第11章 閑話休題 桜 ―1音環とすべっタロー②
「逢瀬・2みたいに異なる奏法をぶつけるとか。凄いよな」
音環は思ったままを言った。すると、すべっタローは怪訝な顔をして音環を見た。
「何言ってるんだよ……『春になったら会いましょう』あれ、お前が最初に作った歌、あれが原点だぞ。しかも、その時の演奏が逢瀬・2の原点だ」
何だって?俺が作った歌がコミカルな曲の原点で、しかも、逢瀬・2の原点でもあるって?
「青春の落とし物、覚えていない?音環が昼飯代が入った財布を落として2日くらい昼飯抜きになった哀しさを歌った歌」
そう言うと、すべっタローの目が恨めしそうに光った。
「『じいさんに買ってもらった戦隊ものの財布も/その中に詰まるたくさんの思い出も/すべて手から離れていった』」
すべっタローは淡々と歌詞を読み上げていった。
音環は記憶の奥から、大切にしていた小銭入れを昼飯代ごと落としてしまった出来事が徐々に鮮明になって行ったのを感じた。そうだ、そんな歌、俺作った。
「あの時さ、俺、丁度家のりんご畑の手伝いをした小遣いが入った財布を落としててさ……すごくショックだったんだ。
しかもさ、その時に音環と大河が奏法の違いを合わせようなんて話していて、結局立ち消えることなく完成したんだぞ」
言われてみれば、逢瀬・2、どこか既視感があった。似たような曲があった記憶があったけど……これだったのか。
「財布は出て来たし、お金も無事だったんだけど……。
一緒に入れていたブルートゥースイヤホン、踏んづけられたんだか壊れてて、結局、その小遣い全額で買う羽目にあったんだ。本当は音楽プレーヤー買うつもりだったのに」
音環はだんだん恥ずかしくなってきた。あれ、色々悔しくて最後は悪乗りして大河と作り上げたんだったよね。恥ずかしいわ……まさに黒歴史。
「先輩に誘われた大学の学祭でよりによって、それを歌わされたんだよ。マジでつらかったよ。せっかく、農機具冷たい水で洗ったってのに」
ごめん……音環は笑い出した。知らなかったんだって。だからか。その年の文化祭で歌われなかったのって。俺も恥ずかしいから、それ、葬っていいわ。
「しかもさ、音環に歌詞を書かれると俺に『来る』んだよ。『2人並んで』覚えていない?」
すべっタローの言葉に、音環は記憶の引き出しを必死で開けていた。ごめん。自分で作ったらしいけど、覚えていない。
「青森の美しい風景を歌った後に、最後一言『2人滑って転ぶから、離れて歩こう』ってあったんだけど、その歌出来上がる直前に、普段は転ばない雪道で俺、何回も転んだんだよね。
買ったばかりの革パン破けるし。音環が書くとなんか呪われるから俺が書いているんだ」
……なんかひどくないか?すべっタローの話に音環は首をかしげた。財布を落としたのも、転んで革パンが破けたのも、俺のせいじゃない。
「あ、チャーハン冷めちゃった」
すべっタローは紅しょうがを追加して載せると掻き込んだ。
外に出るころには、音環は先週末の後悔はさっぱり消えていた。
すべっタローを誘ってよかった。音環は空を見上げた。周りの明かりが少ないせいか、駐車場で見る星はひときわ輝いて見えた。
「俺さ、実は北海道の畜産大学に行きたかったんだよね」
突然すべっタローが言った。
「え、すべっタローんとこ牛馬飼っていたっけ?」
「いや。下草食べてくれるかなと思って。それ言ったら母ちゃんに『りんご全部食べられてしまう!』って怒られた」
音環は噴出した。あまりにもすべっタローらしい話だった。
「明日、スタジオ来るよね。3月になっちゃうと、大河たち来れなくなっちゃうから、明日中に必要な分を撮るってカズヤ言っていたよ。
いよいよYouTubeデビューだね。楽しみだな」
すべっタローはワクワクしているようだった。確かにな。『2026デジタルとの邂逅』と『逢瀬』の1と2。3曲まとめて出すなんて、楽しみだ。
今日もこれから防音室で練習だな。音環は星を探しながら思った。
閑話休題の音環とすべっタローの回はここで終わりになります。
次は音環と門亜の話です。




