015
私は マリアと申します。この国 タラクシャで王女の地位にあるものです。
私は 勇者様こと ナオキ様を その・・・愛しております・・・。
その愛するナオキ様を探し 王城内を歩いていたところ 中庭の木陰で
居眠りしているのを見つけました。
『まったく、この人は・・・』
私は 隣に座り じっと見つめます。目を覚ます様子もないので 思い切って
頭を持ち上げ 膝枕をしてみました。
恥ずかしいです。
もう一度 彼を見つめ そっと髪をなでます。とても幸せそうな顔をしています。
きっと 他の人が見れば 私のほうが より幸せそうな顔をしていると
言うかもしれませんね。
出会った頃は 愛するどころか 憎みすらしていたのに どうして こんなに
愛してしまったのでしょうか・・・。
ナオキ様が召還される 少し前に 御前会議が開かれました。
王族 貴族 役人が集められ 召還の決議が取られたのです。叔父上は最後まで
反対されていましたが 召還が決定され その後 王族会議にて 詳細が決められました。
召還に際し 王族の命が必要なのです。私も王家の一員・・・実は私が
生贄になるつもりでした。ですが お母様が 生贄になることに 決まったのです。
その夜 私は お父様とお母様の部屋を訪れ 自分が代わると伝えると、
御二人は 見つめあい お母様は 何かを決意したように 私に語りかけてきました。
「マリア ありがとう。でもね 生贄は私でいいのですよ。今まで 内緒にしていたのですが 私は もう 長くないのです」
「えっ?」
「ごめんなさいね。大魔道師様の治癒、回復魔法でも 宮廷医師の治療でも私の病は
改善されませんでした。それどころか 日に日に 弱っていくのが自覚できるほどなのです」
「そ、そんな・・・」
確かに お母様は この半年ほど 床に臥せることが多かったのですが・・・
そこまで 深刻な事態だとは思いもしていませんでした。
「それに・・・我が子の死ぬところなど 見たくありません。これは 王族としては
失格なのかもしれませんが 母としては 当然の思いです。あなたも 妻となり やがて
母となりましょう。その時には 私の思いも理解できます」
「お母様・・・」
お母様は優しく微笑みながらも その目に宿る決意は 揺らぐものではない。
そう感じました。
その後 2日間は お父様とお母様と私、できるだけ同じ時間を過ごすようにし
3日目 私達家族は 召還の間の前に居ました。
お父様とお母様は 何か言葉を交わし 抱き合っていますが 私の耳には
届きませんでした。
私もお父様も 涙を止めることができませんでしたが お母様だけは
いつもの優しい笑みを浮かべていました。
「マリア、私は 王族の義務として 命を掛けるのではありません。私が命を掛けるのは
あなたの未来のためなのです。召還された勇者様のことは あなたに頼みますよ。
マリア、あなたの未来に幸 多きことを・・・」
お母様は 王妃ではなく 母として私のために最後の言葉を残し召還の間へと入って行き
私は扉にすがり 泣くことしかできませんでした。
しばらくすると 微かな振動と 扉の隙間から強い光が漏れてきましたが
それらもすぐに収まり 私とお父様は 召還の間へ入りました。
部屋の中には まだ、暖かさの残るお母様の遺体と 幼さを感じれる気を失った少年が
横たわっていました。
極秘裏に 気を失った少年とお母様の遺体は 運び出され その日のうちに
王妃が病死したこと 遺言として 国葬は開かれないこと 今より3日間
喪に服すことが 国民に言い渡されましたが、勇者様のことは まだ伏せられたままです。
次の日の朝 勇者様が目覚めたとの知らせを聞き 私とお父様は
彼の部屋へと急ぎました。
お父様は 「勇者として 異世界から召還したこと」 「勇者として 魔王を倒して欲しいこと」 「元の世界へ戻る方法はないこと」などを 説明したのですが
勇者様は 泣き叫び 元の世界へ返せとの一点張りで 話になりません。
お母様が命を掛けて召還したのに このお方は なんとも みっともなく
我がままなのかと 腹立たしくも思ったのですが お父様は
まだ、混乱されているのだろう 少し時間を与えようと 仰り 部屋を出ました。
その後 数日 私はお食事を運んだり 話しかけてみたりしたのですが
勇者様は ベッドで膝を抱え 俯き黙ったままで、お食事もほとんど
手をつけられていませんでした。
私は 本当にこの人が許せなくなってきたのです。
ある日
「この国は まだ、そうでもないですが 世界では物資不足で 食べることもできない
人たちがたくさん居ます。せめて、お食事くらいは ちゃんとお召し上がりになってください」
次の日からは お食事は ちゃんと 召し上がるようにはなりましたがそれでも
会話はありません。
召還から6日ほどたった日でしょうか 私は 何もしないことへの怒り
お母様を奪った憎しみが 溢れてしまい
「勇者様 私の母は つい先日 亡くなりました。母は最期のときまで 王妃として
王族として その責務を全うしました。勇者様も 勇者としての責務を果たしては
いかがでしょうか?」
その言葉に 初めて 勇者様は 反応を見せたのです。
「マリア様の お母さんは 最近 亡くなったのですね。辛いでしょう?
