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SAKIOTTE  作者: 群青 ひら
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第8章 新しい音②

――ぼんやりと過ごしていたせいか、気が付くとカーテンの向こうではうっすらと闇が忍び寄っていた。


音環は部屋に置いていたアコースティックギターを持つと、2階の防音室に向かった。


防音室のエアコンを入れ、ソファーに座ると、軽く弦をはじき出した。


……同じ旋律が続く『戦場のメリークリスマス』じいさんが好きだった曲だ。じいさんの父親……ひいじいさんは戦争で亡くなったそうだ。


小さいころにはもういなかった、と言っていた。ひいばあさんは1人でじいさんを必死に育てたと聞いている。


そして、じいさんは早めに働きに出てばあさんと出会い……家族が出来たそうだ。家族を守りたくてこの家を建てたと聞いた。


ひいばあさんも一緒に暮らした。父親が生まれ、家族が増えたが……父親は家を出た後は帰ってこなかった。その代わりに俺が来た。


いつも、住んでいる人の数より部屋の数が多い家。じいさんはきっと、部屋の数だけ家族が欲しかったのだろう。


じいさん……この家を出たくないが、部屋の数が多いよ。


じいさん……。


――音環はギターを弾きながら、いつの間にか眠ってしまったようだった。防音室の薄いカーテンからは朝日が差し込んでいた。


……とりあえず、今日も片づけと、魚屋に行って今週食べる魚を買ってくるかな。


先のことはもう少し、考えてからにしよう。


音環は、リビングに降りると、ボイラーのスイッチを入れ、湯船に湯を張り出した。


――昼過ぎ。すべっタローからグループメッセージが届いた。


『昨日のセッション、カズヤに送ったら、逢瀬・2に書き換えてくれるって』


早速だな。音環は苦笑した。


昨日、何も言わずに帰ってしまった。気持ちをみんなに預けたままにしてしまった。悪いことをしたな……。


音環がメッセージを入れようとした途端、すべっタローからつららを2本、両手に持って『つららエクスカリバー二刀流』とコメントが入ったアイコンが送られてきた。


つららエクスカリバー、好きだな。いくつあるんだ?これ?


そう思いながら、音環は『昨日はすまなかった』とメッセージを送った。


大河と空河からは『いいってことよ』と返ってきた。門亜からはお大事に、と言う可愛らしいスタンプが送られてきた。


それにしても。昨日のセッションが新しい音楽になるとは思ってもみなかった。


そして、あれを再現しろと?おそらく、気分次第で楽器が入っては抜け、ボーカルは刻々と変わるメロディに対応する……そんな曲になるぞ。


どう譜面に起こし、映像に残すんだ?少なくとも、毎回音楽の流れが変わるぞ。あれは。


……楽しみだ。


心の隅で、ワクワクと湧き上がる気持ちが上がってくるのを感じていた。


まいったな。ふたを外したらタガまで外れそうだ。


その週の日曜日は、音環は1日中防音室でギターを弾いていた。


アコースティックギターの優しい音が、色々な気持ちを抱えた音環の心をなだめ、落ち着かせていた。ワクワクした気持ちと表裏一体に張り付いてくる「喪失」への恐れ。


MVが出来上がる嬉しさと、表裏一体に上がってくる「SAKIOTTEの変化」……それも存在期限だ。


今は、昨日のセッションのような奇跡的な音に出会えたことに感謝しよう。


喪失や存在期限が来るのは……そんなに遠くはないだろうが、明日明後日ではないだろう。自分から手放さない限り……。


音環はジプシー・キングスのインスピレーションを奏で始めた。




狂気のセッションから3日後。カズヤから譜面のデータが届いた。


最初に、音環、アルペジオ固定、大河、ストローク固定とわざわざ書かれていた。そして、各パートごとに基本のメロディとリズムが書かれている。


そして、アレンジパートもあった。


最終的にはその場の流れで出たり入ったり、アレンジを入れろ、とある。譜面の最後には大きく一言「それぞれが闘っていいが、音楽は壊すな」と書かれていた。


出だしは、大河と空河固定、とあった。


これ……例えていうなら大空兄弟が両端を持つ2本の大縄跳びにすべっタローだけじゃなく俺たちも飛び込めってことか?最初っから楽器同士も争っているじゃないか。


また、あのセイレーンの画像を使いたい、ともあった。


やれやれ。あの画像を使うのか。……どっちだ?大河を説教した時のやつを使うと、聞いている人の心を裏切るぞ。


音環は仕事を終えて家に帰ると防音室にこもった。次はいつ、と言う連絡がないが、今までのパターンで行けば2週間以内……10日後には音合わせだ。


カズヤの連絡からしばらくして、すべっタローからつららエクスカリバーを前において無念、と書かれたスタンプが届いた。


続いて、今週末はスタジオ取れなかった、とメッセージが入ってきた。


それじゃ、今週末はフリーだな。


ふと、音環は久しぶりに大河と話がしたくなった。俺と違って、何かしら一本筋が通っている。


あちこち見て最適解を見つけるのも悪くないが、やみくもに手を伸ばしている今……大河の定規にいったん合わせてみるのも手だ。


音環はスマホを取って大河にメッセージを送った。すると


『土曜日の午前中は用事があるからその後なら』


と返ってきた。そして


『空河はいる?いらない?』 


と続いた。うーん。2人っきりだと深刻になるから、ついでに来てもらうかな。……ついで、とは我ながらひどい言い方だな。


『どちらでも。空河の都合の良いほうで』


と音環は返した。すると、しばらくして


『空河も持っていく』


と大河から返ってきた。


持っていくって!音環はぷっと噴き出した。それじゃ、土曜の昼過ぎ、高校の時によく行ったファミレスで、と音環が返すとOKのスタンプが返ってきた。


改行のペース、スマホで確認をしたら、ちょっと大きな塊が出来ているをの確認しました。

お、お、お……。

雰囲気を壊さず、改行を心掛けましたが、今までと違うぞ、と思われた方、ごめんなさい。


いつもお付き合いくださりありがとうございます。

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