第11章 閑話休題 桜 ―4門亜と聖地巡礼
サイレンの音に、しまった、と思った。
白バイがもう後ろについている。あきらめて車を路肩に止めると、免許証を取り出した。……なんだろう。この警察官、圧がある。
警察官は白バイのメータを指さした。20㎞オーバーだ。続いて、青切符の「速度超過」の欄を示した。ドライバーは頭をがっくり垂れた。
そんなドライバーの姿を横目に警察官は慣れた手つきで青切符をサラサラ書き出した。
言葉がない分、怖い。
普通は一つ二つ説諭があるんじゃないのか?いや、もう大人だからしないのか?などと考えたりした。
それだけ怒っているのか?それだけ悪いことしたんだろうな。とぐるぐる考え、考え疲れると違反金どれくらいだろう。自動車だから高いんだろうな、などと考えたりした。
その時、ふと、警察官は車の中へ目線を移した。
いえ、いえ、別に変なものは積んでいないです。ビジュアルバンドのぬいぐるみをちょっと多く載せているだけです。
自作ですが、ぬいぐるみの中に変なものは入れていません。ドライバーは心の中で訴えた。ふつうの聖地巡礼です!
圧の強さに泣きそうになった。なんて日だろう。これで、職質になんかなったら、今日は運が悪いからきっと警察署に連れていかれるかもしれない。
警察官が目線をこちらに戻したとき、圧が緩んだような気がした。ペンを渡され、青切符のサイン欄を軽くたたいたので慌ててサインをした。
「気を付けて」
意外にハスキーな声が聞こえ、ドライバーは拍子抜けした。警察官は青切符と納付書を渡すと、バイクにまたがり去って行った。
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門亜は前を走る車を止めた。20㎞オーバーだ。雪が解けて路面が乾くとこういう車が増えて困る。門亜は呆れ混じりにため息をついた。
警察官を勧めてくれたのはすべっタローだ。基本、ペアで行動するし、交通機動隊に入ったならサングラスをかけられる。
サングラス越しなら相手の視線とぶつかっても痛くない。直接視線が触れ合わない分だけ、心の奥まで踏み込まれずに済む。だから、ボクはためらいなく視線を向けられる。
門亜は白バイのメータを指さした。ドライバーはがっくり肩を落とし免許証を差し出した。
免許証の情報を確認すると、青切符に書き込み始めた。無言のまま手を動かしながら、門亜はふと、うなだれたドライバーの肩越しに車の中に見慣れたものがあることに気が付いた。
――後部座席に髪の毛がカラフルなぬいぐるみが5体と4体おいてあった。
5体のうち1体はアイマスクをしている。そして助手席には、シスター姿にアイマスクをした……ボク???
思わずペンが一瞬だけ止まりそうになった。
目線を戻すと、ドライバーはさらに小さくなっている。ボクだと気づいていないよね?大丈夫だよね?早くこの場を離れよう。
青切符のサイン欄を指でさすとドライバーは素直にサインをしてくれた。
「気を付けて」
やっとの思いで声を出すと、白バイにまたがり発進した。嬉しいよな、恥ずかしいよな……複雑な気持ちで門亜はその場を去った。
知らないうちに、季節は流れていた。
カズヤも相変わらず、東京から帰ってきてはすぐに戻っていく。
居心地の良い、この今に浸かっていてもいいのかもしれない。
音環は再び空を仰いだ。吸い込まれそうな群青の空。まだ、吸い込まないで。
閑話休題の章、これで終わります。
次は終章です。




