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勇者と姫のそれから  作者: べるこさん
第3章 融合世界編
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 様子を確認しようと ドアを開こうとした瞬間 そのドアは 勢い良く開かれる。扉の向こう側に立っていたのは ボロボロと言うほどではないものの 薄汚れたメイド服を着た少女だった。


「ア、アンナ!?どうしてここに?」


「ナオキさま~~~~~」


 アンナは 目に涙を浮かべ 抱きつくと 追いかけてきた こまちは ジトッ とした目で睨んできた。


「お兄ちゃんの知り合い?」


「あ、ああ 知り合いと言うかなんと言うか・・・・と、兎に角 アンナ、離れようか・・・・言い難いのだけど ちょっと臭い・・・・」


 アンナは 飛び退くと 顔を真っ赤にして 抗議の視線を送ってきた。


「仕方ないじゃないですか!もう 一週間以上も お風呂に入ってないのですから・・・・淑女に対して 失礼ですわよ!!」


 こまちのジト目は 更に粘度が増している。


「お兄ちゃん・・・・馬鹿でしょ? 

はぁ・・・・ 兎に角 お兄ちゃん お風呂 沸かしてあげて 

えっと、アンナさんで良いのよね?話は お風呂に入って さっぱりしてからにしたら?

・・・・本当に ちょっと 臭いわよ・・・・」


 アンナは 自分の両腕を クンクンと交互に嗅いで 顔をしかめながら 頷いた。


「・・・・そうさせてもらいます」



 アンナを部屋に残し 風呂場に来た。あの日から 結構な日数が経っているが 未だにライフラインは復旧していない。一部の地区では 電力は復旧しているらしいが それでも 時間帯の制限がある。ガス 水道 通信などはまだ、目処も立っていない。

 では、どうやって風呂を沸かすのか?

 答えは簡単だ。魔法で 水を出し その水を魔法で暖めるのだ。

 俺ほどの力があれば 風呂を入れるなど 児戯に等しい。だが、勇者の力を 湯沸し器代わりに使っているのが どうにも 遣る瀬無い。

 準備ができたところで アンナを呼びに行く。


「アンナ、準備できたぞ」


「はい、ありがとうございます。それと、これを」


 アンナは突然スカートをたくし上げる。アンナの行動に どぎまぎしながらも 慌てて視線を反らし俺が声を出すよりも早く アンナは 同じ言葉を口にした。


「ナオキ様、これを。陛下からです」


 意味が分からず 視線を戻すと スカートは元の位置に戻り 代わりに 手には一通の手紙らしきものを持っている。

 受けとると それはやはり手紙で 王家の紋章が押された蝋で封がされている。

 それにしても この手紙・・・・なんんだか 生暖かい・・・・。一体 どこに仕舞われていたのだろう?

 変な妄想を膨らませていると アンナが不思議そうに 見詰めている。コホンと わざとらしい咳払いを挟み アンナに問いかけた。


「陛下がこれを俺に?」


 アンナは頷く。

 気になるところだが アンナが近くにいると 目がシバシバする・・・・微妙に臭くて 集中できない・・・・。取り敢えず 風呂に入ってもらおう。

 アンナを風呂まで送ると 脱衣場の前でこまちが 仁王立ちしている。


「お前 何をしてるんだ?」


「何をって 決まっているじゃない。お兄ちゃんが覗かないように見張っているのよ!」


何故かドヤ顔のこまちは放置し部屋へと戻る。

もう一度 手紙を確認し ペーパーナイフで封を開き 中の紙を取り出した。

読んでいる最中 自分が震えていることに自覚する。そして、改めて もう一度 読み返し 自分の衝動を抑えることができずに 手紙を握り締めそのまま 机を叩き向けてしまった。





「お兄ちゃん 入るよ」


 こまちは 返事も待たずに中に入る。


「アンナさんに服を貸してあげてよ。私のじゃあ サイズが合わないから・・・・って あれ?」


 こまちは部屋を見回すが 直輝の姿は何処にもなかった。




 俺は タラクシャ王からの手紙を読み 怒りの感情に任せ WWA本部である 学校の地下へと転移していた。

 突然 姿を現し オペレーションルームは 騒然となる。いや 騒然となったのは 姿を現したからではない。表情と発せられている殺気のためだろう。只ならぬ様子の見て 踊子さんは声をかけてきた。


