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SAKIOTTE  作者: 群青 ひら
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第11章 閑話休題 桜 ―3大河とヒガンバナ

4月も少し経った頃、学校の行事が落ち着いてきた大河と空河が、練習に参加できるようになった。


SAKIOTTE、再開。


きっとしばらくは、まるで冬季通行止めのように、活動できない時期を見越して曲を作ったり、MVを作っていくのだろう。


音環がスタジオに着くと、大河と空河がYouTubeを見ていた。


「音環、再生数が結構行くな。なんか嬉しいな」


大河の声は弾んでいた。忙しくて見る暇がなくて今日やっと見れた、と続けた。


「これ、確か俺たち素顔だったような気がするけど、上からペイントしているのか。カズヤ、凄いな」


大河は夢中になってMVを見ていた。


2026デジタルとの邂逅。すべっタローの心の深淵に降りていくような、画面の向こうのクリエイターへの妄執とも言える偏愛を思わせる歌が、評判良かった。


私もこんな風に愛されたい、とか……。


いいが、すべっタローは夏の写真を見て冬の奥入瀬渓流に行こうとするような男だ。うっかり冬季通行止めの道路に連れ込まれるぞ。


カズヤの元に、収益化の誘いがあったらしい。


念を押したし、カズヤ自身、SAKIOTTEの一員でもあるから、解散になるようなことはしないはずだ。


ほかにも、リスナーからグッズ化の希望がいくつも出ていた。


今は簡単にグッズが作れるが……俺たち、副業は禁止です。なので自分で作ってください。


などと、音環が心の中でつぶやいていると、大河は逢瀬・1を聞いていた。


逢瀬・1はいいが……2は心して聞いた方がいいぞ。音環は、逢瀬・2を聞いた時の大河の表情を想像して、つい口元が緩んだ。


音環は自分のギターのセッティングを始めた。


――しばらくして、空河の大笑いする声がスタジオ中に響いた。振り向くと、大河の表情は完全に固まっていた。


逢瀬・2、最後まで聞いたな。


あれは、曲がオリジナルの状態でも刻々と変わって行って曲調も雰囲気も変わるから、ある一定の人に刺さったらしい。


映像も、俺たちセイレーンがガチですべっタローや大空兄弟に絡みつく。曲と相まって。熱心なファンが事細かに感想を書いてくれていた。


ただし。あれにはおまけ映像がある。


それは俺が大河を説教しているさなか、空河と門亜のリズム隊が合の手を入れる、我ながらひどい映像だ。


雰囲気台無し、とか、私のぐちゃぐちゃになった気持ち、責任取って、とか色々書かれているが……それをひっくるめてSAKIOTTEだ。


ふん。音環は黙々とギターの調整を始めた。




SAKIOTTEが活動を再開してしばらく。


少ない時間を使って、新曲のMVを2つアップロードさせた。一つはイメージ画だけで自分たちの映像がない「ひまわりの歌」。


そしてもう一つは、ただ桜を見上げているだけの映像の「花より団子」だった。


音環はYouTubeをイヤホンで聞きながらしばし、空を見上げた。


「花より団子」は門亜が書いた「てのがねぇ」をすべっタローが歌に仕上げて改題した曲だ。事件に巻き込まれて、手の届かないところへ行ってしまった幼馴染に送った歌。


納得いかないのは、ひまわりの歌だ。ゴッホのひまわりをモチーフにした歌だが歌詞を思い出すたび、音環は釈然としない思いを抱えた。


『君がいなくなった部屋には/一枚のゴッホの絵/それは黄みがかった朱色のヒガンバナ

昼下がりの日が射した壁は/何故かダークグリーンに染まっていた』


すべっタロー、俺の歌詞は「来る」とか言ってまるで呪いのように言っていたが、こっちの方がよほど呪いじゃないか。


どちらも彼岸を過ぎたからいいけどさ。音環は空を見上げた。高さを取り戻した青空を見ていると、引き込まれそうだ。


ある、日曜日のことだった。


「すまない。遅れた」


珍しく遅れてスタジオに入った音環が見たものは頭を抱える大河であった。面食らう音環に


「いや、この前の絵画コンクールに出す絵が、銀賞の子の絵にならざるを得なかったらしくて」


と空河が説明した。


「だってよ、模写の時間にとっても出来の良い『ゴッホのひまわり』を描いた子がいたから金賞を上げたんだよ。そしたら、花瓶にささっていたのはヒガンバナで……」


大河はそこまで言うと頭をがっくりたらした。


「壁も何となく暗いダークグリーンで……」


それ、完全に俺たちの『ひまわりの歌』の世界観じゃないか。音環はピンときた。


「あー。それで差し替え。」


音環の言葉に大河はうなずいた。


「なかなか外に表現しない子だったから、是非に絵画展に出したかったんだけどな……」


「赤いひまわりだって、言い張るとか」


のんきに言う空河を大河はきっとにらんだ。


「どう見てもあれはヒガンバナだ。校長と俺で児童と保護者に謝りに行ったよ。


いや…出してあげたかったよ。絵画展。保護者は『金賞もらえただけで十分です』って言ってくれたけどね……当人はにっこにこしているし」


はあ、と大河はため息をついた。


よくYouTubeを見ている、って言っていたし、きっとSAKIOTTEは俺が参加しているバンドだってわかっているんだろう。それだけに、大河の心は痛かった。


「ゴッホがひまわりじゃなく、ヒガンバナを描いていればよかったんだ!」


まさかの大河の言葉に空河も音環も凍り付いた。


ギターも握れない。ドラムもたたけない。そんな雰囲気にすべっタローは言った。


「じゃ、次の曲こそ子どもたちのために作るかな」


「「「「やめろって!」」」」


ベースの調整をしていた門亜も一緒になって言った。


ちょっと長めでしたが、一度に上げました。

次は門亜と聖地巡礼です。

いつもお付き合いくださりありがとうございます。


8/15追記 あとがきを修正しました。

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