第11章 閑話休題 桜 ―2音環と門亜
3月に入った、ある日曜日。
音環は門亜の家に行ってみた。大空兄弟は卒業式の準備や、成績表の準備で音楽活動が出来ない。音環が門亜にLINEを送ると非番だと返ってきた。
ガレージでは門亜がバイクから部品を外してはパーツの一つ一つを磨いていた。
大学の時に乗っていた400ccだった。雪の季節以外、通学で乗っていたと聞いている。バイクは夏にアルバイトをしたお金で買ったそうだ。
「白バイに乗っている間は、自分のバイクには乗れないんだっけ。……せつないな」
門亜はウェスを持つ手を動かしたまま、うん、とうなずいた。
「マフラーがすっげえきれいだなー。顔が映ってるよ」
門亜の後ろから音環がのぞき込むと、マフラーに2人の顔が映った。
しばらく、門亜の様子を見ていたら門亜が右ハンドルを指さして、握ったり離したりするようジェスチャーをした。
「こんな感じでいいのか?」
恐る恐る握ったり離したりすると門亜は小刻みに握って、最後に握る、のジェスチャーをした。
音環がまねすると今度は門亜からOKのジェスチャーが来た。
小刻みに握ってから最後に握る。最後に握った時に門亜は前輪のブレーキのあたりでボルトを緩めた。
ボルトの先につないだ透明なチューブから黄色い泡だった液体が出てくる。
もう一度、と来たので同じようにブレーキを握ったり離したりした。3回目が終わったところでブレーキシリンダーのふたを開けて静かにブレーキオイルを足した。
数回繰り返したところでチューブから透明な泡立ちの無い液体が出てきた。門亜はもういいよ、のしぐさをした。門亜はつぶやくように言った。
「ブレーキオイルは……1人で交換は難しいから……ありがとう」
「そんな時は呼んでくれよ」
門亜はニッと笑った。
ブレーキシリンダーのカバーをきっちり閉め、古いブレーキフルードはガレージの隅の空き缶に溜めた。
拭いたりオイルを片付けたりせわしなく動く門亜を音環は手伝いたかったが、下手に手伝ってバイクに傷をつけたりするのが怖かった。
しばらくすると、門亜はポットとマグカップを持ってきた。
ドリップバッグのコーヒーも二つ、袋に入ったままマグカップに入っていた。
「コーヒー、俺が入れようか?」
再び門亜はニッと笑った。
「そうだ、ここに来る間にこれ買ったんだっけ」
音環は季節が少し早い桜餅を袋から出した。そして、コーヒーを入れながら音環は言った。
「おれ、これ好きなんだよね」
工具を片付けて、手を濡れたウェスでふきながら門亜がやってきた。そして、桜餅にかぶりつくと満面の笑みになった。
おいしい桜餅と温かいコーヒー。青森の春はまだまだ先である。
お付き合いをくださりありがとうございます。
音環と門亜の章はここで終わりになります。
次は大河とヒガンバナの章です。