「な、直輝君、どうしたのだ・・・・そんなに 怖い顔をして・・・・?」


「踊子さんは どいてて、俺は 出雲さんに話しがあるんだ」


 踊子さんを押しのけ 進もうとすると 今度はメアリーさんが 立ちはだかる。この二人は WWAに用事があると 朝から家を空けていた。


「どうしたの?直輝さんらしくないわよ。私も含まれていたら嬉しいのだけど、まあ それは置くとしても 大切な人に そんな態度をとる人じゃなかったと思うけど?」


 冷静さを取り戻したとまでは言えないが それでも 頭に上った血の何パーセントかは 下がっていき 周囲を見渡すことはできた。

 見れば 俺の殺気に当てられ 震えている者 失禁している者 気を失っている者すらいる。それ程の殺気を 全身に受けても尚 俺の前に立って 宥めてくれようとした二人。


「踊子さん・・・・メアリーさん・・・・その・・・・ごめん、そしてありがとう。でも・・・・」


「でも 何だ?」


 出雲さんは 俺を睨みつけ 言った。


「出雲さん、俺やマリアの事を 騙していたのですか?」


「人聞きが悪いな。何を騙したと言うのだ」


「これは タラクシャ王から 今しがた送られてきた物です」


 意味が分からないと言う出雲さんに 握りつぶしてしまった手紙を 目の前の机に 叩き付ける。

 几帳面に しわを伸ばし手に取り読み始めた出雲さんの表情と顔色が 一気に変わっていく。


「馬鹿な!ありえない・・・・何かの間違いだろう!?」


 更に 手紙の入っていた 封筒も机の上に置く。


「王家の紋章が入った 封蝋です。それを 王宮侍女が持ってきたのです。間違いありませんよ」


「いや・・・・俺は知らないぞ!こんなこと 俺は知らない!!

く、くそっ・・・・白鷹・・・・

俺のことまで 利用しやがったのか!?」


 動揺し うわ言のように 呟く。こんな 出雲さんは 始めて見た。

 どうやら 本当に出雲さんも 知らされていなかったようだ。ここにきて ようやく 頭の血も 平常の量に戻ってきた。


「直輝君 その手紙 私達にも見せてもらっても良いかな?」


 頷くと 踊子さんは 呆然とする出雲さんの手から 手紙を抜き取り 読みはじめた。


「馬鹿な!?どうして 日本が タラクシャを侵略するのだ!」


 タラクシャ王からの手紙には 友好的交渉とは名ばかりで 日本の植民地になれと言う宣告がなされた事、聞き入れなければ 開戦も辞さない と脅されたことなどが記されていた。

 つまりは 事実上の宣戦布告がなされたのだ。


「出雲さん・・・・俺は 白鷹首相のところに行ってきます」


「ま、待て・・・・待ってくれ。俺も 俺も連れて行ってくれ!」


「どうしてですか?」


「日本の自衛隊が他国を侵略するなどあってはならないだろう。それに・・・・それに この事態の原因を作った者として こんなことを止める義務が俺にはあるはずだ」


 出雲さんは 利用されたことに腹も立っているのだろうが それ以上に当事者の一人として 責任を感じているのだと思う。

 それに 俺の力では戦うことしかできない。いや 他の使い方もあるのかもしれないが 俺にはその頭がない。白鷹首相とやりあうには 高度な交渉も必要なはずだ。


だったら


「分かりました。一緒に行きましょう」


 心配そうに 見ている 踊子さんとメアリーさん。その視線が 何を意味しているのかは分かるつもりだ。


「二人は留守番ね」


「だが!」


 食い下がる踊子さんの頭にそっと手をのせる。


「戦うような事にはならないだろうから 心配せずに待っていてよ」


 小さな子供をあやすような俺に 少しムッとしながらも 分かったと 言う二人。

 そして、俺と出雲さんは 先日 訪れた 総理と面会した部屋へ転移した。




 転移した部屋には 幸か不幸か 白鷹首相はいた。突然 現れた俺たちに 部屋のすみに待機していたSPほ 一瞬 呆けるもすぐさま 懐から拳銃を抜き 俺たちと首相の間に 割り込んでくる。