その気持ちは よくわかりますよ」
「勇者様も 近しい方を亡くされたのですか?」
「そうですね。学校で机を並べた友人 世話を焼きたがるくせに最後には いつも怒り出す幼馴染 生意気だけどほっとけない妹 優しい母 厳しい父 6日前に その全てを
失くしました。どうして 俺は 俺から全てを奪った人たちのために 戦わなくてはいけないのでしょうか?」
私は 言葉を失いかけ それでも必死に 取り繕うように 搾り出しました。
「ですが、その方たちは ちゃんと 向こうの世界で生きてらっしゃいますよ」
「もう会えないのなら 同じことでしょう?しかも ただの一言も告げることさえできずに ある日突然 居なくなったのです。変な言い方ですが ちゃんと死んでいれば
残された者も いつかは納得できるでしょうが 生きてるのか死んでるのかもわからなければ その者たちは いつまでも 苦しむことになる・・・
自分が元の世界に戻れないのも辛いですが 自分のせいで 残されたものを苦しめることになっているのが もっと 辛いです」
結局 私は言葉を失ってしまい 逃げるように 自分の部屋に戻ったのです。
私も勇者様と同じように 膝を抱えベッドに蹲ってしまいました。
『勇者様の仰ってることは 理解できます。ただ、それだと お母様は 命を掛けて
1人の少年を 拉致しただけになってします・・・
そ、そんなことは・・・・
それに 勇者様のことを 我侭な人だと思っていたのに 向こうの世界に残してきた方々のために 心を痛められていた・・・
私は どうすれば・・・』
頭の中で 同じ事がグルグル 回っていました。随分 時間がたち 食事を知らせに
侍女がやってきたので 食欲はなかったのですが 食堂へ向かいました。
お父様は 私の顔を見るなり 何かあったのかと 尋ねてきました。
私は きっと ひどい顔をしていたのでしょう。どうしていいのかわからなかったので
お父様に 勇者様との会話を包み隠さず 伝えました。
「勇者殿の言うことは もっともだ。だがな、王家の人間は 国民のためであれば
理不尽な命令を下さなければならないときもある。
しかも 事は我が国だけではなく 全世界のためでもある。
あれも 勇者殿の言ってる程度のことは 理解したうえで 命を掛けて 召還したのだ
母の思い 命を無駄にするな。
もし おまえが 辛いと申すのなら 勇者殿の世話係は 別の者にやらすが どうする?」
お母様の思い・・・・
「いえ、お父様 勇者様のお世話は お母様から 言い渡された 私の使命でございます。
最後まで 勤めさせてください」
「わかった。任せたぞ」
食事の後 部屋に戻り 考えました。今度は 膝など抱えていません。
どうすれば 勇者様に 立ち上がっていただけるか それだけを 必死に考えました。
次の日 私は 勇者様に 言いました。友達になってくださいと。
そうすれば 少なくとも 孤独ではなくなるのではないかと。
勇者様は 快諾してくださいました。そして 言われたのです。
「確かに いつまでも こうしてるわけには行かないだろうし それに、自分と同じように 全てを失い 苦しんでる人が この世界には たくさん居るのだろう。
自分には その気持ちがわかるのだから・・・」
勇者様は 自分のことより 他者のことで心を痛められている。
だからこそ 勇者なのだろう。
今にして思えば この時 私は 勇者様・・・ナオキ様のことを
好きになっていたのかもしれません。
そんなことを 思い出していると ナオキ様は目を覚まされました。
そして 私の顔を見るなり 言いました。
「どうしたの?幸せそうな顔をして?」




