第10章 ジ様②
「大河!空河!」
軽トラから大空兄弟のジ様とバ様が下りてきた。そしてそれぞれに駆け寄ると、さすまたを一緒に押し込んだ。
「お~い!こっち~!」
軽トラが道をふさぐように停まると、運転席からすべっタローが下りてきた。
そして、懐中電灯を振ると、セダンを呼び込んだ。セダンは2台、滑るように駐車場に入ってきた。
2台のセダンから5-6人の警察官らしい男が下りてくると、押さえられている男たちがナイフを持っているのを確認して、その手に次々と手錠をかけていった。
最後に年長者らしい警察官が下りてきた。
ジ様は年長者の警察官に声をかけると、その警察官は慌てて若い警察官に、指示をした。ジ様は若い警察官を建物の裏へ連れて行った。
遅れて、1台のパトカーがやってきた。
制服を着た警察官が、もういいですよ、と音環たちに声をかけると、音環は持っていたさすまたを足元に置いた。そしてへたり込んだ。
建物の裏に回っていたジ様と警察官が戻ってきた。そして、その警察官は一番年上らしい警察官に耳打ちをした。
耳打ちをした警察官は、何か指示を受けたようだった。車の中からカメラとテープを取り出すと、もう1人の警察官とともに再び建物の裏へと戻っていった。
「この風じゃ……規制線も飛んで行くだろうがな」
つぶやく声が音環の耳にかすかに届いた。
――建物の裏でいくつか光がたかれるのを音環はぼんやり見ていた。
ふと、大河の誰かを叱るような声が聞こえた。声のする方向に音環が目を向けると、大河がジ様に言い聞かせているところだった。
「とにかく、寒いからすべっタローの車でいいから乗っていて。俺たちここからどこにも行かないから!」
「いや、早く家に帰らないと。寒いから帰りましょう」
話がかみ合っていないぞ。音環が見ていると、空河がまあ、まあ、となだめながら、すべっタローの軽トラにジ様とバ様を押し込んだ。
ところが。助手席の窓を開けて顔を出して何かしゃべっている。車の中は冷えるだろう。大空兄弟の思い、台無し。
男たちはすでにセダンに乗せられていた。
そして、何か話をしていたらしい門亜が、セダンの前でもじもじしているのが見えた。ふいに、すべっタローが年上の警察官に呼ばれた。
「ナイフを持って向かってきたことで捕まえたらしいから、事情が分かる誰か、一緒に外ヶ浜署へ来て欲しいって」
戻ってくるなり、すべっタローが言った。門亜は身内だからダメだって、と付け加えた。
「俺が行くとなると、他の数人乗せるようだけど。でも、今すぐは運転できないよ」
音環は言った。そして、大河は同調するように
「多分、俺たちが行くと、ジ様とバ様もついてくる」
ちら、と軽トラを見ながら言った。
「そう言えば、どの組み合わせで車に乗り合わせる?」
そう言いながら、ちらり、と空河が門亜を見ると、門亜は首を思いっきり横に振った。
だからってジ様とバ様を危険に合わせるのはなぁ。大河は頭を押さえた。
「ワシが行こう」
音環の後ろから声が聞こえた。音環と一緒にいたジ様だった。
「あと、向かいの旅館に話をしておくから、泊っていくといい。
冬の間は休業しているが、布団はあるだろう。後でコメだのなんだのを持って行くよう、母ちゃんに伝えておく」
助かるなぁ!音環は体が軽くなったような気がした。
夜に、海沿いの吹雪くところなんて走りたくない。しかも人を乗せて。同じ吹雪くのでも、昼間のほうがマシだ。
すべっタローが話をした警察官のところに行って伝えると、丁度その時、重たそうな箱を2人がかりで抱えた警察官が戻ってきた。
そのままトランクルームに積み込むと、セダンのリアが少し沈んだ。
あれの中に、詐欺で奪った現金とかがあるのかな?音環はセダンのリアが沈むのを眺めていた。滑りそうだ。
箱が積み込まれると、セダンには外に出ていた警察官が次々と乗った。そして、最後にパトカーにジ様が乗り込むと、次々と出て行った。
最後のパトカーが駐車場を出ていくと辺りは静けさに包まれた。
家の灯りでかろうじて人影が見えたが、気配しか感じられなかった。暗さに目が慣れてきたころ、旅館の主人だろうか。懐中電灯を揺らしてやってきた。
「とりあえず。行こうか」
音環は立ち上がった。コンクリートの上に座っていたので腰が冷たくなっていた。
震えが出ていたのを必死に抑えた。波しぶきがミストとなって静かに体を濡らしていたことに気が付いた。
駐車場に戻るとき、持っていたさすまたを荷室に戻した。がらん。さっきまで強力な相棒だったそれは、軽い金属音を立てるモノに戻っていた。
お付き合いをくださりありがとうございます。
もう少しでラストです。
感慨深いです。
感謝です。