「何者だ!どこから入ってきた!?と、兎に角 ゆっくりと 床に伏せろ!!」


 さすがはプロだ。動揺もすぐに立てなおし 見事な動きを見せてくれた。

 戦いはないと踊子さんに言ったものの この人の排除は避けられないようだ。


「銃をしまいなさい。その人たちは私の客人だ」


 俺が動こうとするより早く総理はSPに言い放った。そして 手を振り退室を命じる。

 いくら総理の命とは言え 素性の知れない者を残し部屋を出るのは躊躇われたようだ。


「ですが、総理!」


 職務に忠実なSPに 冷たい視線で 無言の圧力をかけると SPは「何かありましたら すぐにお呼びください」と 言い残し部屋を出て行った。 


「よく来たね。でも 歓迎はしないよ。突然来られても困るのだよ。所定の手続きを踏んで事前にアポを取ってもらわないと」


 総理の表情は すでに 貼り付けたような笑顔だ。ついさっき見せた SPを睨みつけていた人間と 到底 同じ人物だとは思えない。


「俺を突然 タラクシャに送り込んだ人間の言葉とは思えませんね」


 嫌味に対しても 張り付けた笑顔はそのままだ。


「自分の信念に基づく行動だ。謝りはしないよ」


「信念・・・・?信念だと・・・・?」


 こいつは 何を言ってるのだ?信念?

 今まで 感じたことがないほどの怒りに 体が震えている・・・・。

 もし 出雲さんが 俺の肩を 痛いほどに掴んでいてくれなかったら 白鷹をどうにかしていたかもしれない。

 冷静なんて 程遠いが それでも 怒りの感情を言葉に変換することができた。


「信念って!他国に攻め込むことがあんたの信念なのか!!」


 総理の笑顔の面も このときばかりは 落ちてしまったようで驚きの表情となる。通信も移動も制限された現状 俺の知るはずのない情報を口にしたのだから 驚くのも無理はない。

 だが、それ以上に 驚いているのは 俺自身なのだ。

 俺は 日本に生まれ育ち この国の誇れることは 「他国を侵略するための軍隊を持たない」と言う事だと思っている。それを この国の指導者が簡単に覆したのだから 驚きを禁じえない。


戦争・・・・信念・・・・


 日本の信念とは 戦争をしないことじゃなかったのか?

 総理の年齢を考えれば 戦争を知らないはずだ。

 だけど 俺は知っている。地球の戦争は知らないが 異世界での戦争は 嫌と言うほど体験してきた。人間と魔王軍との戦争は 生身で戦う分 現代の戦争より凄惨なものだと思う。

 異世界に渡り 旅に出てすぐ 魔王軍に襲われた村を見たときの光景は 今でも忘れることはできない。筆舌に尽くし難い状況だった。見た瞬間に 胃の中のものを全てぶちまけてしまったほどだ。そこから しばらくは食べても もどし・・・・夜はうなされ・・・・そんな状況が続いた。

 異世界に渡る前でも 戦争は 人間同士が殺しあうのは 良くない事だと 頭では理解していたが 異世界に行った後は そのことを 心に刻み付けた。

 まさに 百聞は一見に如かず だ。

 だからこそ 異世界から帰ってきた俺は 「侵略するための軍隊を持たない」この国を 本当に誇りに思っていたのだ。


 総理は 驚きの顔も 貼り付けた笑顔も捨て 強い意思のこもった 視線で俺を見詰めている。


「私には 日本と日本人を守る義務がある。そのためなら 私は何でもやる。それが 私の信念だ!」


「それは そうだろう!あんたは 総理大臣なんだから。だけど それは 侵略する理由にはなってないだろ」


「これだから子供は・・・・まあ、子供とは言え 出雲君は分かっているようだがな」


 この程度のことも分からないのかと 侮蔑の色を濃くする総理。俺は戸惑い 名指しされた出雲さんを見ると 彼は 強く目を瞑り 苦悩の表情を浮かべ 手は痛々しいほどに握られている。


