の形ではなくて掴めない光なんだ
って気持ちを思い出させてくれる
久霧里さんは無事にお月さま依存を卒業
ふっと思うことがあるけれど
彼女の故郷はやっぱり月じゃなくて太陽だな
◇
えーと
水星の場所ってよく金星と間違う
まあ早いのが水星だよね
伝令役とか情報収集とか郵便屋さんとか
そんなイメージがあるけれど
だんだんスパイっぽくなってきてこれって物質的
情報通と言えば睡美名さんで
彼女の感情が捉える普通じゃないもの以外にも
いろんな町情報を教えてくれる
こういうところ
上司にも気に入られているのかもしれない
頭が良くて小回りが利いてってなかなか優秀
だけど新しいものと古いものの区別ってどうやってつけるんだろう
睡美名さんは新しいものが好きってイメージあるけれど
同時に古いものも大切にしているよね
この役回りって久霧里さんには絶対無理
殺す気かって怒られそう
声浴ノさんはどうかな
こういうところは睡美名さんと合わないだろうな
でも男に関して言えば声浴ノさんも水星かも
そういえばもうセックスしたいと思わないなんて言ってたっけ
それでもまた男とセックスすることがあるんだろうな
人間ってどっちつかずなことあるじゃん
それって水星の悪い影響なのかもしれない
固まるでもなく流れるでもない
力押ししようとすると細かくばらばらに弾け飛んで
また引き寄せられるように集まってきて元に戻る
だけどいろんな人や物とくっつくこともできて
そうやってそのものの特徴をさらに強化していく
新しい睡美名さんの目
そこには間違いなく水星がいる
彼女の素早さに僕は翻弄されそうになるけれど
多分僕は彼女についていかなくていい
僕がどっしりすればするほど
彼女の目はきらきら輝きだす
◇
金星ってやっぱりヴィーナスのイメージが強くて
何においてもまず恋愛
これってやっぱり声浴ノさんでしょ
彼女を罰するのは物作りを祖先とする物質主義だけで
やっぱり声浴ノさんは間違ってないと思うんだよね
だって彼女はただ探していただけ
それもせずに後からぶーぶー文句だけ言うのおかしくない?
うまくいかないのが人生だなんて言いだすと
僕らはいつになればまっとうな人間になれるんだろう
久霧里さんも睡美名さんもそのあたりに関しては寛容的
人間の恋愛っていったい何なんだろう
まだまだ結婚するための方法ってみんな思ってるよね
それって結局のところ民族主義を脱していない証拠じゃないの?
いきなり結婚を否定ってところにいきたいわけじゃなくて
純粋な恋愛だけの恋愛ってのがあってもいいんじゃないの?
そのなかで
自分はまだ欠けているだけではなく醜くすらある
って気持ちを抱くことができたら
それが一番大切なことのようにも思える
ヴィーナスにとって結婚は縛るものではなかった
それは他の神様にとっても同じで
つまり
恋愛って体でするものじゃないよねってこと
でも男は精液をかけたがるし
女はそれを受け止めたがる
それも金星の誘惑なのかな
僕らは損得感情で物事を考えるけれど
思考の基準が愛になったら
僕らの存在ってもう少し神様に近付けるだろうな
つまり
義務感や利害関係を超えたところで
僕らは握手をしたいと願っている
◇
太陽の輝きってこの地上で比べるものがあるとしたら
それは間違いなく金だよね
銅や銀には申し訳ないんだけど
崇高な金の思い出が色褪せていって
「やつら」の魔の手に捕まってしまった人間は
銅や銀にも通貨という価値を与えて経済を出発させた
でも僕らは忘れちゃいけない
金である太陽はそもそも全てを照らしているってこと
それがもともとのお金のあり方で
誰かを貶めたり
自分だけいい思いをしたり
優劣を付けたりするために経済があるんじゃなくて
王様のもとにみんなが助け合っていくためにお金があるってこと
「やつら」はいつも「大金持ちにしてやるぞ」って囁いてくる
でも僕は「お金なんていらなくしてやるよ」って言いたい
ああ
太陽が眩しいなあ
雨の後に僕が求めたものはこの光だったけど
なんだろう
これって人間も持っているよね
少なくともその小さな芽みたいなのがあって
それが土のなか水のなか風のなかを通り抜けて
陽の光のなかで豊かな実を結ぶっていう気持ちが
僕の今日の食事をいっそうおいしくしてくれる
気付いてなかったけど
日本人が手を合わせて「いただきます」って言うの
みんなやってるけどこれってひとつの儀式だよね
そんなのが日常のなかで普通に行われているってとこ
まだまだ日本ってすごいじゃんって思う
◇
火星はもうなんだか戦争のイメージ
あの赤い色がそういうのを彷彿とさせるんだろうけど
ここまでぴったりイメージつくのもすごいよね
火を撒き散らしながら大きな剣を振り回されているような
そんな気持ちになる
使命はきっと分断することかな
でもこの闘争心がなければ人間ってここまで来てないよね
鉄器で有名なヒッタイトは本当にすごいんだろうな
あの勢いで僕も進んでこられたかな
睡美名さんには時々感じることがある
ぶすぶすと火が燃えていて
そこから今できたばかりの刀を取り出して上司に斬りかかりそう
男と対峙している時の声浴ノさんだって
同じように燃えているんだろうな
いわゆる戦闘民族ってやつ?
