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SAKIOTTE  作者: 群青 ひら
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第10章 ジ様③

「軽トラでジ様たち、旅館に送るから」


すべっタローが言った。軽トラに戻ると、大河と空河の所に向かい、旅館へと移動するよう促した。


「色々と……よくわかんないんだけど」


音環はすべっタローの後をついて行きながら疑問を口にした。


どうして、すべっタローと大空兄弟のジ様たちが一緒に来たんだ?音環の質問に、すべっタローは、ん-。とどこから話したものか、と言う顔をした。


「グループチャットで、集合、って言っていたじゃん?だから音環の所に行ったんだけどいなかったから大河の所に行ったんだよ。そしたらジ様たちが慌てて出てきてさ」


そう言うと、すべっタローはげんなりした顔になった。


「さすまたもって家を出て行ったから自分たちも連れてけってせがまれてさ。


だからジ様たちを乗せて来たんだ。集合場所のスーパーにいなかったし結局ここまで連れてきてしまったって訳」


そして、両手で自分を抱え込みながら「ううう…寒いな。」とつぶやいた。


いや…外にいた時間が長い分、俺の方が寒い。と音環は言おうとした。でも。あの狭い軽トラに3人乗ってくるのは大変だったろう。


「それにしても、よくここが分かったな」


ありがとう、の代わりに口を突いて出た。


いつの間にか門亜が隣に来ていた。すべっタローは「あっ」という声を出した。


「門亜、ひどいよ~。グループチャットで俺の悪口言っていただろ」


「?」


わずかに聞こえた布ずれが、首をかしげたことを伝えていた。


「俺が轍に片足突っ込むたびに絶叫しただの、辞世の句を学んでおけばよかっただの…スマホにポンポン上がってくるからジ様にもバ様にも怒られっぱなしでさ」


「怒られっぱなし?」


「そう、怒られっぱなし。しまいには『音環、知らずに仏』って出てくるからバ様『音環ちゃん死んじゃったの~』って泣きだすし」


こらえきれずに音環は噴出した。門亜も声を押さえて笑っている。


「大河と空河は音環の車で行ったんでしょ。って言ったらそうだったわね、だって」


すべっタローは不満げに言った。


「それにしても、よくここが分かったな」


音環の言葉に、すべっタローはこともなげに言った。


「カズヤが仕込んでくれたんだよ。一回だけ使える隠しGPS。門亜にばれたらスマホから消すだろうから、大事の時に使えって」


「はぁ?!」


暗闇に門亜の声が響いた。その声に荷室にさすまたを片づけていた大河たちも振り向くほどだった。門亜は無言のまま、すべっタローの両腕をつかんだ。


……圧が、圧が強い。すべっタローは暗闇の中でも、門亜の圧の強さだけは感じていた。


軽トラの中ではジ様たちが騒いでいた。


断片的に「これから帰る」「早く車から出しなさい」と聞こえてきた。その様子に、大河たちが慌てて軽トラに走って戻ってきた。空河が滑る様子が見えた。


音環は頭を抱えた。いつも俺たちがあつまるとこうだ。あちらこちらで騒ぎが起こる。――今日はどんな夜になるだろう。音環はうんざりした。




朝。駐車場で、まずもめた。ジ様とバ様は大河たちと一緒に乗りたいという。


門亜は昨日のGPSの件ですべっタローを問いただしたいらしく、すべっタローは門亜以外を乗せると言い出した。


「俺の車は5人乗りだ!」


と、音環が何度言ったことか。


音環の頭の中ではオオカミとヤギとキャベツを対岸に渡すなぞなぞがぐるぐるしていた。あれは答えが出たが、これは答えが出ない。


結局、大河が


「すべっタローの軽トラに載ってきたんだから、ジ様たちはすべっタローの軽トラで」


と言うとジ様たちはしぶしぶ従った。すべっタローも何か言いたそうだったが


「門亜が乗りたいと言っているが?」


と大河が圧をかけたらあっさり決まってしまった。




昼前。外ヶ浜署に音環たちは寄った。


大空兄弟とそのジ様たち、門亜とすべっタローが一緒になるともめるので、すべっタローたちは先に帰ってもらった。


竜飛崎のジ様は警察署近くの旅館に泊まったそうだ。ジ様にお礼を言いに会いに行くと、電話をかけていた犯人のことを話し出した。


「昔、漁師になりたいと言って来ていたやつだった。続ければいい漁師になったのにな……」


つぶやくようにジ様は言った。


その寂しそうな横顔が、音環の心の底に澱のように沈んでいった。


ジ様に挨拶をすませたあと、応対してくれた警察官が「夕方でもいいから青森署に寄ってほしいと伝言があったよ」と教えてくれた。音環は本能的に嫌な予感がした。


明るい時間だからか。帰りの道はあっという間に蓬田までついてしまった。


昨日、あんなに横殴りの雪の中走ったのは何だったんだろう。あっけなさに音環は戸惑った。


どこかでご飯を食べていこうよ、と空河が言っていたが、結局コンビニで落ち着いた。


運転代わる?と空河が言ったが、音環はゼリー飲料を流し込みそのまま運転を続けた。早く帰りたかった。


でも、青森署に行かないといけない。明日に響かないといいけど……。




音環の予感は違う形で当たった。


まず、怒られた。


素人が、犯人を追い詰めるとは何事か、と。昼もだいぶ遅い時間に外ヶ浜を走るとは何事か、と。無事だからよかったものの、と言われた。


大人になって心配して怒られるのは初めてだ。こんなに怒られたのはいつぶりだろう。


そして、一つ頼まれごとをされた。写真が欲しい、とのことだった。


竜飛崎のジ様はある程度把握していたらしい。作業小屋の裏に見かけない箱が置いてある、と警察官に伝えた。


セダンに積み込まれたのは、その箱だった。警察署で慎重にその箱を開けると、中から現金の入った封筒がいくつも出てきたそうだ。


殺人未遂からオレオレ詐欺の容疑へ一段進んだ。


新聞に追いかけられたくなければ、写真をもらえないか、とのことだった。


仕方なく、皆でフードを深くかぶって写ったら、どちらが犯人か分からなくなってしまったそうだ。新聞記者が頭を抱えたらしい。




ああ。大きな力には無力だな。俺。音環は家に帰るとベッドになだれ込んだ。


分かったよ。あがくよ。あがいてみるよ。今のままで。


誰かに文句を言うように、音環は心の中で叫んだ。


10章はこれで終わります。

次は閑話休題です。

よろしくお願いします。

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