「出雲さん?」


「・・・・現在日本はライフラインが止まっているだけではない。交通も通信も麻痺している。農家が野菜を作っても 運ぶ手段がないのだ。更に 海がなくなり 地図も大きく変わっている。海運での輸送もなくなり 食料も石油もやってこない・・・・。食料も資源も乏しいわが国は すぐに干上がってしまう。今 やっている配給だって いつまでもつか・・・・」


 白鷹首相は 小さく頷いた。出雲さんの指摘は 総理の考えを正確に射抜いていたようだ。


だけど・・・・だからって・・・・


「だからって!侵略して 奪略していい理由にはならないだろ!」


「私とて 好き好んでこの様な手段に出たわけではないが、後世の歴史家が 私に最悪の評価を下したとしても 私は 今この時点で 間違った事をしているとは思っていない」


 まさに、信念


 白鷹首相の瞳に揺らぎは一切なかった。


「でも・・・・間違っている・・・・あなたは、戦争って物をわかってはいない」


「知ったような口を!もう既に 食糧の備蓄が尽きている自治体もある。余裕のある所から 回すにも 輸送手段がない。トラックや ヘリを集めれば その場凌ぎはできようが それらを動かすための燃料も もう入ってこない。備蓄分などすぐに使い果たし 出雲君の言う通り この国はすぐに干上がってしまう。

・・・・そうなれば 何が起こると思う?日本人同士が殺し合い奪い合いが起こる。奪い合うものがなくなれば 子供や 年寄り・・・・弱い者から 順に死んでいく・・・・。

兎に角 今は時間が必要なのだよ。貧しくとも自給できる体制を整えるための時間がね。その時間を稼ぐためには 物資をなんとしてでも手に入れなければならないのだ」


 長い長い沈黙が その場を支配する。まるで、時が凍りついたかのようだ。

 白鷹首相の言っている意味は分かる。理解できる。

 でも それでも 正しいとは思えない。

 俺は 異世界中を旅した。行く先々で 村が 街が 国が魔王軍により滅ぼされ 屍からは 死にたくない もっと生きたかったとの思念が渦巻いていた。

 世界がこの先どうなっていくかは分からないが 今 生きているこの世界が 人間同士で争い殺し合いをして・・・・俺はもう あんな思いをしたくはない。

 単なる 世間を知らない子供の我侭なのかもしれないが それでも 人間同士ならば 話し合い 助け合い 共存していく道だって 見出せるはずだ。


「それに どう足掻こうとも もう遅い。既に 戦端は開かれているのだよ」


 白鷹首相の言葉は 呟きとも取れる小さな声音であっただ 部屋に響き渡ったように聞こえた。

 彼の眼差しに揺らぎはないものの それでも 表情は 僅かに歪み苦悩の色を滲ませた。


この人は 自分の行動に間違いはないと確信しているが 正しいとは思っていないのではないのか?

違う道筋を示してやれば この人もあるいは?

被害が 大きくなれば 共存の道だって絶たれてしまう。会戦しているなら もう 手遅れなのかもしれないが・・・・でも 黙ってみているわけには いかない。

日本を守ることが 白鷹首相の信念なら この世界全てを守ることが 俺の信念だ!


「そうですか・・・・だったら 俺が止めてきますよ」


「無駄だ。もう 自衛隊は君たちに力を貸さない。それに WWAの本部や支部を急襲するように 先程 指示も出した」


 白鷹首相は 手元のキーボードを指差した。そして 続ける。


「歩いて向かったところで 着いたころには 決着はついているだろう。そもそも 君たちを 帰すつもりもないしな。まあ、行かせたとて 君たちのような子供に 何ができようか」


 言いたいことを言い終えたのか 白鷹首相は 手元のボタンを押すと 武装した 自衛官が 部屋に乗り込んできた。全ての銃口は俺と出雲さんに向けられている。


 俺は 白鷹首相を 見据え 口を開く。


「できますよ・・・・だって 俺は勇者ですから」


 そう言い残し 出雲さんを連れ 転移魔法を発動させた。



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