でもそれって自分が前に進むためじゃない気がする
そうそう
そういう自己本位な火星ってすぐに嫌われるじゃん
なんだか目つきも悪そうで
ちょっと火星が気の毒に思えてくる
だってこの星をいいイメージで捉える人ってあんまりいないよね
何かれと言いながら結局社会は肉食より草食を求めていて
成功しても失敗しても肉食系は何だか距離を置かれがち
みんな基本の気分は「だるーい」とか「楽したーい」とかで
だけど「家畜みたいに扱うなよ」って文句を言う
もうなんか需要と供給が合ってないよね
こんな時に火星的な睡美名さんや声浴ノさんは
もちろん煙たがられたりするんだろうけど
でもね
彼女たちが持っている別の優しさってのを見て欲しいんだ
火星にだって優しいところがあるんだよってこと
だって
この強さがなければ
いったい誰がこの社会を壊していくの?
◇
ずいぶんと遠くまで来たなあ
ここは木星
この立派な佇まいはまさに老齢の為せる技
音の深みが違うというか
もう前にした時の圧倒的な感情の違いが半端じゃない
ここにあるのは
全てを成功に導く智慧だ
でも久霧里さんも睡美名さんも声浴ノさんも
なんだか木星からは遠い気がするなあ
みんなまだまだ若々しいってのも関係あるのかな
そりゃ久霧里さんなんて
一番木星を使いこなせていなかったし
でも彼女の長い引きこもり生活は
ひとつの木星だったって言えなくもないんじゃないかな
佇まいが
じゃなくて
そこで彼女が燻らせていたものは
自らの発展可能性だったし
それを通して久霧里さんが花開いたっていうのは
誰も疑う余地がない
そしてそれまでに一番内面と向き合ってきたのも久霧里さんで
だから
木星的な宇宙と一番近いのは彼女だと思う
基本的に久霧里さんの目はきらきらなんてしていないし
ちょっと暗くてなかまで見通せないんだけど
そんな暗い意識のなかで何かをはっきりさせようとする
ひとつの重たい意志みたいなものがある
僕は彼女に飲まれそうになるし
一番小さくて細くて暗いけれど
「ここには僕よりもはるかに大きな存在とその引力がある」
って気持ちになる
だって今だから分かるけれど
彼女は僕らのなかで
全てを調和させようと頑張ってくれているんだ
◇
一番遠いやつ
そうそう土星だよね
このなんだか重っ苦しくて
悪いことしか言わないっていうそんなイメージの星
でももちろん
久霧里さんも睡美名さんも声浴ノさんも
この土星をうまく使いこなして今に至っているんだよね
土星ってさ
自分の限界を教えてくれるじゃん
太陽系の一応の終点というか
ここから先はあなたの領域ではありませんよって
その先のことにまで手を出して辛い思いするのは無駄なことだし
でもその境界って人間は自分で認めたくないもので
そういう身の程知らずは土星の扱い下手ってやつ
自分がクズなら限界もあるし
限界を超えろなんてバカみたいな熱血する必要もないじゃん
でも社会は世界にある限界や壁っていうのはどんどん壊したい
みんな自分が変われば周りも変わるなんて思っているけど
それが正しいのは半分だろうな
だって土星的限界があるんだから
無理なものは無理なんだよね
苦悩の奴隷になんかなりたくないでしょ
それにそんなことして成長や意味もないでしょ
でもね
古い月に終わりがあったように
土星にだって終わりは来ると思うんだ
その時にはまた
この世界には僕の知らない喜びが溢れている
って気持ちで
みんなと星空を見たいと思う




